以下,本研究会資料として記述した.政策上,法律上,会計/税務上,福利厚生上の参照は,出典リンク先を確認ください.

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― 医療倫理の問題解決の視点

   ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)

 

― わが国の社会保障(医療保険)の概念・歴史的経過

    日本の歯科矯正医療の歴史

 正則英語と変則英語

 歯科医史学 概論

  史料

医学用語としての「歯科矯正」 に関連する語や記述

 1次史料からの検証

 いろいろな嚆矢:

   翻譯:土岐 頼徳(1872 明治5)啓蒙養生訓;齒列整はぬときの抜去

   翻譯:横瀬文彦/阿部弘国(1873 明治6)西洋養生論;歯列(ハナラビ)の用語
   翻譯:小林 義直(1875 明治8)四民須知養生浅説;歯列不整の用語
   翻譯:松本良順/澤田俊三(1876 明治09)育児小言;a double teeth.

   翻譯:高山 紀齋 (1881 明治14)保齒新論;irregularity of the teeth.
   翻譯:河田/大月 (1885 明治18)歯科全書;orthodontia.
   翻譯:小林 義直 (1889 明治22)歯科提要;orthodontishe behandlung.
   講義:青山松次郎(1890 明治24)高山齒科醫學院講義録 
   演説:榎本 積一 (1892 明治25)亂排齒矯正術(16歳女)の矯正例
   論文:八百枝康三(1896 明治29)鹺跌矯正ノ實験
   辞書:佐藤 運雄(1908 明治41) 醫學大辞書; orthodontia(歯科矯正術)
   学会:佐藤  久  (1918 大正7)

 翻訳者の出身地と交流

 歴史認識の齟齬はなぜ起こるのか

日本の「歯科矯正」の歴史認識

 歯科矯正史(1次史料)

 個別科学を受容した歴史的時期による背景(文献的流れ)

  歯科矯正の社会的受容への障害となった歴史的宿命

   1. 伝来と受容時期による宿命

   2. 戦争による宿命

   3. 健康の定義とグローバル化による変化

  フランス

  ドイツ

  イギリス

  アメリカにおける近代歯科矯正学

  日本:公的医療保障適用の経過と社会背景

 

― 提案されるべき医療技術  各学会の具体例

    医療技術評価提案書(保険未収載技術用)

    使用する医薬品,医療機器,又は体外診断用医薬品について

 

― 社会保障・公衆衛生・福祉と歯科矯正医療(欧州,北米,南米との比較)

    目的:すべての国民が健康で文化的な生活を送る

    障害の考え方 ICIDH / ICF

 

― 法令上における歯科矯正(不正咬合)の位置

    日本国憲法

    医療法

    歯科医師法

    総務省

       統計法 統計法第2条第9項に規定する統計基準,傷病および死因に関する分類(WHO国際疾病分類 ICD

       総務省告示

       学校保健統計調査における 「疾病・異常被患率 都道府県別 歯列・咬合の異常」

       ICDのABC

    文部科学省

       学校保健安全法

       学校保健安全法施行令

       学校保健安全法施行規則

       就学時健康診断票

       学校保健安全法第13条第1項,同 施行規則第3条第9項,文部科学省令にて規定された技術的基準

       日本学校歯科医会の定める「歯列・咬合の判定基準0,1,2」

        児童, 生徒, 学生, 幼児及び職員の健康診断の方法及び技術的基準の補足的事項

        及び健康診断票の様式例の取扱いについて

     厚生労働省

        健康増進法(平成十四年法律第百三号)第九条第一項に規定する健康診査等指針

     WHO:ユニバーサル・ヘルス・カレッジ

        子どもの権利条約(政府訳,日本ユニセフ訳)

 

― 健康の社会的決定要因について

   国民の健康の増進の総合的な推進を図るための基本的な方針

   健康日本21(第二次)最終評価報告書

    歯・口腔の健康

公衆衛生上の課題としての歯科矯正学

健康格差はなぜ不当なのか

 不平等に基づく不利益の是正要求の道徳的正当性を強める条件(玉手)

1. 深刻さ

2. 当人の選択の有無

3. 是正の可能性

4. 派生する影響の有無

5. 他の価値との比較 

   日本の公衆衛生システムへのOECDレビュー

 

   受益圏と受苦圏

   社会関係資本 social capital

 

— 社会問題としての歯科矯正 ‐ 現状の整理

社会問題とは何か Joel Best

 クレイム申立て

学校における児童生徒の健康格差といじめ

学校歯科健診における経済的配慮と医療倫理のジレンマ

歯科矯正医療へのアクセスの不平等

 メディア報道

不適切・無益な歯科矯正による医療訴訟

 国民の反応

全国自治体の意見書,国会答弁,請願

 政策形成

 社会ネットワーク

 政策の実行

 政策とその影響

 

― 医療提供体制について

   価値財/一般財

   皆保険/自由開業制/フリーアクセス/出来高払い

 

― わが国の公的医療保険(歯科矯正に関するもの)の流れ

 

― 子どもの権利条約 と こども基本法,我が国における医療としての歯科矯正

   子ども権利条約 こども基本法 こども家庭庁設置法 児童福祉法 子ども・若者育成支援推進法

 

— 歯科口腔保健の推進に関する法律(平成23年)

国民が健康で質の高い生活を営む上で基礎的かつ重要な政策から「歯科矯正」が除外されるのはなぜか?

 

― 学校における歯科健康教育(わが国の学校歯科健診制度との比較)

口腔保険プログラム

 ワシントンDC  ボストン大学  オレゴン州   カルフォルニア州   インド   クウェート

    いじめ,自尊心 QOL と 歯列不正との関係 システマティックレビュー

歯列矯正と いじめ について

実際の事例(医療制度と文化背景)

Quality of life とは何か?

歴史

歯科矯正医療の結果として共通認識すべきQOLはどこか?

QOL測定における尺度

口腔関連QOLのいろいろな尺度

矯正歯科とQOLの論文(年度順)

 

— 歯科矯正の費用対効果

歯科矯正に要する医療費の現状分析と将来

 

— 歯列・咬合の状態 に関する 政府統計調査

・ 学校歯科健診(学校保健安全法:学校保健統計調査)

   歯列・咬合の異常

・ 歯科疾患実態調査(厚生労働省;昭和32年〜,6年おき,H28より5年周期,歯科保険医療対策の推進の基礎資料)

   叢生・空隙の状況

   オーバージェット

   オーバーバイト

   矯正治療の経験の有無(令和4年度に実施)

・ 国民生活基礎調査(厚生労働省:統計法に基づく基幹統計調査)

・ 国民健康・栄養調査(厚生労働省:健康増進法)

 

— 歯科矯正と応召義務

歯科医師法 第一九条

病院診療所の診療に関する件(厚生省医務局長通知)

医療を取り巻く状況の変化等を踏まえた医師法の応召義務の解釈に関する研究について

 ☛ 歯列矯正を求める患者の診療治療の求めを拒んでもよいか?

論点:わが国において歯科矯正は医学的な必要を要さない自由診療なのはなぜか?

 

― 欧州大陸における社会保障制度:わが国の医療としての矯正歯科の位置
   ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)

 

― 主要国における歯科矯正の公的医療保険制度概要2017(厚生労働省資料を追加改変)

   子どもの歯科矯正への公的医療保険の国際比較(OECD加盟国,2016)

   ヨーロッパ諸国における歯科矯正医療への公的医療保険の現状(2010)

 

― 主要国における歯科矯正の公的医療保険の適用基準

   口腔の健康 vs 口腔の疾病

   アメリカ(AAO,HLD index, NY州,)

   イギリス(ITON)

   ドイツ(KIG)

   フランス

   ブラジル

   日本(現行制度と学校歯科健診)

 

 

― 疾病としての歯・歯列弓の大きさ/位置関係/機能の位置異常

疾病 / 病気 / 健康とは何か? 疾患の文化的概念,とらえかた

☛ 問い:わが国において 「歯や列弓の位置/位置関係の異常」 は疾病でないとされているのはなぜか?

政府答弁

☛ 問い:歯科医師の医療行為,特に歯科矯正学の技術や知識は,格差なく国民へ公平に配分されているか?

国民の声と現状

子どもの歯科矯正についての最近の議論

☛ 問い:学校歯科健診によって歯列不正を指摘された患者から治療を求められたが,この国民は治療費の支払いができない.歯科医師はこれを理由に診療拒否することは法的に可能か? 応召義務について答えよ.

 

☛ 問い:良質かつ適切な矯正歯医療を,国民へ格差なく公平に提供できる医療制度はどのようなものか?

 

☛ 問い:国民の税金を財源とする研究結果は,なぜ国民へ格差なく公平に提供できていないのか?

 

― WHOによる国際疾病分類 ICD

   ICD-11

   ICD-DA 第3版(WHO 1995)― 歯科矯正領域の疾病 Disease
   子どもの歯の矯正の政府見解
   医療倫理の問題解決の視点

 

― 8020 と 社会疫学の視点(歯列矯正:所得格差からくる実態)

 

― 歯列矯正の目的:概念的なもの

 

― 誰が主体となって医療を提供すべきか?

― 医療制度は社会的ニーズへの対応にどの程度関与すべきか?

 

― 誰の歯科矯正治療を優先するべきか?(医療資源の倫理学)
   シャンシエフ報告書(Schanschieff report)- IOTNの背景
   イギリスにおける矯正歯科学会の役割
   治療品質基準に関する各国ガイドライン

 

― 歯科矯正(歯の位置,歯列異常への医学的介入)に適切な時期

 

― 我国の歯科矯正の治療品質評価と諸外国の比較

 

― 医療保険の基礎理論
        情報の非対称,モラルハザード.逆選択

 

― 我国の法令上における不正咬合,歯列・咬合,歯科矯正,矯正治療の取り扱い

   所得税法  学校保健安全法  学校教育法  統計法  地方自治法
   成育基本法
    成育医療等の提供に関する施策の総合的な推進に関する基本的な方針
    健やか親子21  健康日本21
   健康増進法  医療法  健康保険法  生活保護法  歯科口腔保健の推進に関する法律

 

― 日本における歯科矯正の議論:
   子どもの歯列矯正のについての議論
   OECD加盟国の保健医療費の状況(2018年)
   OECD Health Statics 2021

 

― こどもの歯科矯正への公的医療保険の国際比較

   OECD加盟国での比較

   英国  フランス  ドイツ  スウェーデン  ノルウェー  イタリア
   カナダ  アメリカ  オーストラリア  ロシア


― アメリカの成人歯科矯正(保険適用外)の平均的な費用

   アメリカ

 

― その他,追加など

 

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― 医療倫理の問題解決の視点

目前の診察治療での規範:

組織(診療所・病院)での規範:

社会全体や国家でなすべき規範:

健康は人権であるという視点.生存権 健康権 生命権 幸福追求権
・すべての国民に負担可能な費用で医療サービスを提供すること.
・過大な医療費負担によって経済的破綻に陥ることがないように国民を保護することは国家の義務であること.
・常に視点は低・中所得の人々におくことで,国家としての健康指標の改善が初めてなされること.

→ 歯列不正・不正咬合と健康: well-being 上の健康格差のある医療領域

健康:肉体的,精神的,社会的,すべてが満たされた状態 well-being

→ 諸外国の現状を知り,我が国における現在の 「健康で文化的な生活」 の概念の位置を知る.

  ☛ OECD加盟国における 「子どもの歯科矯正」 への公的医療保険の国際比較(2016)
  ☛ ヨーロッパ諸国における歯科矯正医療の公的医療保険の現状(2010)
  ☛ 米国における歯科矯正の公的医療保険 「医学的に必要な歯科矯正」 の適用基準

ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)

すべての人々が基礎的な保健医療サービスを、必要なときに、負担可能な費用で享受できる状態

 

人文学及び社会科学の振興について(報告)−「対話」と「実証」を通じた文明基盤形成への道−

 平成21年1月20日 科学技術・学術審議会 学術分科会

  日本の人文学及び社会科学の課題

  人文学及び社会科学の学問的特性

日本の展望−人文・社会科学からの提言

 

Hygiene 衛生 長與専齋 「松香私志(1902)」

衛生

公衆衛生 Social medicine

保健学 Public Health

公衆衛生の本質は,社会正義である.

口腔衛生 Oral Health Care と 歯列矯正

 ■口腔衛生の課題:

Oral diseases: a global public health challenge
The Lancet, Vol 394, Issue 10194, P249-260, July 20, 2019.

Ending the neglect of global oral health: time for radical action
The Lancet, Vol. 394, Issue 10194, P261-272, July 20, 2019

 

 

― わが国の社会保障(医療保険)の概念

 わが国の社会保障の始まりは,明治期の廃藩置県,地租改正などによる貧困問題への公的な救済法として明治7年(874に発布された 恤救(じゅっきゅう)規則 にあり,昭和4年(1929)救護法,昭和25年(1950)生活保護法へ引き継がれている.

 社会保障概念の基は 日本国憲法第25条 であり,その概念を明示したものが 「社会保障制度に関する勧告(社会保障制度審議会 1950年)」 とされる.1942年の Sir William Beveridge 卿による 「SOCIAL INSURANCE AND ALLIED SERVICE  通称 ベバリジ報告」,同年の ILO 国際労働機関による 「社会保障への途」 に基づいて提唱されたのが,以下の社会保障制度に関する勧告(社会保障制度審議会 1950年)

第二十五条 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
 A 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。

いわゆる社会保障制度とは,疾病,負傷,分娩,廃疾,死亡,老齢,失業,多子その他困窮の原因に対し,保険的方法又は直接公の負担において経済保障の途を講じ,生活困窮に陥った者に対しては,国家扶助によって最低限度の生活を保障するとともに,公衆衛生及び社会福祉の向上を図り,もってすべての国民が文化的社会の成員たるに値する生活を営むことができるようにすることをいうのである。社会保障制度に関する勧告(社会保障制度審議会 1950年)

 ☛ 後記するように,疾病や傷病に対してのみ保険給付されるわけではなく,政府答弁も正解とは言えないであろう.不妊治療,乳がん摘出後の乳房再建など,健康概念の変化,国民の声,諸外国の現状を理解することが大切である.歯科矯正はどうか?

 

すなわち,社会保障制度とは,

 

@ リスク分散:

  自分の責任に帰することのできない理由によって発生する,さまざまな経済的リスクに対して社会全体で備えること

A リスク軽減:

  そうしたリスクが実際に発生する可能性そのものを社会全体で引き下げること

 

という2つの側面から,最低限度の生活「ナショナル・ミニマム」を保障する.

 

平成24年 厚生労働白書

 第1章 なぜ社会保障は重要か(p.5-18)

 第1節 社会保障の誕生

 第2節 社会保障の発展

 第3節 社会保障の「見直し」と再認識

 第4節 日本の社会保障はどうだったのか

 第2章 社会保障と関連する理念や哲学(p.19-  )

 第1節 自立と連帯 〜 自立した個人を,連帯して支える

 第2節 効率と公正 〜 効率と公正の同時実現を追求する時代に 

 第7章 社会保障を考えるにあたっての視点(p.218-244)

 第1節 望ましい社会の姿を考える

 第2節 社会保障の機能・役割を理解する

 第3節 社会保障の給付と負担の関係を考える

 第4節 他社の立場で考える

 

  「社会保障って,なに? 〜身近な人から学ぶ健康保険や公的年金の話〜 」 厚生労働省 映像教材 25分30秒

  中3社会公民_社会保障の仕組み

 【高校生のための政治経済】 世界の社会保障#1

 【高校生のための政治経済】 社会保険@医療保険#2

 【高校生のための政治経済】 社会保険A年金保険#3

 【高校生のための政治経済】 社会保険B雇用保険・労災保険・介護保険#4

 【高校生のための政治経済】 公的扶助・社会福祉・公衆衛生#5

 

 

社会保障の4つの柱

 @ 公的扶助

 A 社会保険

 B 社会福祉

 C 公衆衛生

 

老齢,遺族及び廃疾に関する保険険
国家扶助
公衛生及び医療療
社会福祉祉

☛ 「社会保障と憲法」に関する基礎的資料 基本的人権の保障に関する査小委員会 平成15年7月 衆議院憲法調査会事務局

 

所得再分配と社会保障

最低限度の生活保障

保険原理と福祉原理

普遍主義/選別主義

 

 

 WHOによる健康の定義がなされた1946年は終戦の翌年であり,わが国の国民生活・日本経済は困窮の渦中にあった.この当時の医療概念や歯科における疾病構造は現在とは大きく異なり,治療目的は「虫歯の痛みを除くこと」,「喪失や欠損歯の修復や補綴」により噛めるようにすることであった.虫歯と入歯の洪水で歯科医院は足りず,前歯の銀歯や開面金冠はごく当たり前の時代であり,白い歯の審美修復や歯列矯正はまだ先の時代であった.しかしこの時代の高橋新次郎氏の著書「歯科矯正学」(1947)には,「歯列矯正の意義」 が 「健康の定義」 と関連して記述されている.

 現代の歯科矯正学の目的,QOL,Social handicap,スティグマ,自己嫌悪といった外見上の問題を改善すること,社会的精神的なwell-being 健康を改善することは米国やヨーロッパ諸国における歯科矯正の公的医療保険適応の基準であるが,我が国においてはまだまだ理解され始めた概念である.

 1947:高橋新次郎:(以下原文のまま)不正咬合並びにこれに依りて招来される顎骨の異常,乃至は顔貌の不正(勿論顎骨の異常が原因で不正咬合を生ずることも多いが)等は單に患者の咀嚼,發音等の諸機能を阻害するにのみならず,患者自身の精神上にも頗る重大な影響を及ぼし,これがため自らを卑下し,社會生存上常に大なる損失を招きつゝあることは吾々經驗するところである。例へば圖1−2のやうな甚だしい不正咬合に於いては,その顔貌上に及す影響も極めて大であつて患者自らもその點に關し,懊惱苦悶せることは明らかである。かくの如き場合に於ける矯正施術の目的は,單に齒牙の正常なる機能を恢復するばかりでなく,進んで顔面の不正おも改善することにより,より重大な意義を有することは明である。顔貌の不正は患者自身の精神上にも架る

顔貌の不正の改善,well-beingの向上

矯正歯科医療の価値 / ☛ 矯正歯科治療の目的と意義

 1950年代後半から,我国の高度経済成長は国民の生活水準を引き上げ,1982年には先天性疾患として唇顎口蓋裂の保険適用がなされた.社会保障制度は,当初は貧困への救済から始まったが,国民生活の向上,国民の健康概念の西洋化により,医療保障は社会的・精神的な分野への対応も必要となっている.社会変化・国民の求めに応じて,医療保険の適用範囲は修正・是正すべきものであろう.

