矯正歯科_医療倫理_研究会

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— 目 次

 

 

― はじめに

 

Professionalism is the basis of medicine's contract with society. It demands placing the interests of patients above those of the physicine, setting and maintaining standards of competence and integrity, and providing expert advice to society on matters of health. The Physician Charter

プロフェッショナリズム.これは医療と社会との契約の基礎である.医師の利益より患者の利益を優先すること,「知」と「心」を高め保つこと,そして健康に関する専門的助言を社会に与えることが求められる.医師憲章

 

 

倫理学は行為の目的と手段に関する説明を与える体系的な努力であるとすれば,医療倫理学は医療行為そのものと同じくらい古くから存在している.他のすべての行為と同様に,医療行為もまた 「専門的−技術的な次元」 と 「道徳的−実践的次元」 という2つの規定できる次元がある.G.ペルトナー

 

 

従来 矯正齒科學Orthodontics, Orthodontiaと云えば直ちに矯正装置の調整法,或はその應用法の研究であると云う様に考えられてゐたものであるが,これは非常に誤った見解である.......(中略)...... アングルの定義はこの近世矯正齒科學の見地よりすれば矯正齒科學の一分科である矯正施術 Orthodonntic treatmentの目的を説べて居るに過ぎないことがわかる。高橋新次郎

 

 

不正咬合並びにこれに依りて招来される顎骨の異常,乃至は顔貌の不正(勿論顎骨の異常が原因で不正咬合を生ずることも多いが)等は單に患者の咀嚼,發音等の諸機能を阻害するにのみならず,患者自身の精神上にも頗る重大な影響を及ぼし,これがため自らを卑下し,社會生存上常に大なる損失を招きつゝあることは吾々經驗するところである。1947:高橋新次郎:(以下原文のまま)不正咬合並びにこれに依りて招来される顎骨の異常,乃至は顔貌の不正(勿論顎骨の異常が原因で不正咬合を生ずることも多いが)等は單に患者の咀嚼,發音等の諸機能を阻害するにのみならず,患者自身の精神上にも頗る重大な影響を及ぼし,これがため自らを卑下し,社會生存上常に大なる損失を招きつゝあることは吾々經驗するところである。例へば圖1−2のやうな甚だしい不正咬合に於いては,その顔貌上に及す影響も極めて大であつて患者自らもその點に關し,懊惱苦悶せることは明らかである。かくの如き場合に於ける矯正施術の目的は,單に齒牙の正常なる機能を恢復するばかりでなく,進んで顔面の不正おも改善することにより,より重大な意義を有することは明である。顔貌の不正は患者自身の精神上にも架る. 1947:高橋新次郎

 

 

Traditionally, craniofacial biology has served as the sole scientific basis of orthodontic practice and research. Clearly an overlap of interests does exist between clinical orthodontics and craniofacial biology. However, the specialty is also significantly related to social, economic, and cultural factors. The "new paradigm" recognizes all of these interactions and dictates their integration conceptually and in research aimed at rationalizing orthodontics.  Vig PS

頭蓋顔面領域の生物学は,矯正歯科臨床や研究の科学的基盤として機能してきた.歯科矯正臨床と頭蓋顔面領域の生物学の間には,明確な共有部分が存在している一方で,この歯科矯正という専門分野は,社会的・経済的・文化的な因子も大きく関係している.新しいパラダイムでは,これらの相互作用のすべてを認め,概念的に融合させ,歯科矯正学を合理化する研究が求められる. Vig PS

 

 

These inequities in health, avoidable health inequalities, arise because of the circumstances in which people grow, live, work, and age, and the systems put in place to deal with illness. The conditions in which people live and die are, in turn, shaped by political, social, and economic forces. WHO: Closing the Gap in a generation 2008

健康の不公平,つまり避けることが可能な健康の格差は,人々が成長し,生活し,労働し,老いていく環境と,既存の保健医療システムが原因となって生じる.人々が生まれ,死にゆく環境条件を形成するのは,政治的,社会的,経済的な諸力である.WHO 世代間での格差をなくす

 

 

口腔の健康格差に対する倫理的要請: ヘルスケアの不適切な配分は,健康の社会的決定要因の一つである.

 

 

歯学は,医の本質と同じく,歯科医学・歯科医術・歯科医道の3者が重ね備わっていないといけない.この3者が備わって真の歯科医療と言える.歯学とは単なる自然科学(natural science)ではなく,人文科学(humanities, cultiral science)を含み,社会科学(social science)でもある.歯学を自然科学と考えて教育された者は,しばしば不道徳な行為の罠に陥りやすい.歯学は歯科医師のためにあるのではなく,病人のためにあり,病人だけでなく,国民の健康を増進するためのものでもある.病人は社会生活をしており社会人である.したがって社会科学の知識がなければ病人を社会的に健康にすることはできない.石川堯雄

 

 

技術を中心とした治療学の進歩は,不正咬合の治療効果を高め,治療に伴う歯根吸収などの障害を避け,術後の安定を一層確