 

社会的共通資本:本当の豊かさとは何か? 宇沢
 自然資本:海,森,川,海洋,水,土,大気
 設備資本:道路,水路,橋,,上下水道,電力,ガス
 制資本:教育,医療,福祉,司法,文化

 

 

― 社会福祉と医療

 

医療社会学:

 人文学及び社会科学の振興について(報告)−「対話」と「実証」を通じた文明基盤形成への道−

 平成21年1月20日 科学技術・学術審議会 学術分科会

  日本の人文学及び社会科学の課題

  人文学及び社会科学の学問的特性

 

 

社会福祉の定義:

  広辞苑:(狭義の社会福祉)

貧困者などの生活を保障し,心身に障害のある人々の援助などを行なって,社会全体の福祉向上をめざすこと。教育・文化・医療・労働など,広い分野にわたる。

国民の生存権を保護するため,貧困者や保護を必要とする児童・母子家庭・高齢者・身体障害者など社会的障害を持つ人々の援護・育成・更生を図ろうとする公私の社会的努力を組織的に行うこと.生活保護法・児童福祉法・老人福祉法・身体障害者福祉法・知的障害者福祉法などによって国または地方公共団体が行うものと,社会福祉法により設立された福祉法人が行うものとがある.都道府県・市町村には行政機関として福祉事務所があり,社会福祉主事を置く(広辞苑 第七版 岩波書店)

  学術的定義:

岩田正美一方では個人生活の自助を脅かすリスクの回避,問題の解決(個人の幸福)が,何らかの社会問題として投げかけられることを前提に,様々な手段・方法による社会の個別私的生活への介入の『仕掛け』」であると同時に,「その介入は,社会統合や秩序維持,さらには社会防衛への期待を含み,介入が社会にとってもプラスであることが期待されている(社会の幸福)」(岩田正美編著 社会福祉への招待 放送大学教育振興会)

古川孝順現代社会において,人びとの自立生活を支援し,その自己実現と社会参加を促進するとともに,社会的統合を高めることを目標に展開される一定の歴史的社会的な施策の体系であり,その内容をなすものは人びとの生活上の一定の困難や障害,すなわち福祉ニーズを充足,あるいは軽減緩和し,自立生活の維持,自立生活力の育成ならびに自立生活の援護をはかり,またそのために必要とされる社会資源を開発することを課題として国・自治体ならびに民間の組織によって設置運営される各種の制度とそのもとにおいて展開されている援助活動の総体」(古川孝順 社会福祉学 誠信書房)

 

圷洋一 社会福祉とは,誰もが人間らしく自分らしく生きられる社会を目指す「理念」であるとともに,この理念の実現を目的に,人間らしく自分らしく生きられずに困っている人びとを助ける手段としての「取り決め」(法制度と施策)と「取り組み」(取り決めに依拠した活動)でもある.(圷洋一 社会福祉とは何か NHKテキスト 社会福祉セミナー NHK出版)

 

障害の考え方:☛ 障害としての不正咬合と顎顔面の形態異常

 障害者の権利に関する条約(略称:障害者権利条約)では,第一条(目的)において,「この条約は、全ての障害者によるあらゆる人権及び基本的自由の完全かつ平等な享有を促進し、保護し、及び確保すること並びに障害者の固有の尊厳の尊重を促進することを目的とする。障害者には、長期的な身体的、精神的、知的又は感覚的な機能障害であって、様々な障壁との相互作用により他の者との平等を基礎として社会に完全かつ効果的に参加することを妨げ得るものを有する者を含む。(外務省訳)」と記載されている.

 社会モデルとしての考えが強く意識されている.

☛ わが国における歯科矯正は,未だ 「医学モデル」 として,また狭義の古来よりの 「咬合」 というドグマの呪縛かに囚われており,西洋諸国における医療の社会適応された 「社会モデル」 の国々からは,周回遅れともいえる状況にあり,グローバル社会となった現代において国民からも多くの疑問が指摘されている.

☛ 顎変形症の問題点:手術が適用できる顎変形症(公的医療保障可)と,公的医療保障の適用とならない顎変形症があり,経済的理由から選択の自由が限られる患者は外科的手術を強いられる状況にあり社会問題でもある.

☛ 障害者の社会参加(⇔ 活動制限,参加制約)について ⇒ 歯科界ではなぜ 「審美」 という言葉を用いたり,相手の立場に立って深く考えないのであろうか?

例えば,人間の尊厳として,暖かさが確保され機能的に問題がないという理由で,若い女性に汚れた洋服を与えたとしよう.もちろん食料や生命の危険のある著しい貧困な開発途上国とは異なるのであるが,現代の日本では彼女たちは健康で文化的な生活,他の友人と外出して人前に出たり,社会参加は満足にできるであろうか? 人前に出るための制約や恥ずかしさ,屈辱感を感じはしないだろうか? 現在の先進諸国のほとんどの国々では,歯科矯正は社会医学的視点から公的医療保障の適用となっている.わが国のにおいても歯並びを直したいという人びとの立場における 「見た目」 とはこういう社会参加の場での制約,他人の目線という痛み,健康の社会モデルとしての精神的・社会的な健康を求める声なのであり障害なのであるが,わが国の歯科界においてこうした患者の立場から概念を理解している指導者はほとんどいない.

 

日本と欧米諸国における歯科矯正へのアプローチの違い

日本では,歯列不正のグレード(疾病による障害の程度,すなわち患者のQOL)について教科書にはほとんど書かれておらず,例えば,術者側の視点からの不正咬合の分類が重視され,患者の立場に立った障害の程度についてはほとんど議論されません.外科矯正治療など,現在の公的医療保障の適用されている重症の歯列不正を診察しないで簡単な症例のみを専門とする自称専門医さえいます.

IOTNは歯列不正の重症度を評価し,歯科矯正治療の必要性を客観的に判断します.ポピュレーション アプローチ と ハイリスク アプローチを考える視点について説明します.

グレード1(軽度): 治療の必要性はほとんどない

グレード2(軽度): 治療の必要性は少ない

グレード3(中等度): 治療が推奨されることがある

グレード4(重度): 治療が必要

グレード5(最重度): 治療が非常に必要

ポピュレーション アプローチ 学校歯科健診のように,すべての子どもを対象に歯列不正のスクリーニングを実施し,初期の段階で問題を特定し,必要に応じた早期介入を行なうアプローチです.IOTNグレード23の子どもたちにも定期的なチェックを提供し,矯正が必要になる可能性が高まる前に予防的措置を講じることができます.

ハイリスク アプローチ: グレード45の子どもたち、日常生活における機能的問題,外見上の精神的障害や社会活動制限や参加制約といった社会的ハンディキャップのある重度(日本の現状)の歯列不正を持つ子どもたちに対する重点的な治療提供により,限られた医療資源を治療が必要なケースに集中させ,健康や機能障害への重大な影響を回避するアプローチ.

現在の日本の歯科矯正政策には,公衆衛生の視座が不足しており,国民の健康増進にうまく機能していません.本来は,ポピュレーションアプローチとハイリスク アプローチを組み合わせた戦略を策定することによって,例えば,学校歯科健診によって,すべての子どもに対してIOTNに基づいたスクリーニングを実施し,グレード3以上の子どもには適切な治療を提供するというような,歯科矯正治療の必要性を効率的に管理し,治療が最も必要な子どもたちには集中的なサポートを提供することができるはずです.

こうしたアプローチは,イギリス,フランス,ドイツ,オランダなど,また,米国においては医学的に必要な歯科矯正医療として,適用基準が設けられ実施されています.

課題    ☛ 現在の学校歯科健診における不正咬合の検出について

現状の問題点:意義,各省庁での解釈の相違,公衆衛生上の指標.どのように改善すべきか.

国際的な公的医療保障の適用基準となっているIOTNでは,歯列不正の重症度を客観的に評価し,ポピュレーションアプローチ と ハイリスク アプローチを適切に組み合わせた医療政策,治療戦略を立てることができます.歯科矯正医の技術や知識という医療資源を,本当に治療を必要としている子どもたちへ公平に配分することができます.優先して治療を行うべき子どもたちについて判断し,公平で適切なケアを確保する指標になります.

 

国家・地域による定説受容の違い (歯科矯正の目的と意義)

我が国
健康の 身体的側面 を重視
<医学モデル>
西洋諸国
健康の 社会的・精神的側面 を重視
<社会モデル>
各国の歯科矯正のミッション
健康・QoL人生の幸福

【不正咬合による障害
 @  齲蝕の誘因
 A 歯周疾患の誘因
 B 外傷の誘因
 C 歯根吸収の誘因
 D 咀嚼機能障害
 E 筋機能障害
 F 顎骨の発育異常
 G 発音障害
 H 審美的な欲求と心理的な背景



 @ 社会参加 Social handicap
 A 発音障害
 B ・・・
  ・
  ・


 国際生活機能分類(ICF)


 イギリス:人生を豊かにする(BOS)

 フランス:自尊心と社会参加の機会向上

 ドイツ:公衆衛生への科学的助言

 アメリカ:国民の健康(公衆衛生)の改善

 日 本:国民の口腔衛生の向上に寄与る


※ 医療行為に対する専門的-技術的次元は同じかもしれないが,道徳的-実践的次元に大きな隔たり,歯科医療の歴史的背景による視座の違いがあり,わが国の歯科矯正は医療というより美容に停滞する.

 

定説(石井米雄):ここに学問の面白さがある。定説がうまれ、それが覆される。そして生まれた新説が定説となり、それがまたまったく違った視点の生み出した新説によって覆される。この面白さが、学問の魅力である。

裁縫で先へ先へと縫い上げていくには、ある程度まで縫い進んだら仮留めの待ち針を抜かねばなりません.従来の発想や既成観念,過去の成功体験などは待ち針のようなもので,抜いてしまわないと先へ進めず,そこからはイノベーションは生まれません.待ち針を抜いた先で新しい世界に出会うには,自社という「たこつぼ」の外に出て,積極的に外の異質な人材やモノ,技術と接し,交わることが大事です.

 明治維新後,自由に地球上を行き来できるようになった現代の グローバル社会.我が国の国民も多くの人びとが海外の文化や生活に接するようになり容易に外国というものを知るようになった.その中で,日本人の口腔衛生・歯並びの悪さは,多くの外国人から指摘されることでもある.現代においても,初めて日本に来た外国人は,歯並びの悪い日本人が多いことに驚くという.これは日本人の口腔衛生の意識の低さによるものではなく,わが国の社会制度(健康の社会的決定要因)によるものである.

 幕末の日本ではお歯黒が化粧の一部として存在し,ごく最近まで,日本では八重歯は「かわいい」の代名詞であった.現代ではグローバルな価値観の普及とともに,歯並びは対人関係や自尊心を示すものとなり,八重歯のスポーツ選手やタレントもほぼ見られなくなった.歯の配列の不正は健康や生活の質の表現型として,社会参加への制約,自尊心や対人関係にも影響するものとして社会にも受容され,多くの国民からも,歯や顎骨の大きさ・位置異常という本人の責任に帰することのできない 「身体構造の疾病・異常」 ,これを治療するために歯列矯正医療をうけることは,西欧諸国においては公的社会保障によって保障されているのであるが,わが国においては,なぜ公的医療保障の適用にならないのかと多くの国民から疑問が指摘されるようになっている.

 国会答弁において,厚生労働大臣は 「保険給付は疾病に対するものであり,歯科矯正は審美的要素が大きく疾病でない」 と答えている.では,国際的な歯列不正の価値とはどのようなものなのだろうか.実は,厚生労働省の翻訳による 「国際疾病分類」 では,不正咬合は 「疾病」 として明確に分類されており,世界の中で日本以外の国では疾病なのである.(念を押すと,厚生労働大臣が虚偽の発言をしているのではなく,日本の歯科界では国際ルールが適用されていないのである).また,歯科医科 「二元論」 で進んできたわが国の歯科は,健康とは何か? 疾病とは何か? 医療とは何か? こうした概念について深く考える機会が十分ではなかったのではないだろうか.他分野においても,わが国の個人の尊厳に関する西洋の価値観,例えば,子どもの権利条約,障害者権利条約など,いずれも批准されたのはごく最近の出来事である.

五箇条のご誓文

一、 広く会議を興し万機公論に決すべし
一、 上下心を一にして盛に経綸を行ふべし
一、 官武一途庶民に至る迄各其志を遂げ人心をして倦ざらしめん事を要す
一、 旧来の陋習を破り天地の公道に基くべし
一、 智識を世界に求め大に皇基を振起すべし

我国未曾有の変革を為んとし 朕躬を以て衆に先じ天地神明に誓ひ 大に斯国是を定め万民保全の道を立てんとす 衆亦此旨趣に基き協心努力せよ

 

 

 医療の概念の変化:

国際障害分類(ICIDH)の概念モデル:

 疾病・変調(Disorder)

    ↓

 機能・形態障害(Impairment 例:運動障害)

    ↓

 能力障害(Disability)

    ↓

 社会的不利(Handicap)

 

国際生活機能分類(ICF)のモデル

 

 

 ☛ 宿題:  問:どうすれば障害・社会モデル(ICIDH / ICF)として歯科矯正概念を認識し,西欧諸国と同様な倫理感を歯科矯正医療従事者が持つようになるだろうか?

Traditionally, craniofacial biology has served as the sole scientific basis of orthodontic practice and research. Clearly an overlap of interests does exist between clinical orthodontics and craniofacial biology. However, the specialty is also significantly related to social, economic, and cultural factors. The "new paradigm" recognizes all of these interactions and dictates their integration conceptually and in research aimed at rationalizing orthodontics.  Vig PS

頭蓋顔面領域の生物学は,矯正歯科臨床や研究の科学的基盤として機能してきた.歯科矯正臨床と頭蓋顔面領域の生物学の間には,明確な共有部分が存在している一方で,この歯科矯正という専門分野は,社会的・経済的・文化的な因子も大きく関係している.新しいパラダイムでは,これらの相互作用のすべてを認め,概念的に融合させ,歯科矯正学を合理化する研究が求められる. Vig PS 2000.

 我が国では,ひとり親家庭 の子どもたちは,歯科矯正医療へのアクセスは絶望的な状況であり,子どもたちに公平な歯科矯正医療へのアクセスを保障することは,個人の力ではかなり困難である.⇒ 参考:ドイツでの子どもの給付負担軽減の事例を調べてみよう.

 


社会モデル:
障がい(機能障害,活動制限,参加制約)

医学モデル:
「障がい」は社会(モノ,環境,人的環境等)と個人の心身機能の障がいがあいまってつくりだされているものであり,その障壁を取り除くのは社会の責務として,社会全体の問題として捉える考え方.

「障がい」を個人の心身機能によるものとし,個人的な問題として捉える考え方.

 

 障害者権利条約(2006)

 障害者基本法(2011)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

よくある質問:

 歯列矯正ってなぜ保険がきかないのか?
  保険診療では,治療内容、使用できる薬,材料等に細かいルールが決められています.それ以外の治療方法、材料等を望まれる場合は,自費診療になります.

 国民の幸福,生活のルール(法令)は,「国民の声」 や 「社会課題」 に基づき,よりよく住みやすい国家を構築するために決められます.必要な医療も時代によって変わります.(保険適用の例:不妊治療,腫瘍摘出後の乳房再建,肥満手術,禁煙指導など

 歯の位置異常・大きさの異常という 「疾病」 としての歯列不正は,他に代替療法のある他の分野とは明らかに異なる分野であり,この点も上記のような歯列矯正に保険適用されていない理由の説明には不可解な矛盾となる.我が国の国民は,疾病としての歯の位置異常の医療行為を希望した場合,「治療する」,「治療しない」 の二択選択しかできないこと,そして,経済的理由から 「治療する」 を選択できない日本の子どもたちは,社会制度の改善によって何とかならないのか?

 例えば,現在保険適用されている「顎変形症」は,顎変形症という疾患があり,これに保険適用されているわけではない.「顎離断術を施行する場合」 に 「顎変形症」 という病名が適用され保険適用となっている.他の保険適用される埋伏歯の場合も同様であり,「外科的介入の有無」が保険適用されるかどうかの判定基準となっている.これは大変重要なことであり,顎離断術の必要なく歯科矯正単独でも治療可能な症例(ボーダーラインの症例)さえも,患者さまによっては,経済的理由による費用負担軽減のため,あるいは矯正歯科医の志向によって,保険適用となる外科的治療が選択されるのが実際の医療現場で起きている.日本の歯科医療では医療倫理の4原則はあまり考慮されていないし,外科的手術の併用は患者にとってリスクの高い治療方法であり,実際に顎変形症手術後の死亡例も報告されている.医療倫理上ジレンマ,無危害原則との対立として,苦渋する歯科矯正医は多く議論すべき課題ではないだろうか.

 西欧諸国においてずいぶん以前より,外科的介入がない場合においても,歯科矯正は公的医療保障の適用される社会制度が整っている.わが国では諸外国の具体的な数値基準(国際的にはIOTNのGrade分類)が採用されていないし,歯科矯正を公衆衛生の見地から捉えたり,その医療資源の配分方法や,治療の優先順位を考えるといったところまで行きついておらず,社会への適用ルールを議論することさえできていない.「良質かつ最善な歯科矯正を公平に国民に提供する」 ということが歯科矯正医の使命だとすれば,「公平に」 という部分(社会への適用,公衆衛生の視座)がすっぽりと抜け落ちているのである.必要のない手術を減らしたり,経済的理由からリスクの高い治療方法を選択する患者に問題意識をもち,相談に来られたが経済的理由から治療開始を断念する患者に目を向け,こうした要因である健康の社会的決定要因を考え解消することで,国民が公平に歯科矯正医療を安心して受けられるように,公的医療保障の適用基準を喫緊に是正することが望まれる.

 社会的共通資本としての医療について

 

 

 

― 健康の社会的決定要因について

 

 人の健康に影響する要因:社会状態が集団や個人の健康に影響を与える

 

@ 個人的な決定要因

・喫煙,飲酒,歯磨き習慣などの生活習慣

・食生活,睡眠

・舌癖

・遺伝

 

A 社会的な決定要因(SDH: Social Determinants of Health)

・ソーシャルキャピタル(社会的支援,信頼,規範,市民活動)

・移住地域(国,気候)

・文化的慣習

社会経済的状況(所得,学歴)

国家制度(法令,保健医療制度,教育制度)

 

 

Closing the gap in a generation: Health equity through action on the social determinants of health - Final report of the commission on social determinants of health

一世代でギャップを埋める.健康の社会的決定要因への取り組みによる健康の公平性  WHO健康の社会的決定要因委員会 最終報告書

 ☛ 日本語版 Japanese を選択するとスウェーデン語が表示されますので,→ 日本福祉大学の日本語訳(要旨),もしくは web翻訳ソフトを参照ください.

子どもたちは,どこで生まれたかによって,人生のチャンスが大きく異なります.日本やスウェーデンでは80歳以上,ブラジルでは72歳,インドでは63歳,アフリカの国々では50歳以下と,その寿命は大きく異なります.また,国内でもライフチャンスの差は激しく,こうした状況は世界中で見られます.最貧困層は,病気や早期死亡のレベルが高いですが,健康状態が悪いのは,最も貧しい人々だけに限りません.所得水準に関わらず,健康や病気は社会的勾配に従い,社会経済的状況が低いほど,健康状態も悪くなります.
このような状況が合理的な行動によって回避可能であると判断される場合,こうした格差を私たちは「健康の不公平」と呼びます.是正可能な国家間や国内における健康上の不公平,すなわち健康格差を正すことは,社会正義の問題なのです.健康の社会的決定要因に関する本委員会では,健康格差の是正は倫理的な要請と考えます.

 

GDPに占める家族関係社会支出の割合

  出典:OECD,世界銀行データより日本経済新聞社の作成

 

子どもの歯科矯正への公的医療保障の適用は,家族関係社会支出の割合と密接な関係がある.

参考 ☛ 「子どもの歯科矯正」 への公的医療保険の国際比較(OECD加盟国)

 

社会全体でなすべき規範:

 ・健康は人権であるという視点.生存権 健康権 生命権 幸福追求権

 ・すべての国民に負担可能な費用で医療サービスを提供すること.

 ・過大な医療費負担によって経済的破綻に陥ることがないように国民を保護することは国家の義務であること.

 ・常に視点は低・中所得の人々におくことで,国家としての健康指標の改善が初めてなされること.

 

参考 ☛ 「子どもの歯科矯正」 への公的医療保険の国際比較(OECD加盟国)
    ☛ ヨーロッパ諸国における歯科矯正医療の公的医療保険の現状(2010)
    ☛ 米国における歯科矯正の公的医療保険.「医学的に必要な歯科矯正」基準

☛ 各国における歯科矯正の公的医療保険適用基準の比較

上記に示すように,欧米諸国の子ども(18才まで)の歯科矯正医療は公的医療保険による加療がなされ,子どもたちの医療を受ける権利は守られている.残念ながら,わが国では政府は歯科矯正を医療とする認識が低く,日本に生まれた子供たちは,口腔の健康の不公平な社会に直面しており,社会経済的に恵まれた子供たちしか歯科矯正医療の恩恵を受けられず,多くの国民や自治体からも制度是正への請願が出され,明らかに存在する口腔の健康格差は社会問題となっている.学校歯科検診における健診結果は機能しておらず,子どもの自尊心や社会参加への障壁となっており,「子どもの権利条約」 批准国としても喫緊に是正すべき優先課題であろう.

問い@:我が国における「学校歯科検診」における不正咬合の評価方法と治療勧奨とする基準の背景.歯科矯正医療(口腔環境の改善)へのアクセスへの不平等はなぜ放置され続けているのだろうか?

問いA:子どもの歯科矯正が社会に受容され公的医療保障され,子どもたちの自尊心や社会参加への障壁が取り除かれている西洋諸国では,口腔環境(歯並び)が悪いことが いじめ の対象となっているのに対し,わが国では歯科矯正治療を始めることが,「いじめ」 に会う心配への相談が多い.実際に,岡山大学病院での調査(1999年)では,治療中の児童生徒の6.7%(男子)17.2%(女子)歯科矯正治療中に 「からかい」 や 「いじめ」 にあったと答え,患者の男子40.0%,女子56.9%が装置を付けているのが恥ずかしいと答えている.こうした背景にあるものについて,子どもたちが健康である社会を実現するためには,どのような政策が望ましいかについて述べよ.

問いB:社会制度に起因した日本人の口腔環境改善への医療格差,歯科矯正医療へのアクセスの社会経済的障壁は,健康の社会的決定要因として歯科医療全体にも及んでいる.
   → 子どもの歯科矯正に対する法令と各省庁間: 法令 / 国税庁 / 文部科学省 / 厚生労働省 の矛盾.それぞれの解釈と求められる政策について整理して述べよ.
   → 国民の well-being とは何か? こども家庭庁での整理・政策立案

 

 

国民の健康の増進の総合的な推進を図るための基本的な方針

  第一 国民の健康の増進の推進に関する基本的な方向
   一 健康寿命の延伸と健康格差の縮小
   五 栄養・食生活、身体活動・運動、休養、飲酒、喫煙及び歯・口腔の健康に関する生活習慣及び社会環境の改善

社会経済的状況の違いに着目し....

乳幼児期から高齢期までのライフステージや性差、社会経済的状況等の違いに着目し、こうした違いに基づき区分された対象集団ごとの特性やニーズ、健康課題等の十分な把握を行う。

健康格差の縮小は、生活習慣の改善や社会環境の整備によって我が国において実現されるべき最終的な目標である。

(6)歯・口腔の康
   歯・口腔の健康は摂食と構音を良好に保つために重要であり、生活の質の向上にも大きく寄与する

  という方針......

公表された最終告書(健康日本21(第二次)最終評価報告書 令和4年10月11日)
 
5.栄養・⾷⽣活、⾝体動・運動、休養、飲酒、喫煙及び⻭・⼝腔の健康に関する ⽣活習慣及び社会環境の改善

(6)歯・口腔の健康 354ページから

評価報告書から,「目標に達した」 ものはなかったという結果.

【生涯にわたる健全な口腔保健の確立】 口腔機能の維持・向上 C  歯の喪失の防止 E
【歯科疾患の予防】 う蝕予防 B 歯周病予防 E
【歯・口腔の健康のための基盤的行動】 歯科健診の受診者の増加  E

A 目標値に達した
B 時点で目標値に達していないが,改善している
C 変わらない
D 悪化している
E 評価困難

健康日本21(第二次)最終価報告書 令和4年10月11日
概要
第1章
第2章
第3章 T〜II4
II5〜IV ← (6)歯・口腔の健康 354ページから
第4章
別添  ← (6)歯・口腔の健康 67ページから
参考資料

 

次期健康づくり運動プランの検討スケジュール(厚生労働省Webより)

【 平成6年度以降の 「次期国健康づくり運動プラン」 に必要な課題として 】

☛ 評価者の社会経済的格差による医療アクセスへの障壁,社会的健康格差の是正.
☛ 口腔環境の改善(歯列矯正)という根本的な課題に目を向けるべきではないか?
☛ 歯科における健康格差の課題への取り組みの欠除が 「評価困難 E」 の要因ではないか?

参考  「子どもの歯科矯正」 への公的医療保険の国際比較(OECD加盟国)
    ☛ ヨーロッパ諸国における歯科矯正医療の公的医療保険の現状(2010)
    ☛ 米国における歯科矯正の公的医療保険.「医学的に必要な歯科矯正」基準

 

日本の公衆衛生システムに対する OECD のレビュー(2019)

OECD(2019), OECD Reviews of Public Health: Japan 2019, A Healthier Tomorrow, Chapter 1 The Public Health System in Japan, 1.9. Conclusion 06 Feb 2019

 

我が国の歯科医療は,公的医療保険の最も高い国の一つではあるが,歯科矯正(疾病としての歯・歯列の位置や大きさの異常)に限るとそれはまったく逆であり,国民の経済的負担が世界でも最も大きな国である.日本の歯科医療においては,常に視点を低・中所得の人々におくことで,国家としての健康指標の改善がはじめてなされるという社会全体でなすべき規範は失われている.社会変化や国民意識,健康/医療概念の変化とともに,社会経済的状況の格差から生じている歯科矯正医療へのアクセスの格差/不平等は,全国自治体からの多数の意見書,請願,国民の声として政府に寄せられているが届いていない.OECD報告書にも指摘されているように,国民の声(請願・各自治体意見書・国民の要望など)に耳を傾けるべきでではないか.

また,そもそも日本の平均寿命,健康寿命はすでに世界一である.公衆衛生における全体像,人間の寿命は永遠ではなく,政府の国民の寿命という数値を伸ばす目標は,国民の幸せという目的ではない.政府の健康指標(目標)と生きている目的には大きな違いがあり,健康は目的ではなく,それぞれの国民自身が大切と考えることを達成するための手段でもある.健康を通じて国民が幸福度を向上させ,不平等/格差のない健康を享受できる国家制度としての歯科医療はいかにあるべきであろうか? 健康増進は目標ではなく目的であり,口腔機能の維持・向上,歯の喪失を防止を目標とする目的は,国民の幸福にあるのではないだろうか? 健康を通じて一人でも多くの国民に幸せな人生という時間を歩んでもらいたいということは,我々医療従事者にとっての願いでもある.我が国に生まれた子供たちは,それぞれの家庭における社会経済的な事情から生じる健康格差によって歯科矯正医療へのアクセスが制限されており,国家としても早急に是正すべき大変憂慮すべき事態である.

人間が生活するための現代社会において,またコミュニケーションにとって,歯や歯列の大きさ・位置の異常,こどもの成長や健やかな発育に関する疾病は,欧米においてはずっと以前より公的医療保険が適応され,子どもの医療を受ける権利は守られている.なぜ我が国では必要がないものであり続けているのだろうか?歯科矯正医療の目的について,我が国の歯科医師は,目先の利益や技術的次元から離れ,社会的責任や道徳的次元から今一度考えるべきであり,諸外国の医療制度の変貌の中からも日本の現状を俯瞰する必要があるのではないか?

 

Q:健康日本21(二次)の最終評価を見ると,その目標が達成に必要なものとして, 国民自身が口腔環境や生活の質に関する関心を持つためには,健康格差(口腔機能,歯の喪失,う蝕予防,歯周病,歯科健診への関心)という,これら口腔保健への関心の高さへの社会的障壁となっているのではないか?

Q: こうした歯科医療への社会的格差是正こそが,政府の目的とする我が国で実現されるべき課題,最終的目標ではないか?

☛ 調査研究のデザインの見直し,サンプル選択の基準への社会経済的因子(所得水準など)の追加

☛ 歯列矯正と口腔衛生(FDIの施政方針)

 

 

— 社会問題としての歯科矯正 ‐ 現状の整理

ジョエル・ベスト 社会問題とは何か 赤川学 監訳 筑摩書房2020

 

社会問題とは何か Joel Best

 

 クレイム申立て

 

 メディア報道

 

 国民の反応

 

 政策形成

 

 社会ネットワーク

 

 政策の実行

 

 政策とその影響

 

 

 

― 歯科疾患実態調査

 調査計画

調査の目的:本調査は、わが国の歯科保健状況を把握し、8020運動(歯科保健推進事業等)の種々の対策の効果についての検討等、今後の歯科保健医療対策を推進するための次期の目標設定に必要な基礎資料を得ることを目的とする。

 

 

1 矯正歯科治療の経験の有無、性・年齢階級別(3歳以上)

2 矯正歯科治療の経験の有無、地域・性・年齢階級別(3歳以上)

 

令和4年 歯科疾患実態調査結果の概要

表26 歯科疾患実態調査結果の概要

 

表7-1 矯正歯科治療の経験の有無、性・年齢階級別(3歳以上)
  年齢階級 人 数 (人)
Number of persons
割 合 (%)
Percentage
被調査者数 受けたことがある
Have received orthodontic treatment
ない 被調査者数 受けたことがある
Have received orthodontic treatment
ない
現在、治療を受けている 過去に治療を受けたことがある 現在、治療を受けている 過去に治療を受けたことがある
  Age
group
Number of  subjects Currently receiving orthodontic treatment. Have received orthodontic treatment in the past None Number of  subjects Currently receiving orthodontic treatment. Have received orthodontic treatment in the past None
総 数
Total
総 数
Total
      2,267           34         141       2,092       100.0          1.5          6.2        92.3
 3〜  4             29              -              -             29         100.0              -              -         100.0
 5〜  9             79              7              -             72         100.0            8.9              -          91.1
10〜14             80             11              6             63         100.0          13.8            7.5          78.8
15〜19             48              4              2             42         100.0            8.3            4.2          87.5
20〜24             52              4              6             42         100.0            7.7          11.5          80.8
25〜29             38              1              4             33         100.0            2.6          10.5          86.8
30〜34             74              2              9             63         100.0            2.7          12.2          85.1
35〜39             82              1             20             61         100.0            1.2          24.4          74.4
40〜44           115              -             21             94         100.0              -          18.3          81.7
45〜49           144              1             13           130         100.0              .7            9.0          90.3
50〜54           155              -             18           137         100.0              -          11.6          88.4
55〜59           137              1              5           131         100.0              .7            3.6          95.6
60〜64           175              1              8           166         100.0              .6            4.6          94.9
65〜69           220              1             12           207         100.0              .5            5.5          94.1
70〜74           304              -              8           296         100.0              -            2.6          97.4
75〜79           254              -              6           248         100.0              -            2.4          97.6
80〜84           178              -              1           177         100.0              -              .6          99.4
85〜           103              -              2           101         100.0              -            1.9          98.1

Male
総 数
Total
      1,023            9           52         962       100.0           .9          5.1        94.0
 3〜  4             20              -              -             20         100.0              -              -         100.0
 5〜  9             32              1              -             31         100.0            3.1              -          96.9
10〜14             42              5              1             36         100.0          11.9            2.4          85.7
15〜19             27              1              1             25         100.0            3.7            3.7          92.6
20〜24             23              -              4             19         100.0              -          17.4          82.6
25〜29             14              -              -             14         100.0              -              -         100.0
30〜34             33              1              6             26         100.0            3.0          18.2          78.8
35〜39             34              -              7             27         100.0              -          20.6          79.4
40〜44             47              -              6             41         100.0              -          12.8          87.2
45〜49             61              -              5             56         100.0              -            8.2          91.8
50〜54             64              -              6             58         100.0              -            9.4          90.6
55〜59             51              -              2             49         100.0              -            3.9          96.1
60〜64             82              -              3             79         100.0              -            3.7          96.3
65〜69           101              1              4             96         100.0            1.0            4.0          95.0
70〜74           136              -              4           132         100.0              -            2.9          97.1
75〜79           121              -              3           118         100.0              -            2.5          97.5
80〜84             86              -              -             86         100.0              -              -         100.0
85〜             49              -              -             49         100.0              -              -         100.0

Female
総 数
Total
      1,244           25           89       1,130       100.0          2.0          7.2        90.8
 3〜  4              9              -              -              9         100.0              -              -         100.0
 5〜  9             47              6              -             41         100.0          12.8              -          87.2
10〜14             38              6              5             27         100.0          15.8          13.2          71.1
15〜19             21              3              1             17         100.0          14.3            4.8          81.0
20〜24             29              4              2             23         100.0          13.8            6.9          79.3
25〜29             24              1              4             19         100.0            4.2          16.7          79.2
30〜34             41              1              3             37         100.0            2.4            7.3          90.2
35〜39             48              1             13             34         100.0            2.1          27.1          70.8
40〜44             68              -             15             53         100.0              -          22.1          77.9
45〜49             83              1              8             74         100.0            1.2            9.6          89.2
50〜54             91              -             12             79         100.0              -          13.2          86.8
55〜59             86              1              3             82         100.0            1.2            3.5          95.3
60〜64             93              1              5             87         100.0            1.1            5.4          93.5
65〜69           119              -              8           111         100.0              -            6.7          93.3
70〜74           168              -              4           164         100.0              -            2.4          97.6
75〜79           133              -              3           130         100.0              -            2.3          97.7
80〜84             92              -              1             91         100.0              -            1.1          98.9
85〜             54              -              2             52         100.0              -            3.7          96.3

【解釈】

被験者数が少ないこと,矯正歯科の経験の定義(部分矯正,全顎矯正,床矯正など)が不明.

本格的だとすれば,85才以上の女性で歯列矯正を受けた方もいる

一般的に,12−18歳で受けるとすれば,そのまま日本における普及率の推移とも読める.

先行研究では,人口の35-40%が歯列矯正の必要とされ,女性では過半数が通院加療している

被験者の所得水準を追加すると,健康の社会的決定要因としての経済的要因が見えるだろう

学校歯科検診では不正咬合の要治療患者は5%程度.海外では35%程度.

 

 

 

― 国民健康・栄養調査報告

歯科疾患実態調査では8020は達成されているが,国民健康・栄養調査ではその達成率は32%である.調査方法による相違はあまり知られていないので,いろいろな側面から分析し,情報の受け止め方には注意すべきである.

2018年(平成30年)調査では,世帯年収別の歯の本数に関する調査が行われ(第89表),口腔の状態に所得格差があることも示されている.

 

 国民健康・栄養調査報告 令和元年(2019)

  国民健康栄養調査_2019

   第99表 咀嚼の状況―咀嚼の状況,年齢階層別,人数,割合―総数・男性・女性,20歳以上

  咀嚼の状況 

  国民健康・栄養調査報告 平成30年(2018)

  H30_国民健康栄養調査

 

  健康の社会的決定要因として,歯科における社会経済的格差(不平等)は,歯の本数に影響を与えている.

  世帯年収と歯の本数

 

 

― わが国の公的医療保険 歯科矯正に関するもの の経過とその社会背景

年度

法令・政策形成と実行

社会ワーク: クレイム申立て,メディア報道,国民の反応(請願,意見書)

1874(M07) 恤救(じゅっきゅう)規則

1922T11

(旧)健康保険法

 

 

1923(T02) 関東大震災 9/1 11:58    

1938S13

厚生省発足(旧)国民健康保険法

 

 

1945S20

終戦

 

 

1946S21

世界保健機関WHO憲章(健康の定義)1946/7/22に61カ国の代表により署名され,1948/4/7より発効.

健康とは、完全な肉体的、精神的及び社会的well-beingの状態であり,単に疾病又は病弱の存在しないことではない.到達しうる最高基準の健康を享有することは,人種,宗教,政治的信念又は経済的若しくは社会的条件の差別なしに万人の有する基本的権利の一つである.

1947S22

日本国憲法 施行:53

基本的人権の享有(第11条),幸福追求の権利の尊重(第13条),法の下の平等の原則(第14条)が明らかにされるとともに,@すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有すること(第25条第1項)とされ,これを具現化するものとして,国はすべての生活部面について,社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない(第25条第2項)という国の責任が明確に規定された.

1948S25

世界人権宣言

 

1951S26

世界保険機関(WHO 加盟:

 

1956S31

国際連合(United Nation=UN)加盟

 

 

1958S33

国民健康保険法の制定

 

 

1961(S36)

国民皆保険の実現

 

 

1966S41

国際人権規約

 

 

1973S48

70歳以上の医療費無料(自己負担ゼロ)

 

 

1975(S50)

 

76回国会 衆議院 社会労働委員会 第1号 昭和501111 兎唇口蓋裂に対する保険拡大に関する請願(第1497号)

1976(S51)

 

82回国会 参議院 社会労働委員会 第2号 昭和521025 口唇裂・口蓋裂児の医療に関する件

1978(S53)

標榜診療科 「矯正歯科」 「小児歯科」 追加

 

 

1982(S57)

唇顎口蓋裂の保険導入

☛ 口蓋裂と矯正歯科―その保険導入の前後      ☛ 谷間の口がい裂児:この子らに健保を

1983(S58)

老人保健法の施行

 

 

1984(S59)

職域保険(被用者保険)本人の自己負担1

そしゃく機能障害   

☛ 101回国会 衆議院 社会労働委員会 第30号 昭和5981

1989(H01)

子どもの権利条約

第24条(健康・医療への権利)子どもは,健康でいられ,必要な医療や保健サービスを受ける権利をもっています.

1990(H02)

顎変形症の保険導入

 

 

1994(H06)

子ども権利条約に批准・発効:第24条 締約国は,到達可能な最高水準の健康を享受すること並びに病気の治療及び健康の回復のための便宜を与えられることについての児童の権利を認め,いかなる児童もこのような保健サービスを利用する権利が奪われないことを確保するために努力する.基礎的な保健の発展に重点を置いて必要な医療及び保健をすべての児童に提供する.児童の健康を害するような伝統的な慣行を廃止するため,効果的かつ適当なすべての措置をとる.

1995(H07)

学校歯科健診に歯並びの項目が追加

 

 

1996(H08)

顎口腔機能診断施設基準の追加

 

 

1997(H09)

同自己負担2

 

 

1998(H10)

 

平成10(1998)331日 公明党広島県本部と歯科矯正の保険適用を求める会より1万人を超える署名簿を厚生省(小泉厚生大臣)へ提出.

2000(H12)

かかりつけ歯科医初診料の保険導入

 

H120329日 三鷹市議会
H120330日 東京都議会

2002(H14)

別に厚生労働大臣が定める疾患の追加

中医協を巡る贈収賄事件(概要)

  「かかりつけ歯科医 初診料」 の算定要件の緩和に係る贈収賄事件

中央社会保険医療協議会を巡る贈収賄事件(中間報告)

2003(H15)

同自己負担3割

 

 

2004(H16)

別に厚生労働大臣が定める疾患の追加

中医協を巡る贈収賄事件(概要)

  かかりつけ歯科医 再診料の単価引き上げに係る贈収賄事件

中央社会保険医療協議会を巡る贈収賄事件(中間報告)

中央社会保険医療協議会の在り方の見直しについて

2006(H18) かかりつけ歯科医の廃止    

2008(H20)

後期高齢者医療制度始まる

別に厚生労働大臣が定める疾患の追加

 

 

2010(H22)

別に厚生労働大臣が定める疾患の追加

 

 

2014(H26)

別に厚生労働大臣が定める疾患の追加

 

 

2015(H27)

医療保険制度改革法が成立

 

 

2016(H28)

別に厚生労働大臣が定める疾患の追加

(国民健康保険への財政支援の拡充、入院時の食事代の段階的引き上げ、紹介状なしの大病院受診時の定額負担の導入などが盛り込まれた)

FDI口腔の健康の新しい定義:口腔の健康は多面的な概念であり、痛み、不快感、頭蓋顎顔面複合体の疾患がなく、自信を持って話し、微笑み、嗅覚、味覚、触覚、咀嚼、嚥下、そして表情を通して様々な感情を伝える能力を含みます。口腔の健康は、生活の質を高めるために不可欠な生理的、社会的、心理的特性を反映しています。

2017(H29)

 

 

H290915日 甲府市議会

2018(H30)

国民健康保険財政:市町村から都道府県単位へ

別に厚生労働大臣が定める疾患の追加

前歯3歯以上の永久歯萠出不全に起因した咬合異常(埋伏歯開窓術を必要とするものに限る。)

 

H300622日 甲斐市議会

2019(R01)

 

FDI:口腔の健康と歯科矯正の再定義.必要な歯科矯正への財政援助を提言

200国会 参議院 厚生労働委員会 子供の歯科矯正に保険適用の拡充を求めることに関する請願(沖縄,立憲,共産)

2020(R02)

別に厚生労働大臣が定める疾患の追加

201国会 参議院 厚生労働委員会

 子供の歯科矯正に保険適用の拡充を求めることに関する請願(沖縄)

203国会 参議院 厚生労働委員会

 子供の歯科矯正に保険適用の拡充を求めることに関する請願(立憲)

R20323日 山梨県議会

R20325日 兵庫県議会
R20625日 東村山市

2021(R03)

 

204回国会 衆議院文部科学委員会第16号 526日(共産)

204回国会 衆議院厚生労働委員会第28616

204回国会 衆議院本会議第35号 616

 子どもの歯科矯正への保険適用の拡充に関する請願(共産)

R30301日 富士吉田市議会

R30311日 鳴沢村議会

R30903日 山梨県中央市議会

R30924日 山梨県上野原市議会

R30929日 習志野市議会

R30930日 大月市議会

R31021日 奈良県議会

R31202日 広島市議会

R31209日 大和高田市

R31215日 大和郡山市議会

R31216日 西桂町議会

2022(R04)

別に厚生労働大臣が定める疾患の追加

R40328日 東京都歯科保健対策推進協議会

208国会 参議院 厚生労働委員会

 子供の歯科矯正に保険適用の拡充を求めることに関する請願(立憲)

第208 国会 衆議院

R40325日 橿原市議会

R40617日 奈良県斑鳩町議会

R40621日 奈良県広陵町議会

2021(R05)

 

211国会 参議院 予算委員会(自民)

211国会 衆議院 厚生労働委員会

212国会 衆議院 本会議 第12

 子供の歯科矯正治療における保険適用範囲の拡充に関する請願(自民)

212回国会 参議院 厚生労働委員会第3 1116

 保険でより良い歯科医療を求めることに関する請願(共産)

 

2024(R06)

 

学校歯科健診後の事後処置の保険導入

咀嚼能力,咬合圧検査の顎変への適用

別に厚生労働大臣が定める疾患の追加

213回国会 衆議院 地域活性化・こども政策・デジタル社会形成に関する特別委員会 第8号 令和643日(公明)

 

⇒ 社会ワーク活動の3-5年程度後に政策形成が実施され,国民生活向上へとつながるが,各政策の遅れは欧米より30年程度の遅れたものとなっている.わが国の歯科医療は,目前の患者診察に注視するあまり,国民全体の視座に欠けており,経済的に診察に行けない真の患者が数多存在していること,国民の声(請願や意見書)について,医療従事者たる歯科矯正専門医の多くは無関心な状況である.国民の生活に貢献できる公平な歯科矯正医療とは何か.わが国の民主主義は欧米と比べ短く,『ルールは与えられ守るもの』という意識が強い.しかしながら,国民の声や各国の政策が徐々にゆっくりと反映されていることがわかる.特に,注視すべき点は,現在の制度下では,重篤な歯列不正の患者群(顎変形症)においては,外科手術の適用によらなければ公的医療保障の給付が受けられないことから,経済的理由から外科手術を適用しない治療法の選択ができない国民も存在することを知るべきである.これらの患者群にとっては,現在の保険医療制度では外科的手術による方法を強要される状況であり,選択の自由がなく不平等な医療アクセスとなっている.国や治療方針を決定する矯正歯科医に対し医療費の返還が求められても不思議ではない.医療の公平性,治療方針の選択の自由について,歯科矯正医療における社会問題として,喫緊の是正が望まれるのではないか.

 

学校歯科検診において専門医の受診が勧められるもの

  → 諸外国における公的医療保険の適用基準(下記参照)と比較する

    ☛ 「子どもの歯科矯正」 への公的医療保険の国際比較(OECD加盟国)
    ☛ ヨーロッパ諸国における歯科矯正医療の公的医療保険の現状(2010)
    ☛ 米国における歯科矯正の公的医療保険.「医学的に必要な歯科矯正」基準

  ☛ 厚生労働省,文部科学省との基準統合,国際基準 IOTN との整合性の整理

 

わが国の学校歯科健診において
治療を要することで受診勧奨される基準
国際的に承認されている
医学的な治療を要する診断基準

 

02 要精検:重度な不正咬合があって治療を要する.歯列・咬合に著しい異常が認められるもの.

 下顎前突

  (前歯部2歯以上の逆被蓋)

 上顎前突

  (OJが7-8mm以上

 叢生

  (隣在歯が互いの歯冠幅径の1/4以上重なる)

 正中離開

  (上顎中切歯間の空隙が6mm以上)

 開咬

  (上下顎前歯切縁間の空隙が6mm以上.萌出が歯冠長の1/3以下のものは除外)

 その他

  (過蓋咬合,交叉咬合,鋏状咬合,逆被蓋,軟組織の異常,過剰歯,限局した著しい咬耗など)

 

⇒ 子どもの健全な発育のための歯列咬合マニュアル

 

・不正咬合の程度とは関係なく,先天性疾患をともなう場合に公的医療保障が適用されるのはなぜか?

・外科的矯正治療において,側貌改善を目的としたオトガイ形成術が保険適用となるのはなぜか?

 


Index of Orthodontic Treatment Need (IOTN)


Grade 5

 ・歯の健康状態に重大な問題がある場合
 ・叢生、差し歯、その他の原因により、歯が正常に口腔内に入り込めない場合。
 ・歯の欠損が多いこと。
 ・オーバージェット9mm以上
 ・下顎前歯-3.5mm以上の反対咬合で,機能的問題がある
 ・口唇裂口蓋裂など頭蓋顔面異常

Grade 4
 ・より重度の不規則性で、健康上の理由から治療が必要なもの
 ・上顎前歯が6mm以上突出
 ・正常機能を阻害する-2mm以上の交叉咬合
 ・下顎前歯が上顎前歯より3.5mm以上突出
 ・歯並びが4mm以上悪い場合。
 ・隙間が必要な歯が正常な数より少ない(歯がない)場合。
 ・4mm以上のオープンバイト
 ・機能的な問題を抱えた深い咬み合わせ
 ・正常な歯の数よりも多い(過剰歯)

 

学校歯科健診_

 

 

口腔保健プログラム(OHP;Oral Health Program)

ワシントンDC

School-Based Oral Health Programs (ボストン大学)

School-based Oral Health Programs(オレゴン州)

Natinal School Oral Health Programme(インド)

School Oral Health Progeam(クウェート)

Integrating Oral Health into School Health Programs and Policies(カルフォルニア州)

 

 

 

平成28年までは,下顎前突の

学校歯科検診の基準

 ※ 学校歯科健診において専門医(歯科医師)による診断が必要と通知されるもの

☛ 学校歯科健診にて受診が必要とされた検査・診断料は保険適用される.

学校保健安全法施行規則

第二章 健康診断
 第一節 就学時の健康診断
 (方法及び技術的基準)
  第三条 法第十一条の健康診断の方法及び技術的基準は、次の各号に掲げる検査の項目につき、当該各号に定めるとおりとする。
   九 歯及び口腔の疾病及び異常の有無は、齲歯歯周疾患不正咬合その他の疾病及び異常について検査する。

 第二節 児童生徒等の健康診断
 (検査の項目)
  第六条 法第十三条第一項の健康診断における検査の項目は、次のとおりとする。
   七 歯及び口腔の疾病及び異常の有無(☛上記:第三条の九

 (事後措置)
  第九条 学校においては、法第十三条第一項の健康診断を行つたときは、二十一日以内にその結果を幼児、児童又は生徒にあつては当該幼児、児童又は生徒及びその保護者(学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)第十六条に規定する保護者をいう。)に、学生にあつては当該学生に通知するとともに、次の各号に定める基準により、法第十四条の措置をとらなければならない。
   一 疾病の予防処置を行うこと。
   二 必要な医療を受けるよう指示すること。

 

☛ 文部科学省令:健康診断の方法

   ◎ 健康診断
   ◎ 健康診断マニュアル
   ◎ 【事務連絡】児童,生徒,学生
   1 「歯列・咬合」の欄 歯列の状態、咬合の状態について、
      0  異常なし、
      1  定期的観が必要、
      専門医(歯科医師)による診断が必要
     の3区分について、それぞれ 0、1、2で記入する。

 

 

児童、生徒、学生、幼児及び職員の健康診断の方法及び技術的基準の補足的事項及び健康診断票の様式例の取扱いについて

事務連絡 平成27年9月11日   文部科学省スポーツ・青少年局学校健康教育課

8 歯及び口腔の検査(規則第3条第9号関係)

歯及び口腔の検査に当たっては、下記に留意して実施すること。
(1)口腔の検査に当たっては、顎、顔面の全体を診てから、口唇、口角、舌、舌小帯、口蓋、その他口腔粘膜等の異常についても注意すること。
(2)歯の検査は下記に留意して実施すること。
    ア 歯の疾病及び異常の有無の検査は、処置及び指導を要する者の選定に重点を置くこと。
    イ 咬合の状態、歯の沈着物、歯周疾患、過剰歯、エナメル質形成不全などの疾病及び異常については、特に処置又は矯正を要する程度のものを具体的に所定欄に記入すること。
    ウ 補てつを要する欠如歯、処置を要する不適当な義歯などのあるときは、その旨「学校歯科医所見」欄に記入すること。
    エ はん状歯のある者が多数発見された場合には、その者の家庭における飲料水についても注意すること。
(3)その他、顎顔面全体のバランスを観察し、咬合の状態、開口障害、顎関節雑音、疼痛の有無、発音障害等についても注意すること。

 

 

学校健康診断(含む;学校歯科健診)

 

1.児童生徒等の健康診断とは

  〇 学校教育の円滑な実施とその成果の確保に資することを目的とし、子供の健康の保持増進を図るために実施するもの。
  ○ 学校生活を送るに当たり支障があるかどうかについて疾病をスクリーニングし、健康状態を把握するという役割と、学校における健康課題を明らかにして健康教育に役立てるという、大きく二つの役割がある。

2.内容

  学校では、毎年4〜6月の時期に年1回健康診断が行われる(学校保健安全法施行規則第5条)。

  児童生徒等の健康診断における検査項目(学校保健安全法施行規則第6条)

1 身長及び体重
2 栄養状態
3 脊柱及び胸郭の疾病及び異常の有無並びに四肢の状態
4 視力及び聴力
5 眼の疾病及び異常の有無
6 耳鼻咽頭疾患及び皮膚疾患の有無
歯及び口腔の疾病及び異常の有無
8 結核の有無
9 心臓の疾病及び異常の有無
10 尿
11 その他の疾病及び異常の有無

3.関連諸規定について

 【健康診断票の送付】
  ○ 校長は、児童生徒が進学または転学した場合においては、当該児童生徒の健康診断票を進学先または転学先の校長に送付(学校保健安全法施行規則第8条第2項及び第3項)。

 【健康診断票の保存期間】
  ○ 児童生徒等の健康診断票は、5年間保存(学校保健安全法施行規則第8条第4項)。

 

学校健康診断をめぐる現状と経緯について(令和元年10月30日 初等中等教育局 健康教育・食育課)

学校保健統計調査/昭和23年〜令和3年(1995年調査より) 

 

1995年に歯列咬合の項目が加えられたが,公表されている調査結果は,

歯  ・  口  腔
口腔の疾病・異常
む し 歯(う歯) その他の歯疾患
処置
完了者
未処置歯のある者

と分類公表されている.「その他の疾患」 もしくは 「口腔の疾病・異常」

 

平成18年 2006年 の調査から,「歯列・咬合・顎関節」の項目についての結果を知ることができる.

歯  ・  口  腔
むし歯(う歯)歯列・咬合顎関節歯垢の状態歯肉の状態疾病・異常
その他の
完了者
処 置
のある者
未処置歯

 

 

学校保健統計調査 令和4年度 都道府県表(調査年月 2022年度,公開 2023-11-28)
都道府県別 年齢別 疾病・異常被患率等(各年齢ごとの歯列・咬合の異常)
◎ 歯列・咬合の異常を有する児童生徒の割合
年齢567891011121314151617
 (%)
区分歯・口腔
区分歯列・咬合
全国4.303.094.484.484.944.944.945.355.255.294.584.724.41
北海道3.42.74.74.74.94.94.96.56.98.14.74.74.5
青森県6.73.12.32.33.53.53.55.03.75.12.73.53.0
岩手県6.73.66.36.37.07.07.05.85.15.64.95.64.5
宮城県4.63.66.16.14.04.04.07.18.28.26.75.15.2
秋田県4.43.54.74.76.36.36.36.16.56.44.63.83.9
山形県3.84.56.56.56.16.16.15.45.15.15.23.51.7
福島県3.02.12.82.84.44.44.48.49.98.45.34.84.8
茨城県6.32.74.34.34.94.94.94.55.94.85.77.55.4
栃木県5.32.02.82.84.44.44.45.65.45.05.15.75.8
群馬県4.74.37.17.16.86.86.85.97.66.45.74.75.0
埼玉県2.51.72.32.32.72.72.73.33.32.46.36.46.0
千葉県2.93.95.15.16.66.66.66.05.46.74.75.25.7
東京都3.91.42.92.93.43.43.44.04.45.04.85.24.8
神奈川県3.23.96.06.06.36.36.37.07.16.92.53.72.4
新潟県0.72.82.62.62.42.42.42.12.12.61.21.71.5
富山県6.10.92.62.62.82.82.82.82.53.02.42.32.1
石川県3.71.92.62.63.73.73.74.24.64.03.64.53.7
福井県3.13.03.73.75.75.75.73.84.23.13.34.04.2
山梨県7.23.65.25.25.25.25.26.26.86.67.45.05.4
長野県7.53.03.63.63.93.93.94.64.34.95.55.76.3
岐阜県6.62.44.54.52.92.92.96.86.77.72.62.52.6
静岡県3.93.24.44.45.95.95.95.65.04.55.35.44.1
愛知県7.42.93.93.93.03.03.05.83.02.82.92.92.3
三重県6.82.13.03.04.64.64.64.55.14.95.45.85.5
滋賀県3.14.45.45.46.16.16.15.56.05.75.65.64.9
京都府4.84.96.76.78.68.68.69.610.410.05.96.65.8
大阪府5.14.36.46.46.96.96.94.43.73.83.43.23.0
兵庫県3.36.58.78.78.48.48.48.87.77.15.86.77.1
奈良県5.03.33.23.24.04.04.05.66.26.16.67.55.7
和歌山県2.44.85.85.86.06.06.06.96.07.22.72.92.8
鳥取県6.35.56.86.87.97.97.96.96.56.15.74.35.5
島根県2.62.13.03.03.33.33.38.09.66.72.62.51.6
岡山県7.52.33.23.23.23.23.23.23.84.83.22.82.9
広島県4.73.55.15.15.65.65.66.67.65.03.32.92.9
山口県4.24.33.63.64.44.44.45.63.94.56.04.45.2
徳島県7.13.85.95.96.36.36.35.65.97.62.63.22.8
香川県4.33.75.85.85.45.45.44.85.96.53.53.13.3
愛媛県3.72.73.53.53.93.93.94.04.34.71.61.62.1
高知県9.51.52.42.44.54.54.56.07.07.74.15.24.8
福岡県4.52.22.92.94.74.74.75.14.95.66.76.46.4
佐賀県4.22.83.53.54.94.94.94.56.26.37.17.36.6
長崎県3.01.92.32.33.13.13.13.13.03.34.44.13.6
熊本県4.13.04.54.54.24.24.23.84.34.24.74.65.2
大分県4.93.76.56.58.68.68.66.25.86.77.56.37.0
宮崎県2.73.85.65.64.34.34.34.44.14.56.44.24.5
鹿児島県4.13.24.94.94.54.54.52.42.73.45.96.35.8
沖縄県1.71.32.52.53.13.13.12.02.62.64.23.83.9

出典:「学校保健統計調査 2022年度 都道府県別 歯列・咬合の異常」より改変して引用.

わが国を含めたどの国の,どの年代の,どの論文においても,医学的な治療を要する「歯や顎骨の位置と大きさの異常」の発現率は,35-40%程度であることが報告(前述)されているが,わが国における学校保健統計調査(学校歯科健診)を疫学的調査とするには,以下のいくつかの点で難がある.

学校歯科健診では,疾病の疫学的調査を目的とする疾患発見ではなく,児童生徒の生きる生活指導を目的とされており,文部科学省が定める独自基準による歯列・咬合の異常の有無を (0)(1)(2) の3段階に判定するものである.

評価判定者(学校歯科医)は,全国の各学校数と同じだけの人数がおられ,その調査を疫学的調査として許容される基準として履行することは困難である.実際に,歯科健診では児童生徒1人当たり1-2分の検査を体育館や保健室といった臨時的な場所で行われ,現場の声として,特に不正咬合については,公的医療保障の適用がないことから,事後処置についての児童生徒の社会経済的理由にかかる問題を回避するために,なるべく異常なし(健康)とすることを求められることがあると聞く.

こうしたことから,判定結果(罹患率)は,上表のように各県の背景や実情によって3-4倍もの差がある.児童生徒が不利益を被ることのないことを祈るばかりである.長年の歴史的な統計調査ではあるが,疫学的・学術的な意義は少ないが,調査には大変な時間,費用がかかる事業である.政府や歯科界は,いま少しの方向性を修正することで,わが国の子どもにとって,また世界に例のない価値ある疫学的調査へと転換できることも確かである.今一度その意義や方法,目的や費用対効果についての再考は必要ではないだろうか?

戦後の歯科医院が足りない時代はとうに過ぎている.西洋諸国,例えば,ヨーロッパ諸国や北欧スウェーデン国のように,集団検診ではなく,かかりつけ歯科医院を受診し,規定の様式によって検査・届け出を行う制度設計はどうだろうか.「学校歯科医」という法令上の役割についても,実際には学校にて保健指導を行っている学校歯科医は10%未満しかおらず(文部科学省統計),その役割についても再考は必要ないだろうか?

 

歯及び口腔の疾病及び異常の有無

 

 

 

― 子どもの権利条約 と こども基本法 わが国における医療としての歯科矯正

 

子どもの権利条約(Convention on the Rights of the Child)における child

Child:@ 子ども,A 児童

第1条 子ども(児童)とは18才未満のすべての者をいう.

 

☛ 参考:

我が国の 「世間」 においては,幼いもの,わらわ,わらべ,小児などを 「こども」 としてきた.法令上における 「児童」 の年齢範囲はさまざまでありこうした世間・社会通念の変化をうかがい知ることができる.グローバルな現代社会の観点からは,18才未満のすべての者を 「子ども」 =「児童(あるいは,児童生徒)」 と解釈してよいのではないか.以下に児童の定義に関する関連した法令上の区分を記した.

広辞苑
こ‐ども【子供】
@自分の儲もうけた子。むすこ。むすめ。
A幼いもの。わらわ。わらべ。小児。まだ幼く世慣れていないことにもいう。枕草子28「あからさまにきたる―わらはべを見入れ」 ↔ 大人。

参考 ☛ 世間とは何か

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各省庁間での 「child」 の翻訳相違について:

 ユニセフ;「子ども」 と翻訳.「子どもの権利条約」

 外務省:「児童」と翻訳.「児童の権利に関する条約

 文部科学省: 「児童の権利に関する条約」と記しているが,文部事務次官通知(平成6年5月20日)では 「児童生徒」 と記載説明.

☛ 学校教育法上,児童(小学生),生徒(中学・高校生).

 厚生労働省:「児童」.「児童の権利に関する条約

 

参考:わが国における法令上の「子ども」の定義年齢(附;高齢者)

 ☛ 各種法令による児童等の年齢区分(厚生労働省)

 

 年齢区分による呼称根拠法令 
WHOchild子どもの権利条約
第1条 児童とは18才未満のすべての者をいう.
18才未満のすべての者
    
子ども子ども・子育て支援法
(定義)
第六条 この法律において「子ども」とは、十八歳に達する日以後の最初の三月三十一日までの間にある者をいい、「小学校就学前子ども」とは、子どものうち小学校就学の始期に達するまでの者をいう。
十八歳に達する日以後の最初の三月三十一日までの間にある者
☛ 国際的には,18才未満を「child 子ども」,18歳以降は成人.
☛ 我が国においても法令上さまざまな区分はあるが,日本国憲法,公職選挙法,民法上において18才をもって成年とされる.
子ども新生児出生後4週未満の児
乳児 生後4週以上1歳未満の児
幼児 満1才から小学校就学の始期に達する者
小児 1歳以上,7歳未満
園児学校教育法
第二十六条 幼稚園に入園することのできる者は、満三歳から、小学校就学の始期に達するまでの幼児とする。
第十七条 保護者は、子の満六歳に達した日の翌日以後における最初の学年の初めから、満十二歳に達した日の属する学年の終わりまで、これを小学校、義務教育学校の前期課程又は特別支援学校の小学部に就学させる義務を負う。ただし、子が、満十二歳に達した日の属する学年の終わりまでに小学校の課程、義務教育学校の前期課程又は特別支援学校の小学部の課程を修了しないときは、満十五歳に達した日の属する学年の終わり(それまでの間においてこれらの課程を修了したときは、その修了した日の属する学年の終わり)までとする。
A 保護者は、子が小学校の課程、義務教育学校の前期課程又は特別支援学校の小学部の課程を修了した日の翌日以後における最初の学年の初めから、満十五歳に達した日の属する学年の終わりまで、これを中学校、義務教育学校の後期課程、中等教育学校の前期課程又は特別支援学校の中学部に就学させる義務を負う。
B 前二項の義務の履行の督促その他これらの義務の履行に関し必要な事項は、政令で定める。
第十八条 前条第一項又は第二項の規定によつて、保護者が就学させなければならない子(以下それぞれ「学齢児童」又は「学齢生徒」という。)で、病弱、発育不完全その他やむを得ない事由のため、就学困難と認められる者の保護者に対しては、市町村の教育委員会は、文部科学大臣の定めるところにより、同条第一項又は第二項の義務を猶予又は免除することができる。
 高等学校 生徒
 大学    学生
幼稚園
学齢児童小学校
学齢生徒中学校
生徒高等学校
学生大学,高等専門学校
児童
道路交通法
第二章 歩行者の通行方法
(目が見えない者、幼児、高齢者等の保護)
3 児童(六歳以上十三歳未満の者をいう。以下同じ。)若しくは幼児(六歳未満の者をいう。以下同じ。)を保護する責任のある者は、交通のひんぱんな道路又は踏切若しくはその附近の道路において、児童若しくは幼児に遊戯をさせ、又は自ら若しくはこれに代わる監護者が付き添わないで幼児を歩行させてはならない。
6歳以上13歳未満の者
児童福祉法
第四条 この法律で、児童とは、満十八歳に満たない者をいい、児童を左のように分ける。
一 乳児 満一歳に満たない者
二 幼児 満一歳から、小学校就学の始期に達するまでの者
三 少年 小学校就学の始期から、満十八歳に達するまでの者

児童虐待防止法など
満18歳に満たない者
少年/少女児童福祉法

少年法
第一章 総則
(定義)
第二条 この法律において「少年」とは、二十歳に満たない者をいう。
小学校就学の始期から、満十八歳に達するまでの者

20歳に満たない者
 小人/大人

乗り物,風呂屋,入場料など:

大人(だいにん,おとな)/小人(しょうにん)という年齢区分.

12才までを小人,大人は中学生以上とすることが多い.

例えば:松山城の例

      今治城では18才未満(子ども)は無料

 若者 15-29
 青年(青春)健康日本21
 幼年期 0-4
 少年期 5-14
 青年期15-29
 壮年期30-44
 中年期45-64
 高年期65-

Wikipedia「青年」

青春 Youth:Samuel  Ullman



15-29




その他いろいろ

Youth is not a time of life; it is a state of mind.
青春とは人生の或ある期間を言うのではなく心の様相を言う.優れた創造力,逞ましき意志,炎ゆる情熱,怯懦を却りぞける勇猛心,安易を振り捨てる冒険心、こう言う様相を青春と言う.人は年を重ねただけで老いない.理想を捨てることによって老いる.
おとな成年者(成人)日本国憲法
第十五条 公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。
B 公務員の選挙については、成年者による普通選挙を保障する。
公職選挙法
(選挙権)
第九条 日本国民で年齢満十八年以上の者は、衆議院議員及び参議院議員の選挙権を有する。
民法
第三節 行為能力
(成年)
第四条 年齢十八歳をもって、成年とする。
18歳以上
中高年齢者

高年齢者
高年齢者等の雇用の安定等に関する法律施行規則
第一章 総則
(高年齢者の年齢)
第一条 高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(昭和四十六年法律第六十八号。以下「法」という。)第二条第一項の厚生労働省令で定める年齢は、五十五歳とする。
(中高年齢者の年齢)
第二条 法第二条第二項第一号の厚生労働省令で定める年齢は、四十五歳とする。
中高年齢失業者等の範囲)
第三条 法第二条第二項第二号の厚生労働省令で定める範囲の年齢は、四十五歳以上六十五歳未満とする。

45歳以上65歳未満

55歳以上

 ☛ 法令では,高年齢者(55歳以上)高年齢者(65歳以上)の区別を要するみたいである.
高齢者国連
WHO
  前期高齢者
  後期高齢者

日本老年医学会の提言:
高齢者に関する定義検討ワーキンググループ報告書
  准高齢者
  高齢者
  超高齢者
60才以上
65才以上
  65ー74才まで
  75才以上



  65-74才
  75-89才
  90才以上

高齢世帯国民生活基礎調査65
   
後期高齢者 80歳以上
   
老人老人福祉法 第五条の四
所得税法の「老人扶養家族」
65歳以上の者
75
70

 

・医療法施行規則第十六条に関する疑義について〔「小児」の範囲〕(◆昭和31年05月21日医収第1860号) (mhlw.go.jp)

○医療法施行規則第十六条に関する疑義について

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医療法の疑義について

(昭和三一年五月一日 三一医第三七○号)

(厚生省医務局長あて長野県知事照会)

昭和三十一年二月二十三日付省令第一号をもって改正された医療法施行規則のうち左記について疑義がありますので御見解を承りたく照会いたします。

 

 

医療法施行規則第十六条第一項第四号の規定中「小児」とは具体的に何歳から何歳までを言うか。

 

(参考)

児童福祉法第四条

乳児 満一歳に満たない者

幼児 満一歳から小学校就学期に達するもの

児童 小学校入学期から満十八歳までのもの

 

学説(栗山博士)

小児とは出生から春機発動期(思春期)までをいう。

女児では、十四、五歳 男児では十六、七歳までをいう。

 

旅客及び荷物運送規則第九条

乳児 一歳未満

幼児 一歳から六歳未満

 六歳から十二歳未満

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医療法施行規則第十六条に関する疑義について

(昭和三十一年五月二十一日 医収第一八六○号)
(長野県知事あて厚生省医務局長回答)

昭和三十一年五月一日三一医第三七○号をもって照会の標記について左記の通り回答する。

医療法施行規則第十六条第一項第四号に規定する「小児」とは通常小児科において診療を受ける者をいうのであって、具体的に何歳から何歳までと限定することは困難である。

 

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薬生安発 0608 第1号
平 成 29 年 6 月 8 日
各都道府県衛生主管部(局)長 殿

厚生労働省医薬・生活衛生局安全対策課長
(公印省略 )

医療用医薬品の添付文書等の記載要領の留意事項について

(5)「9.7 小児等」の記載に当たって、新生児、乳児、幼児又は小児とはおおよそ以下を目安とする。

ただし、具体的な年齢が明確な場合は「○歳未満」、「○歳以上、○歳未満」等と併記すること。なお、これ以外の年齢や体重による区分を用いても差し支えないこと。

 @ 新生児とは、出生後 4 週未満の児とする。
 A 乳児とは、生後 4 週以上、1 歳未満の児とする。
 B 幼児とは、1 歳以上、7 歳未満の児とする。
 C 小児とは、7 歳以上、15 歳未満の児とする

(6)「9.8 高齢者」の記載に当たって、高齢者とは 65 歳以上を目安とし、必要に応じて 75 歳以上の年齢区分に関する情報も記載すること。ただし、記載に当たって具体的な年齢が明確な場合は「○歳以上」と併記すること。なお、これ以外の年齢区分を用いても差し支えないこと。

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子供
こども
子ども

乳児
幼児
小児
園児
児童
生徒
学生
若者
少年・少女
青少年
青年成人

高齢者

高齢世帯
後期高齢者
老人
Child
Child
Child

infant, baby
toddler
Child, pediatric
preschool child
Child
Student, Pupil
Student
Youth
Boys and Girls
Youth, adolescent
Youth Adult

Elderly
Elderly Households
Late-Stage Senior Citizens
Older Adults

 

子ども権利条約

1989年「子どもの権条約」は国連で採択され,1990年国際条約として発効.
日本は1994年4月22日に批准し,1994年5月22日に発効した.

政府訳:

第24条
1.締約国は、到達可能な最高水準の健康を享受すること並びに病気の治療及び健康の回復のための便宜を与えられることについての児童の権利を認める。締約国は、いかなる児童もこのような保健サービスを利用する権利が奪われないことを確保するために努力する。
2.締約国は、1の権利の完全な実現を追求するものとし、特に、次のことのための適当な措置をとる。
 a. 幼児及び児童の死亡率を低下させること。
 b. 基礎的な保健の発展に重点を置いて必要な医療及び保健をすべての児童に提供することを確保すること。

☛ 「子どもの歯科矯正」 における公的医療保険の国際比較(OECD加盟国)

☛ ヨーロッパ諸国における歯科矯正医療の公的医療保険の現状(2010)

 c. 環境汚染の危険を考慮に入れて、基礎的な保健の枠組みの範囲内で行われることを含めて、特に容易に利用可能な技術の適用により並びに十分に栄養のある食物及び清潔な飲料水の供給を通じて、疾病及び栄養不良と戦うこと。
 d. 母親のための産前産後の適当な保健を確保すること。
 e. 社会のすべての構成員特に父母及び児童が、児童の健康及び栄養、母乳による育児の利点、衛生(環境衛生を含む。)並びに事故の防止についての基礎的な知識に関して、情報を提供され、教育を受ける機会を有し及びその知識の使用について支援されることを確保すること。
 f. 予防的な保健、父母のための指導並びに家族計画に関する教育及びサービスを発展させること。
3.締約国は、児童の健康を害するような伝統的な慣行を廃止するため、効果的かつ適当なすべての措置をとる。

   ☛ 我が国における「子どもの歯列矯正は審美・美容とする考え」は,伝統的な慣行に当たらないか?

       ↳ 国税庁,厚生労働省,文部科学省の省庁間における見解の相違(下表参照

 国税庁子どもの歯科矯正は医療費として医療費控除可としている.
 厚生労働省不正咬合は疾病でなく美容目的との見解であるが,厚生労働省監修の国際疾病分類では疾病として分類記載されており,不可解な矛盾がある.
 文部科学省学校健診における不正咬合:子どもの健康に影響を与えるとして学校健診を実施.その後の対応に国民より多数の疑問.

4.締約国は、この条において認められる権利の完全な実現を漸進的に達成するため、国際協力を促進し及び奨励することを約束する。これに関しては、特に、開発途上国の必要を考慮する。

ユニセフ協会抄訳

第24条 健康・医への権
   子どもは,健康でいれ,必要な医療や保健サービスを受ける権利をもっています.

 

こども基本法

(施行期日)
第一条 この法律は、令和五年四月一日から施行する。
(検討)
第二条 国は、この法律の施行後五年を目途として、この法律の施行の状況及びこども施策の実施の状況を勘案し、こども施策が基本理念にのっとって実施されているかどうか等の観点からその実態を把握し及び公正かつ適切に評価する仕組みの整備その他の基本理念にのっとったこども施策の一層の推進のために必要な方策について検討を加え、その結果に基づき、法制上の措置その他の必要な措置を講ずるものとする。

 

こども家庭庁設置法

こども家庭庁は、心身の発達の過程にある者(以「こども」という。)が自立した個人としてひとしく健やかに成長することのできる社会の実現に向け、子育てにおける家庭の役割の重要性を踏まえつつ、こどもの年齢及び発達の程度に応じ、その意見を尊重し、その最善の利益を優先して考慮することを基本とし、こども及びこどものある家庭の福祉の増進及び保健の向上その他のこどもの健やかな成長及びこどものある家庭における子育てに対する支援並びにこどもの権利利益の擁護に関する事務を行うことを任務とする。

 

こどもの医療費助成

多くの各自治体では,子どもの医療費の自己負担分を助成している.対象年齢は15歳,18歳など様々である.助成水準について,子どもの医療費の自己負担は,健康保険制度では原則、小学校入学前は2割、小学生以上は3割だが,各自治体が独自で無料化や軽減策などを実施し,助成水準は自治体によって異なる. 参考:広島市 

 

児童福祉法

第一章 総則

第一条全て児童は、児童の権利にする条約の精神にのつとり、適切に養育されること、その生活を保障されること、愛され、保護されること、その心身の健やかな成長及び発達並びにその自立が図られることその他の福祉を等しく保障される権利を有する。

第二条 全て国民は、児童が良好な環境において生まれ、かつ、社会のあらゆる分野において、児童の年齢及び発達の程度に応じて、その意見が尊重され、その最善の利益が優先して考慮され、心身ともに健やかに育成されるよう努めなければならない。
 A 児童の保護者は、児童を心身ともに健やかに育成することについて第一義的責任を負う。
 B 国及び地方公共団体は、児童の保護者とともに、児童を心身ともに健やかに育成する責任を負う。
第三条 前二条に規定するところは、児童の福祉を保障するための原理であり、この原理は、すべて児童に関する法令の施行にあたつて、常に尊重されなければならない。

 

子ども・若者育成支援推進法

第一章 則
(目的)
第一条 この法律は、子ども・若者が次の社会を担い、その健やかな成長が我が国社会の発展の基礎をなすものであることにかんがみ、日本国憲法及び児童の権利に関する条約の理念にのっとり、子ども・若者をめぐる環境が悪化し、社会生活を円滑に営む上での困難を有する子ども・若者の問題が深刻な状況にあることを踏まえ、子ども・若者の健やかな育成、子ども・若者が社会生活を円滑に営むことができるようにするための支援その他の取組(以下「子ども・若者育成支援」という。)について、その基本理念、国及び地方公共団体の責務並びに施策の基本となる事項を定めるとともに、子ども・若者育成支援推進本部を設置すること等により、他の関係法律による施策と相まって、総合的な子ども・若者育成支援のための施策(以下「子ども・若者育成支援施策」という。)を推進することを目的とする。

(基本理念)
第二条 子ども・若者育成支援は、次に掲げる事項を基理念として行われなければならない。
一 一人一人の子ども・若者が、健やかに成長し、社会とのかかわりを自覚しつつ、自立した個人としての自己を確立し、他者とともに次代の社会を担うことができるようになることを目指すこと。
二 子ども・若者について、個人としての尊厳が重んぜられ、不当な差別的取扱いを受けることがないようにするとともに、その意見を十分に尊重しつつ、その最善の利益を考慮すること。
三 子ども・若者が成長する過程においては、様々な社会的要因が影響を及ぼすものであるとともに、とりわけ良好な家庭的環境で生活することが重要であることを旨とすること。
四 子ども・若者育成支援において、家庭、学校、職域、地域その他の社会のあらゆる分野におけるすべての構成員が、各々の役割を果たすとともに、相互に協力しながら一体的に取り組むこと。
五 子ども・若者の発達段階、生活環境、特性その他の状況に応じてその健やかな成長が図られるよう、良好な社会環境(教育、医療及び雇用に係る環境を含む。以下同じ。)の整備その他必要な配慮を行うこと。
六 教育、福祉、保健、医療、矯正、更生保護、雇用その他の各関連分野における知見を総合して行うこと。
七 修学及び就業のいずれもしていない子ども・若者その他の子ども・若者であって、社会生活を円滑に営む上での困難を有するものに対しては、その困難の内容及び程度に応じ、当該子ども・若者の意思を十分に尊重しつつ、必要な支援を行うこと。

第二章 子ども・若者育成支援施策

(子ども・若者育成支援推進綱)
第八条 子ども・若者育成支援推進本は、子ども・若者育成支援施策の推進を図るための大綱(以下「子ども・若者育成支援推進大綱」という。)を作成しなければならない。

2 子ども・若者育成支援推進大綱は、次に掲げる事項について定めるものとす。
 一 子ども・若者育成支援施策に関する基本的な方針
 二 子ども・若者育成支援施策に関する次に掲げる事項
   イ 教育、福祉、保健、医療、矯正、更生保護、雇用その他の各関連分野における施策に関する事項
   ロ 子ども・若者の健やかな成長に資する良好な社会環境の整備に関する事項
   ハ 第二条第七号に規定する支援に関する事項
   ニ イからハまでに掲げるもののほか、子ども・若者育成支援施策に関する重要事項

 

こども政策の充実 予算の在り方

令和4年1月17(月)議院 予算委員会

 全世代型社会保 子育政策 イフステージに応じた支援についての議論

  発言者:高木陽介(公明党),答弁者:岸田文雄(内閣総理大臣)

子ども不妊治の保険適用,教科書の無償配布,出産育児一時金の増額,幼児教育保育の無償化
子ども家庭庁の来年度からの発足.子供の年齢に応じた支援について

全世代型社会保障構築本部

日本の子育て関連の公的支出は対GDP比で欧州諸国の分程度であり,子どもの関連予算の倍増も緊の課題ですよね.
基本的な考え方として,子どもの視点に立って必要な子ども政策は何か?財源について社会前提でどのように負担するのか,考え方を整理し,その上で倍増の議論を進めていかなければならない.来年の「骨太の方針」には倍増の道筋を示していきたい.

動画

 

 

 

― 歯科口腔保健の推進に関する法律(平成23年)

 

平成二十三年法律第九十五号
歯科口腔保健の推進に関する法律

(目的)
第一条 この法律は、口腔くうの健康が国民が健康で質の高い生活を営む上で基礎的かつ重要な役割を果たしているとともに、国民の日常生活における歯科疾患の予防に向けた取組が口腔の健康の保持に極めて有効であることに鑑み、歯科疾患の予防等による口腔の健康の保持(以下「歯科口腔保健」という。)の推進に関し、基本理念を定め、並びに国及び地方公共団体の責務等を明らかにするとともに、歯科口腔保健の推進に関する施策の基本となる事項を定めること等により、歯科口腔保健の推進に関する施策を総合的に推進し、もって国民保健の向上に寄与することを目的とする。

(基本理念)
第二条 歯科口腔保健の推進に関する施策は、次に掲げる事項を基本として行われなければならない。
一 国民が、生涯にわたって日常生活において歯科疾患の予防に向けた取組を行うとともに、歯科疾患を早期に発見し、早期に治療を受けることを促進すること。
二 乳幼児期から高齢期までのそれぞれの時期における口腔とその機能の状態及び歯科疾患の特性に応じて、適切かつ効果的に歯科口腔保健を推進すること。
三 保健、医療、社会福祉、労働衛生、教育その他の関連施策の有機的な連携を図りつつ、その関係者の協力を得て、総合的に歯科口腔保健を推進すること。

(国及び地方公共団体の責務)
第三条 国は、前条の基本理念(次項において「基本理念」という。)にのっとり、歯科口腔保健の推進に関する施策を策定し、及び実施する責務を有する
2 地方公共団体は、基本理念にのっとり、歯科口腔保健の推進に関する施策に関し、国との連携を図りつつ、その地域の状況に応じた施策を策定し、及び実施する責務を有する。

(歯科医師等の責務)
第四条 歯科医師、歯科衛生士、歯科技工士その他の歯科医療又は保健指導に係る業務(以下この条及び第十五条第二項において「歯科医療等業務」という。)に従事する者は、歯科口腔保健(歯の機能の回復によるものを含む。)に資するよう、医師その他歯科医療等業務に関連する業務に従事する者との緊密な連携を図りつつ、適切にその業務を行うとともに、国及び地方公共団体が歯科口腔保健の推進に関して講ずる施策に協力するよう努めるものとする。

 国民への公平な歯科口腔保健に関する施策(公的医療保障)から 歯科矯正 が除外されているのはなぜか?

学校歯科健診後の医療資源の公平な配分

歯科矯正専門医制度は,すべての国民が良質で適切な歯科矯正医療へのアクセスを公平に享受できることにつながるのだろうか?

我国の歯科医療は世界で公的医療保障が最も高い国の一つとされているが,「歯科矯正」に限ると,日本の歯科医における健康概念の遅れから社会的意義は不明瞭となり,政府見解や歯科医師自身からも美容整形技術であるかのように解釈されてている.その結果,国民は大きな経済的負担を求められ,歯科矯正医療へのアクセスの不平等は口腔の健康格差の社会的決定要因となっている.

 国や自治体の施策から除外されている歯科矯正に対し,大学での教育や矯正歯科専門医制度は必要であろうか?

 国民への平等な医療提供制度,口腔の健康格差の是正はいかにあるべきか?

 

  子どもの歯科矯正 への公的医療保険の国際比較(OECD加盟国 2016)
 ☛ ヨーロッパ諸国における歯科矯正医療の公的医療保険の現状(2010)
 ☛ 
米国における歯科矯正の公的医療保険.「医学的に必要な歯科矯正」基準

      ・ 米国の各州における歯科矯正医療費助成メディケイドの比較 2015

 

 

 

― 学校における歯科健康教育の国際比較

 

口腔保健プログラム(OHP;Oral Health Program)

 

ワシントンDC

School-Based Oral Health Programs (ボストン大学)

School-based Oral Health Programs(オレゴン州)

Integrating Oral Health into School Health Programs and Policies(カルフォルニア州)

Natinal School Oral Health Programme(インド)

School Oral Health Progeam(クウェート)

 

 

    いじめ,自尊心,QOLと歯列不正との関係

子どもの権利条約:子どもの健やかな成長への健康を享受する環境の確保

 

 

歯列矯正といじめについて:

我が国と西洋諸国における相違:西洋先進諸国においては歯列異常(歯並びがわるいこと)が いじめ の対象となり,健康上の理由(社会的,精神的,身体的)や生活機能(身体機能,社会参加,制約)といった社会生活や自尊心の改善のため歯科矯正医療が公衆衛生上の問題として,公平な社会保障制度によって国民に提供されている.一方,わが国では,治療のためにつける装置自体が いじめ の対象となることが報告されていることが大きな相違である.これは,我が国においては,国際疾病分類においても「歯や顎の大きさや位置異常」は疾病分類されているにもかかわらず,歯列不正は個人の問題と政府も考えていることによる.子どもたちの健やかな発育,学校社会における公平な医療アクセスを学ぶ場においてさえも公平な歯科矯正医療へのアクセスが保障されておらず,子どもたちの社会においてさえ,歯列不正を治療している子どもは裕福な子どもであり,歯科矯正医療に対する不平等感の認識が存在していることは実際の医療現場においても体験することが多い.

わが国の賃金の伸びは低迷しており,歯科矯正医療には高額な費用を要することから,社会経済的理由によって歯科矯正医療へのアクセスの公平性が制限されており,歯科矯正医療を享受できない多くの子どもたちが存在している.公平な学校教育の場において,歯列矯正をできる子 と できない子 の 不平等感 を子どもたちは感じ, いじめ の対象となるのではないだろうか? 

歯科矯正 と いじめ については,こうしたわが国の医療制度の是正がなされていない背景を理解する必要がある.公平な不平等なき学校環境が構築されるよう早急な是正が必要である.

  ⇒(こどもの権利条約:公平な医療を受ける権利)

 

  日 本 西洋諸国
いじめ の対象 
装着された矯正器具
歯列・顔貌の異常
(上顎前突,開咬など)
背 景
歯列矯正は高額
不平等な学校現場
公的医療保障
子どもたちの健康は公平に保障

 

実際の事例: 

@ 双子の子ども(小学生,上顎前突): 歯列矯正.一期治療として顎の発育を促進する治療を行っていた.明るい母親と2人の子どもはいつも予約時間どうりに受診し,治療経過についてもいつも笑顔で応対していたが,ある日キャンセルがありしばらく来られなかった.3ヵ月ぐらい後に電話予約があり,待合室では父親と子どもが待っており母親の姿がなかった.私も「こんにちは,久しぶりですね.いつもお母さまとこられていたのですがお元気ですか?」と話しかけたところ,父親から「妻は先月ガンで急に亡くなりました」とのお話をいただき,費用負担の面からも治療を中止したいとの申出をいただいた.一期治療のため,可撤式装置FKOを使用し,ある程度の改善が得られ二期治療に移るまえであったが,今後の経済的負担を考え治療継続は中止せざるをえなかった.(応召義務とのジレンマ)

A 女子生徒(高校生,乱杭歯): 歯並びの治療を希望して母親と受診.検査を終え,治療計画の説明を行い,明るい朗らかな女子生徒は楽しそうに話を聞いていた.治療費の説明になったところで,女子生徒はしだいにうつむき加減になり,「治療はやっぱりしたくない」 と言い出した.母親も 「えっ,どうして?」 と聞くが,泣きだす.しだいに落ち着き 「だってこんなにお金かかるんだったら,したくない.だってうちこんなお金ないじゃん」 と言う.母親も驚き 「えっ,あんたばかねぇ,先生すいません」 と,母は思わぬ子どもの言葉に涙し,またご連絡いただくことになったが,ご連絡はまだない.(医療とは何か)

B 女子生徒(不登校):日本学校歯科医会 柘植紳平会長はご自身の体験として,不登校になった女子生徒が,その原因として,歯並びが悪いことを気にして治療を望んでいたが家庭での折り合いがあわず,父親からも治療への理解と援助ができなかったことの事例を,講演(第28回福岡県学校歯科保健研究大会, 2023/11/18, 時局講演 「学校歯科保健の最新の動向」 )の中で述べられた.学校歯科健診は実施されているが,その後の事後処置について,社会経済的理由からアクセスできない国民が多く存在している.児童生徒の自尊心や外見上の問題は健康上の問題であり,これを改善することは子どもの健やかな精神発育や社会生活にとって重要であるとの認識,我が国においては健康の社会的・精神的側面が軽視され,公的医療保障の適用は見送られ続けている.不登校児(社会参加への制約)の事例の中に,同様の児童生徒が多く含まれることは,以下の先行研究からも容易に推察される.

 @,Aのような事例は,歯科医師(とくに矯正歯科医)のほとんどは,必ず何度も経験している.

問: (社会疫学の視点)  わが国の国民が公平に享受できていない歯科矯正は医療なのか?

(文化歴史背景)    欧米諸国と異なった現状となっているわが国の医療制度の問題はどこあるのか?

(社会・政策課題) 国家としての健康指標はどこにおくべきなのか?

 歯科矯正にかかる費用は,Web検索によって事前に調べられるようになっている今日では少なくなったが,以前には毎年何人もの患者が,治療費の説明のところで,えっ,こんなに費用がかかるのですか? と はじめて知ってびっくりすることがよくあった.

☛ わが国において,成人(社会人)の歯科矯正患者が多い理由は,このような社会背景に起因している.歯科疾患実態調査(平成4年度)において 「歯科矯正治療の経験」がはじめて調査されたが,被験者1,023名のうち経験者は7.7% と極めて少なく,我が国においては公平な医療ではなく,歯科矯正は美容医療なのである.西洋諸国の公的医療保障の適用基準のように,本来,歯科矯正の適切な時期は児童生徒の時期であり,20才までに歯科矯正治療は終わっているのが,公平な社会の理想である.わが国では20才以上の年齢で 「現在受けている」 と回答する被験者も多くこれを裏付ける結果が示されている.

 初診患者の受診理由欄に,「はやく治療したかったが家族に迷惑をかけたくなかった」,「社会人となり自分のお金ができた」 などを理由とする方は実に多い.

 

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出典:文部科学省  「学校歯科保険資料 生きる力をはぐくむ学校での歯・口の健康づくり.Q&A p.117.

令和元年度改訂版は,こちらから閲覧可能.内容は同じのため,文部科学省版を引用.

 

こどもの自尊心や社会参加への制約となっている歯ならび,歯の位置異常や顎骨の大きさの不正に対する歯列矯正医療には,これを享受するための健康格差が存在しており,わが国の児童生徒にとって公平な医療として成立していない.下記の文部科学省の回答からも経済的障壁によって医療アクセスのできない児童・生徒の存在が認識されているが,経済的負担に考慮した助言という言葉ではなく,制度設計の改正を国民は望んでいることは毎年の国会における請願においても示されている.わが国の児童・生徒は,子どもの自尊心,歯や顎骨の大きさや位置異常といった歯科矯正医療を公平に享受できないのはなぜであろうか?

 

 

【社会課題】 現状と解決策.経済的な負担等についても考慮した助言とはどのようなものか?

 

 現実の学校では,「児童生徒の家庭での経済的負担についても考慮」 するために,健診(検診)でありながら,その結果を厳しくしないように 「配慮」 することを養護教諭から求められたり,学校歯科医自身が自発的な考慮をすることはよく聞く話である.これは歯列・咬合の異常について医学的な治療を行った方が,その児童生徒の健やかな成長や外見的な社会参加にもよいことはわかっているのであるが,公的医療保障の適用もなく,経済的負担の大きさから,医療費を支払うことができない(治療ができない)児童生徒が多いのである.法令上においても,基幹統計である歯科疾患実態調査では国際疾病分類に沿って調査することが定められているが,厚生労働省では長年にわたってその調査を行っていない.疾病と規定されているにもかかわらず,その治療が受けられないことから,学校健康診断において「意図的な誤診」という検診結果に温情?を加えて 「異常なし」 とすることが長年にわたって蔓延しているのである.政府もこれに対して 「歯科矯正は審美的要素が大きい」 という論理でその本質,こどもの健やかは発育や外見上の自尊心の回復という健康上の問題解決を先延ばしにしていることは,各省庁間の対応の混乱からも明らかなのである.

総務省,国税庁,厚生労働省,文部科学省の省庁間における見解の相違

 総務省 統計法(平成19年法律第53号。以下「法」という。)第28条第1項の規定に基づき、法第2条第9項に規定する統計基準として、ICDに準拠した「疾病、傷害及び死因の統計分類」を告示している。 現在、国内で使用している分類は、ICD-10(2013年版)に準拠しており、統計法に基づく統計調査に使用されるほか、医学的分類として医療機関における診療録の管理等に活用されている。
3 分類表

   (1)疾病、傷害及び死因の統計分類基本分類表
        第XI章消化器系の疾患
         口腔,唾液腺及び顎の疾患 (K00−K14)
          K07 歯顎顔面(先天)異常[不正咬合を含む]
          K07.0 顎の大きさの著しい異常
          K07.1 顎と頭蓋底との関係の異常
          K07.2 上下歯列弓の位置的関係の異常
          K07.3 歯の位置異常
          K07.4 不正咬合,詳細不明
          K07.5 歯顎顔面の機能的異常
          K07.6 顎関節障害
          K07.8 その他の歯顎顔面の異常
          K07.9 歯顎顔面の異常,詳細不明
 国税庁 子どもの歯科矯正は医療費として医療費控除可としている.
 厚生労働省 不正咬合は疾病でなく美容目的との見解であるが,
厚生労働省監修の国際疾病分類では疾病として分類記載されている.




 文部科学省 学校健診における不正咬合:子どもの健康に影響を与えるとして学校健診を実施.その後の対応に国民より多数の疑問.
     

 

 

 医学的に治療が必要な児童生徒(子ども)の歯列・咬合の異常は,どの国の,どの時代の調査報告においても,疫学的調査によって35-40%であることが報告されているが,わが国の学校歯科健診における歯列・咬合の異常は著しく低い.その理由は先に述べたが,地域によって 2-10% という4倍以上の大きな開きがあることは,検査を行っている歯科医師の倫理感の違いであろう.ある疾患がある県や学校においてずいぶん違うことはなぜだれも指摘したり,原因を調査しないのであろうか?統計調査として総務省や厚生労働省はその指針による評価は必要ではないのであろうか.

 

 児童生徒への学校側の「配慮」 と 学校歯科医の「倫理的ジレンマ」 の影響について.

 

下記の学校歯科保健資料における回答内容や,学校歯科医会会長のご講演内容,また実際の歯科矯正臨床の現場においても,歯列矯正中の子どもが 「いじめ」 や 「からかい」 にあうことは周知の事実であり,日本学校歯科医会や文部科学省においても十分に認識されていることがわかる.学校生活における子どもたちの健やかな生活環境,格差なく公平に歯科矯正医療を受けられるために必要な支援とはどうすればよいのであろうか,わが国の児童・生徒の学校環境において,子どもたちの自尊心を育み,歯や顎骨の大きさや位置異常といった医学的に必要な歯科矯正医療に格差なく享受できるようにするためには必要な解決策について考えてみよう.

 

解決策は?:こどもの歯科矯正医療への公的医療適用範囲を諸外国なみに拡大することで,こどもの健やかな発育や公平に歯科矯正医療を受ける社会とする.

 

出典:文部科学省  「学校歯科保険資料 生きる力をはぐくむ学校での歯・口の健康づくり.Q&A p.117.

令和元年度改訂版は,こちらから閲覧可能.内容は同じのため,文部科学省版を引用.

 

【社会課題】 からかわれたりしないような支援とは?

 ⇒ 社会支援,公平な医療配分のあり方(健康格差)などについて,児童・生徒で考える機会とする.

【背景】 西洋諸国(イギリス,フランス,ドイツ,カナダ,アメリカ,北欧諸国)では,歯ならび(歯の位置や顎骨の大きさの異常)は,子どもの口腔の発育といった身体的健康,また社会参加への制約や自尊心に影響する社会的・精神的健康の問題として,社会にも受容され,公的医療保障の対象となり,子どもたちの公平な歯科矯正医療へのアクセスが保障されています.

だれでも必要な時に負担可能な費用で歯科矯正治療が受けられるUHCが実現されており,「歯並びが悪いこと」 が からかい や いじめ の対象となることは少なくなっています.ところが,日本では,こうした状況になく,矯正装置の装着によって からかい の原因となることを心配する児童や保護者が多いのが現状です.社会的支援,医療の公平な配分のあり方について考えてみましょう.

 健康は,怪我や病気でないというだけではありません.好きな人が転校したり,家族に不幸があったりするとがっかりして何日も落ち込んだりするのを心の病(精神的健康)というように,健康は,病気でないというだけでなく,身体的,社会的,精神的によい状態 well-being を本当の健康といいます(WHO).

日本では,歯の位置異常や顎骨の大きさの異常は,子どもにとってはまだ必要のない贅沢なものであると政府は考えているので,費用も高額になり必要な時に受けられない人々がたくさんいます.子どもの発育における身体的な健康上の問題だけでなく,外見は社会参加や自尊心に影響する社会的・精神的健康の問題としてとらえ,医学的にも必要な医療として社会に受容される公的医療保障の対象となるようにするにはどうすればいいでしょうか? 

 ⇒ 健康とはなにか考えてみましょう? 子どもの健康であるための医療を公平に受けられる権利,諸外国の医療制度の違い,文化背景,健康格差,UHCなど.児童生徒自身で,これらの社会課題を考える機会とする.

 

ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC

すべての人々が基礎的な保健医療サービスを、必要なときに、負担可能な費用で享受できる状態.

わが国の歯科医療はUHCが達成されていることになっているが,歯科矯正はそうではない.代替療法のある分野,例えば,歯の欠損部の修復,インプラント治療や審美治療では,保険診療と自費診療を選択可能である.しかし,歯科矯正:歯や顎骨の大きさや位置の不正の治療では,基礎的な保健医療サービスを受けることができない児童・生徒が多く,こうした子供たちは,成人になって自分でお金をためて治療開始することが多い.日本の成人矯正患者が多い事情でもある.歯科界にはすべきことがあるのではないだろうか?

 

 

 

 

 

 

いじめは歯列不正と科学的に関係

Bullying scientifically linked to malocclusion
British Dental Journal, 211: 587- 2011.

 

歯列不正といじめには関係があるのか? システマティックレビュー

Is there a relationship between malocclusion and bullying? A systematic review
Progress in Orthodontics, 21: 26- 2020.

すべての研究は言葉によるいじめを評価し、3つの研究では身体的ないじめも検討した。いずれのタイプも不正咬合と関連していることが報告され、極端なオーバージェット(4mm以上、6mm以上、9mm以上)、極端な深い過蓋咬合、前歯の離開や歯が欠損していることが、いじめと最も強い関係を持つ不正咬合のタイプであることが示された。このシステマティック・レビューの結果は、目立つ極端な不正咬合は、児童や青少年のいじめの発生に関係していることを示唆していた。

 

不正咬合・矯正治療が及ぼす心理的・機能的影響 : 岡山大学歯学部附属病院矯正科におけるアンケート調査
Psychological and functional problems of malocclusion and orthodontic treatment on patients and parents:

 Questionnaire at the Department of Orthodontics, Okayama University Dental Hospital
Orthodontic waves: Journal of the Japanese Orthodontic Society : 日本矯正歯科学会雑誌 58 (1), 65-75, 1999.

岡山大学歯学部附属病院矯正科における患者および保護者にアンケート調査を実施し, 患者719人(男子233人, 女子486人), 保護者555人(男子患者199人, 女子患者356人)から, 「矯正治療前, 歯並びや口元のことでからかわれたりいじめられたことがあった」と答えたのは男子9.4%, 女子12.1%であった.治療においては,矯正装置のことで男子6.7%女子17.2%が,からかわれたりいじめられたことがあると答えていた.また,男子40.0%,女子56.9%は装置を付けているのがはずかしいと答えている.

特に,興味深い結果として,患者の男女のも90%程度が治療してよかったと回答し,その60%程度は将来子どもにも治療を受けさせると答えているが,友人に矯正治療を勧める患者は22%と極端に低下する.子どもの持つ繊細な経済的格差への気遣いであろう.公的医療保障の適用があれば,この結果もいじめの存在も随分変わるであろう.

 

 ☛ 本研究では,口唇裂・口蓋裂患者,顎変形症患者は調査から除外.公的医療保障の適用されるこれらの重度歯列不正患者(IOTN Grade5)をふくめると,より高い頻度になるのではないか.

 

 ☛ 社会経済的理由から,歯列矯正医療へのアクセスができない子どもたちが,学校において健やかな生活ができるように,公平な医療を保障する権利について.

   ☛ 子どもの権利条約

第24条
1.締約国は、到達可能な最高水準の健康を享受すること並びに病気の治療及び健康の回復のための便宜を与えられることについての児童の権利を認める。締約国は、いかなる児童もこのような保健サービスを利用する権利が奪われないことを確保するために努力する。

 

傷つきやすい青少年における不正咬合といじめの関係

Correlation between malocclusion and history of bullying in vulnerable adolescents
Angle Orthod (2022) 92 (5): 677–682.

矯正治療の必要性を自己認識することと、前方オーバージェットの増加との間に興味深い相関関係が示され,先行研究と一致し、年齢に応じて個人の不正咬合に対する意識が高まっていることを示した.一般的な文献では、オーバージェットの増加は、笑顔の審美性に最も影響を与え、口腔関連QOLに影響を与える咬合状態の1つであると報告されており,矯正治療の必要性は、口腔健康関連QOLに2倍のマイナスの影響を与えた。今回の調査結果は、このテーマの臨床的妥当性を補強するものであった。いじめ防止対策は、思春期の子どもたちを支援する上で不可欠な役割を果たす学校環境において効果的でなければならない。結論として,不正咬合はいじめ歴と相関しなかったが,上顎のオーバージェットの増加は、青年の自己認知に影響を与え、いじめの潜在的な条件となることが示唆された。

 

ブラジルのティーンエイジャーにおける口腔の健康に関連したQOL、矯正治療の必要性、いじめとの関係

The relationship between oral health-related quality of life, the need for orthodontic treatment and bullying, among Brazilian teenagers

Dental Press J. Orthod. 24 (2): 73-80, 2019.

矯正歯科治療は、口腔の健康と機能回復を主な目的としているが、心理的・社会的影響が結局は治療需要の主な理由となっている。目的:ブラジルのティーンエイジャーにおける口腔健康関連QOL(OHRQoL)、矯正治療の必要性、いじめとの関連を明らかにすること。方法:これは横断疫学研究である。不正咬合の評価にはDental Aesthetic Indexを用いた。また、OHRQoLの分析にはOral Health Impact Profile-14を用いた。いじめの調査にはKidscape質問票を用いた。また、以下の変数が含まれた:矯正治療の既往、見た目を良くするために歯を治したいという願望。多変量解析は、OHRQoLの低さを応答変数としたロジスティック回帰を用いて行った。結果:815人のティーンエイジャーが研究に参加した。口腔健康関連QOLと、矯正治療歴(p= 0.0270)、歯並びを治したいという願望(p< 0.0001)、性別(p= 0.0309)、いじめの被害歴(p< 0.0001)、いじめエピソードの頻度(p= 0.0170)、いじめの結果(p< 0.0001)という変数との間には、統計的に有意な関連が認められた。OHRQoL不良の危険因子として、矯正治療歴の欠如(OR=2.191)、いじめの悪影響(OR=3.042)が考えられた。

結論:矯正治療の必要性はOHRQoLと関連しなかったが、いじめと矯正治療歴はこの変数と統計的に有意な関連を示した。

 

 

Impact of oral health and body image in school bullying.

Spec Care Dentist. 2019;39 (4):375–379.

 

Seehra J, Newton JT, DiBiase AT.

Bullying in schoolchildren - its relationship to dental appearance and psychosocial implications: an update for GDPs.

Br Dent J. 2011; 14; 210 (9):411–415.

 

Al-Bitar ZB, Al-Omari IK, Sonbol HN, Al-Ahmad HT, Cunningham SJ.

Bullying among Jordanian schoolchildren, its effects on school performance, and the contribution of general physical and dentofacial features.

Am J Orthod Dentofacial Orthop. 2013;144 (6):872–878.

 

 

不正咬合が児童・青少年のQOLに及ぼす影響:定量的研究のシステマティック・レビュー

The impact of malocclusion on the quality of life among children and adolescents: a systematic review of quantitative studies
European Journal of Orthodontics, 37(3): 238–247, 2015.

質の高い4つの研究が、不正咬合がOHRQOLに悪影響を及ぼし、主に感情的・社会的ウェルビーイングの次元で悪影響を及ぼすと報告していることから、科学的証拠は強いと考えられた。

 

規範的矯正治療の必要性と口腔健康関連QOLの関係

The relationship between normative orthodontic treatment need and oral health-related quality of life

Community Dent Oral Epidemiol, 31(6):426-36, 2003.

矯正治療を終了した青少年は、現在治療中の青少年や治療を受けたことのない青少年よりも、日常生活活動に対する口腔保健上の影響が少な。IOTNを他の2つの口腔関連QOL尺度とと組み合わせることで、IOTN単独よりも青年の外見に対する知覚満足度についてより多くの情報が得られた。歯科矯正の必要性を評価する現行の方法は、有効な心理測定学的特性を有する口腔保健関連QOL測定や、必要性の認識測定によって補完されるべきである。

 

児童・生徒のいじめの対象としての審美的な歯の異常

Esthetic dental anomalies as motive for bullying in schoolchildren

Eur J Dent. 8(1): 124–128, 2014.

口腔を含む顔の審美性は、子供たちのQOLにも深刻な影響を与え、身体的、社会的、心理的な障害を引き起こす可能性がある。審美に関連した歯の異常を有する子どもは、いじめの標的となる可能性がある。本研究では、審美関連の歯の異常が原因で学校や家庭環境においていじめに苦しんでいる患者を紹介し、議論することを目的とした。審美性の欠如がいじめの主な原因である場合、適切な審美的歯科治療を提供することは、彼らのリハビリテーションの重要なステップである。歯科治療後、すべての患者の自尊心、自信、社会性、学業成績が著しく改善し、子供の外見に関する親の満足度も改善した。子供や青少年に対する攻撃的で差別的な行為を防止したり、阻止したりするためには、家庭や学校のケア提供者の双方がいじめについて常に注意を払うことが不可欠である。歯の異常がいじめの動機になることは明らかである。

 

 

☛  歯科矯正の歴史が浅く社会への適応が遅れている我が国においては,不正咬合といじめに関する調査研究はない.西洋諸国では いじめ の対象が,歯列不正や歯並びによる容貌であるのに対し,我が国においてはその対象が 歯列矯正装置 を装着していることが いじめ の対象となっていることが報告されている.これは,すなわち,所得格差など社会経済的状況によって,歯科矯正医療へのアクセスが容易な子どもたちと,十分な医療が受けられない子どもたちがわが国の学校現場には存在しており,子どもたちはこうした不平等を感じることによるものであろう.

☛  日本学校歯科医会の柘植紳平会長もご自身の体験として,ある不登校になった女子生徒が,歯並びが悪いことを気にし治療を望んでいたが家庭での折り合いが合わず治療ができないことが原因となっていたことをご講演(第28回福岡県学校歯科保健研究大会, 2023/11/18, 時局講演 「学校歯科保健の最新の動向」 )の中で述べている.学校歯科健診は実施されているが,このような自尊心や外見上の問題を改善することは健やかな健康上,大切なことであるが,我が国においては児童・生徒への公的医療保障の適用は放置されており,不登校児の中にこのような事例が含まれている現状は容易に推察される.

 

文部科学省 今後の健康診断の在り方等に関する意見 平成25年12月

いじめに正面から向き合う「考え、議論する道徳」への転換に向けて(文部科学大臣メッセージ)について(平成28年11月18日)

道徳の質的転換によるいじめの防止に向けて@

 

 

 

 

quality of life in British とはなにか?

 

(ˈkwɒlɪtɪ əv laɪf)

noun

the general well-being of a person or society, defined in terms of health and happiness, rather than wealth

Even when a condition can be totally cured, there is a period of reduced quality of life that most of us would just as soon avoid.

It is our responsibility to improve the quality of life for ourselves and others.

We have seen a worsening of the quality of life in our cities.

A healthy lifestyle leads to a better quality of life.

Collins English Dictionary. Copyright © HarperCollins Publishers

International Society for Quality of life Research(国際QOL研究学会)

 

 

歴史:下妻晃一郎 先生 行動医学研究 Vol.21, No. 1, 4–7, 2015 をご参照.

 

 この概念構造の基本は 1946年にWHOが提唱した健康の定義に基づいている。医療や福祉・介護の分野でQOLを論ずるには、概念の内容と範囲に関してのその分野における共通認識が必要である。医療者間でもよく議論がかみ合わないのは、概念の定義と範囲についての共通認識が不足していることが大きな原因と思われる。

QOLの概念の定義については、ISOQOLInternational Society for Quality of life Research)(国際QOL研究学会) などの専門学会で1980–90年代に深い議論が行われている。さらに、健康関連QOLHRQOL)という概念も1990年代の後半に提唱された。これは、QOLの中でも特に医療などの介入によって健康の改善が見込まれる部分、すなわち、スピリチュアリティと社会面の一部を除いた範囲の概念である。


 1949年には、医療者評価による身体的健康尺度である、KarnofskyPerformance StatusKPS) (後にECOG PSとして広く使われるように なる)が開発されたが、いずれも「主観」を測定する尺度ではなかった。一方、1960年代に入ると、米国のジョン ソン、ニクソンの二人の大統領が、quality of lifeという言葉を政策のスローガンに用いたとされ、一般にその言葉が認知されるようになったとされる。そして、本格的なQOLの概念を測定する自記式尺度の開発が世界的に 活発になったのが1970–80年代以降である。1984年には カナダの内科医であるSchipperが、がん患者用のQOL尺 度を開発し、それを栗原(昭和大学名誉教授)や江口(現、帝京大学教授)らが日本に紹介した。それを参考に、厚生省研究班(班長:栗原稔)で、日本で初めての本格的ながん患者用QOL尺度であるQOL-ACD1993年に開発された5)。同時期に欧州ではEORTC QLQが、米国ではFACTが開発されており、当時日本は欧米に研究面で後れを取っていなかった。 しかしその後日本では、残念ながらQOL尺度はあまり使われることがない時代が続いた。日本では市民の権利意識が薄かったことや、医学部や看護学部、薬学部など医療専門職の教育において、臨床疫学やEBM Evidence-Based Medicine)の考え方が21世紀に入るまで殆ど教えられることもなかったことや、医療心理の専門家が育たなかったことも、欧米に後れをとった理由の一つと思われる。

☛ 詳細は引用論文をお読みください.下妻晃一郎 行動医学研究 Vol.21, No. 1, 4–7, 2015

【引用】 飯田紀彦,北村由美,河原みどり,他 クオリティ・オブ・ライフ(QOL) の評価 自己記入式QOL質問表(QUIK) 及び改訂版(QUIK-R) の文献的展望,関西大学『社会学部紀要』第39巻第2号, 2008, pp.99-132

QOLという概念の源を探っていくと、近代自我主体の確立と、個人の生存権や幸福権の追求というモダニティの思想にたどりつく(Nordenfeld 1993、飯田1996)

医学において、治療目標のsurrogate endpointとしてQOLを評価する試みは、1948年のKarnofsky Performance Status Scaleによる化学療法の評価などが始まりで、1980年代になり、急速に数多の疾患特異的なQOL評価尺度が世界中で次々と開発されてきた。

QOL という概念が医学に導入された理由は、数量的検査成績や延命的治療効果をもっぱら重視してきた医療への反省として提唱されたものである(国府1990)

欧米におけるQOLとは四つ葉のクローバー(希望、信仰、愛情、幸福)であり、日本のQOLは、福禄寿(幸福、裕福、長寿)ではないか(飯田)

QOL-Oriented-Medicineは、曲解されているようなEvidence-Based-Medicine の対立軸ではなく、Evidence-Based-Medicine を基盤として、さらに心理的ー社会的ー実存的な存在である個人のオートノミーを包含した医療(Medical Service) を目指す潮流なのである。

このQOLの概念の原点は、近代西欧の自我主体の成立にある。

近代自我主体は、12 世紀のトーマス・アクイナスに始まる。その後、ルネッサンス、宗教革命、科学革命そして産業革命をへて近代の西欧において、個人が自ら選択し、自ら決断するオートノミーとしての個人尊重のあり方が唱えられた。

現代の精神医学や心理学における自我意識、客体としての自己や他者とのかかわりである間主観性などは、この自律性を有する自我主体が存在することによって成立する。そして、自律性を有する自我主体がめざすものとして、精神医学、心理学や健康学(メンタルヘルス)の立場からは、たとえばマズローのいう自我実現などが相当するし、近年治る見込みの無い疾患や、慢性的に症状が持続する疾患における治療目標として掲げられるQOLという概念もこの近代自我主体の考えを底としている。また、社会学的には、近代自我主体は、個人と社会という観点から捉えられ、前述のように、エミリー・ベンサムとジョン・スチュアート・ミルらが国家の干渉を少なくし、各人の利益追求を行うことを主張した。

 

なによりも大切にすべきは、ただ生きること ではなく、より良く生きることである (ソクラテス)

 

矯正歯科医療の結果として共通認識すべきQOLとはどこか?

  Angle paradigm  👉  Soft tissue paradigm

           健康 と 幸福

       個人の問題 と 社会の問題

 

QOL測定における尺度

health-related QOLHRQL

人の健康に直接影響するQOLであり,身体的状態,心理的状態,社会的状態,霊的状態,役割機能や全体的well-beingなどが含まれる

non-health related QOLNHRQL

環境や経済や政治など,人の健康に間接的に影響するが,治療などの医学的介入により直接影響を受けない部分のQOLを意味する 6)

 

口腔関連QOLのいろいろな尺度:

General Oral Health Assessment IndexGOHAI

Oral Health Impact ProfileOHIP

Oral Impacts on Daily Performance OIDP

Oral Health-related Quality of Life Model for Dental Hygiene OHRQL

Orthognathic Quality of Life QuestionnaireOQLQ

Index of orthodontic treatment needIOTN

child oral health impact profile (COHIP)

様々な口腔関連QOLの尺度が開発され,応用されている.それぞれの尺度には特徴があ り,多様な臨床および研究の条件下で標準となるものは認められていない.

 

 

矯正歯科 と Quality of Life

Göranson E, Sonesson M, Naimi-Akbar A, Dimberg L. Malocclusions and quality of life among adolescents: a systematic review and meta-analysis, European Journal of Orthodontics, 45(3): 295–307 2023.

Conclusions: There is moderate quality of evidence that malocclusions in adolescents have a negative impact on OHRQoL, after taking relevant confounders into consideration. Future studies should ideally use standardized measures for malocclusion ratings and OHRQoL.

吉田 光由 , 松尾 勝弘 , 和田本 昌良 , 佐藤 裕二 , 赤川 安正 , 津留 宏道 総義歯治療が無菌顎者の生活の質(QOL)に及ぼす影響に関する臨床的研究 広島大学歯学雑誌 25(1), 257-261, 1993-05-06

EBM  NBM

質的研究について

Shaw WCAddy MRay C. Dental and social effects of malocclusion and effectiveness of orthodontic treatment: a review. Community Dent Oral Epidemiol. 1980 Feb;8(1):36-45.

Shaw WCAddy MDummer PMRay CFrude N. Dental and social effects of malocclusion and effectiveness of orthodontic treatment: a strategy for investigation. Community Dent Oral Epidemiol. 1986 Feb;14(1):60-4.

Cunningham SJ, Hunt NP. Quality of life and its importance in orthodontics. J Orthod. 2001 Jun;28(2):152-8.

Tajima M1, Kohzuki M, Azuma S, Saeki S, Meguro M, Sugawara J. Difference in quality of life according to the severity of malocclusion in Japanese orthodontic patients. Tohoku J Exp Med. 2007 May;212(1):71-80.

Shaw WC1Richmond SKenealy PMKingdon AWorthington H. A 20-year cohort study of health gain from orthodontic treatment: psychological outcome. Am J Orthod Dentofacial Orthop. 2007 Aug;132(2):146-57.

Kiyak HA  Does Orthodontic Treatment Affect Patients’ Quality of Life? Journal of Dental Education August 2008, 72 (8) 886-894;

It behooves the general dentist and orthodontist to listen carefully to each patient’s understanding of his or her malocclusion and its impact on quality of life domains, including oral function, appearance, social acceptance, and emotional well-being. Only then can the process of patient education and informed consent be successfully completed.

Liu Z, McGrath C, Hägg U. The impact of malocclusion/orthodontic treatment need on the quality of life. A systematic review. Angle Orthod. 2009 May;79(3):585-91. doi: 10.2319/042108-224.1. Review.

Taylor KR, Kiyak A, Huang GJ, Greenlee GM, Jolley CJ, King GJ. Effects of malocclusion and its treatment on the quality of life of adolescents. Am J Orthod Dentofacial Orthop. 2009 Sep;136(3):382-92.

CONCLUSIONS: Malocclusion and orthodontic treatment do not appear to affect general or oral health QoL to a measurable degree, despite subjective and objective evidence for improved appearance, oral function, health, and social well-being.

Benson P1O'Brien CMarshman Z. Agreement between mothers and children with malocclusion in rating children's oral health-related quality of life. Am J Orthod Dentofacial Orthop. 2010 May;137(5):631-8. doi: 0.1016/j.ajodo.2008.06.033.

Hassan AH1Amin Hel-S. Association of orthodontic treatment needs and oral health-related quality of life in young adults. Am J Orthod Dentofacial Orthop. 2010 Jan;137(1):42-7. doi: 10.1016/j.ajodo.2008.02.024.

Agou S1Locker DMuirhead VTompson BStreiner DL. Does psychological well-being influence oral-health-related quality of life reports in children receiving orthodontic treatment?

Am J Orthod Dentofacial Orthop. 2011 Mar;139(3):369-77.

Zhou Y, Wang Y, Wang X, Volière G, Hu R1. The impact of orthodontic treatment on the quality of life a systematic review. BMC Oral Health. 2014 Jun 10;14:66.

CONCLUSIONS: Findings of this review suggest that there is an association (albeit modest) between orthodontic treatment and quality of life. There is a need for further studies of their relationship, particularly studies that employ standardized assessment methods so that outcomes are uniform and thus amenable to meta-analysis.

Zhou Y, Wang Y, Wang X, Volière G, Hu R1. The impact of orthodontic treatment on the quality of life a systematic review. BMC Oral Health. 2014 Jun 10;14:66.

CONCLUSIONS: Findings of this review suggest that there is an association (albeit modest) between orthodontic treatment and quality of life. There is a need for further studies of their relationship, particularly studies that employ standardized assessment methods so that outcomes are uniform and thus amenable to meta-analysis.

Dimberg L1Arnrup K2Bondemark L3. The impact of malocclusion on the quality of life among children and adolescents: a systematic review of quantitative studies. Eur J Orthod. 2015 Jun;37(3):238-47.

Gilchrist F1Marshman Z1. Does orthodontic treatment improve oral health-related quality of life? Evid Based Dent. 2015 Sep;16(3):86. doi: 10.1038/sj.ebd.6401118.

Dimberg L1Lennartsson B2Bondemark L3Arnrup K4. Oral health-related quality-of-life among children in Swedish dental care: The impact from malocclusions or orthodontic treatment need. Acta Odontol Scand. 2016;74(2):127-33.

Vanessa de Couto Nascimento, Ana Cláudia de Castro Ferreira Conti, Maurício de Almeida Cardoso, Danilo Pinelli Valarelli and Renata Rodrigues de Almeida-Pedrin  Impact of orthodontic treatment on self-esteem and quality of life of adult patients requiring oral rehabilitation  The Angle Orthodontist Sep 2016, Vol. 86, No. 5 (September 2016) pp. 839-845

Conclusions:  Orthodontic treatment causes a significant increase in self-esteem and QoL, providing psychological benefits for adult patients in need of oral rehabilitation.

Javidi H1, Vettore M1, Benson PE2. Does orthodontic treatment before the age of 18 years improve oral health-related quality of life? A systematic review and meta-analysis. Am J Orthod Dentofacial Orthop. 2017 Apr;151(4):644-655.

CONCLUSIONS: Orthodontic treatment during childhood or adolescence leads to moderate improvements in the emotional and social well-being dimensions of OHRQoL, although the evidence is of low and moderate quality. More high quality, longitudinal, prospective studies are needed.

Bittencourt JM1Martins LP1Bendo CB1Vale MP1Paiva SM1.  Negative effect of malocclusion on the emotional and social well-being of Brazilian adolescents: a population-based study.  Eur J Orthod. 2017 Nov 30;39(6):628-633. doi: 10.1093/ejo/cjx020.

Peter E, Baiju R M, Sreela L S, Varghese N O, Varughese JM.  Does socioeconomic status and family type influence oral health-related quality of life in individuals with malocclusion?  J Indian Orthod Soc [serial online] 2018 [cited 2019 May 3];52:89-93. Available from: http://www.jios.in/text.asp?2018/52/2/89/230154

Deng X1Wang YJ1Deng F1Liu PL2Wu Y3.  Psychological well-being, dental esthetics, and psychosocial impacts in adolescent orthodontic patients: A prospective longitudinal study. Am J Orthod Dentofacial Orthop. 2018 Jan;153(1):87-96.e2.

Zeraatkar M, Ajami S, Nadjmi N, Golkari A.  Impact of oral clefts on the oral health-related quality of life of preschool children and their parents.  Niger J Clin Pract. 2018 Sep;21(9):1158-1163.

CONCLUSION:Since oral clefts affect the QoL of children and their families even after the usual treatments, the implementation and maintenance of multidisciplinary interventional strategies are required for establishment of facial esthetics, oral function, and psychological support for such individuals.

Araki M, Yasuda Y, Ogawa T, Tumurkhuu T, Ganburged G, Bazar A, Fujiwara T, and Moriyama K  Associations between Malocclusion and Oral Health-Related Quality of Life among Mongolian Adolescents  Int. J. Environ. Res. Public Health 2017, 14(8), 902;  https://doi.org/10.3390/ijerph14080902

モンゴル人の不正咬合との関連.審美的因子は除外.

Tachiki C, Nishii Y, Takaki T, Sueishi K  Condition-specific Quality of Life Assessment at Each Stage of Class III Surgical Orthodontic Treatment —A Prospective Study—Bull Tokyo Dent Coll (2018) 59(1) : 1-14

Ferrando-Magraner E, García-Sanz V, Bellot-Arcís C, Montiel-Company JM, Almerich-Silla JM, Paredes-Gallardo V.  Oral health-related quality of life of adolescents after orthodontic treatment. A systematic review.  J Clin Exp Dent. 2019 Feb 1;11(2):e194-e202.

 

1980年代に行われた研究では,社会的階層,人種,年齢や性別によって,子供の歯や顔の容貌による外見といった認識に影響はなかった.

出典:Prahl-Andersen B: Quality of life as indicater for orthodontic treatment. In Current Therapy in Orthodontics 1st ed. Edited by Nanda R, Kapila S: p.3-8, Mosby Elsevier 2010. 

 

Effect of surgery-first approach on quality of life and mental health of orthognathic patients: A systematic review and meta-analysis

An exploratory study of the cost-effectiveness of orthodontic care in seven European countries.
Deans J, Playle R, Durning P, Richmond S.
Eur J Orthod. 2009 Feb;31(1):90-4. doi: 10.1093/ejo/cjn040. Epub 2008 Oct 14.

Measuring the cost, effectiveness, and cost-effectiveness of orthodontic care.
Richmond S, Dunstan F, Phillips C, Daniels C, Durning P, Leahy F.
World J Orthod. 2005 Summer;6(2):161-70.

Evaluating the cost-effectiveness of orthodontic provision
S Richmond 1, C J Phillips, F Dunstan, C Daniels, P Durning, F Leahy
Dent Update. 2004 Apr;31(3):146-52.

Comparison of treatment costs and outcome in public orthodontic services in Finland.
Pietilä I, Pietilä T, Svedström-Oristo AL, Varrela J, Alanen P.
Eur J Orthod. 2013 Feb;35(1):22-8.

Health economic evaluations in orthodontics: a systematic review.
Sollenius O, Petrén S, Björnsson L, Norlund A, Bondemark L.
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Research methods in dentistry 10. Assessment of orthodontic treatment need
Kuijpers MA, Kiekens RM.
Ned Tijdschr Tandheelkd. 2005 Jun;112(6):206-10.

 

 

― 歯科矯正 の 費用対効果

 我が国における歯科矯正の公的医療保障(IOTN Grade 5 の一部)に要している医療費は,400億円程度と推計される.

* 診療内容別は,初診,再診,医学管理,注射,処置,画像診断といった分類の「歯科矯正」のみの総計点数.

 

R1年度

R2年度

R3年度

R4年度

R5年度
(4〜11月)

 診療内容別の医療費(単位:億円)*
 歯科矯正

55

58

71

79

57

 歯科疾患分類別の医療費(単位:億円)
 顎,口腔の先天奇形及び発育異常

340

349

410

447

325

 1日当たり医療費(単位:千円)
 顎,口腔の先天奇形及び発育異常

12.3

12.8

13.6

14.8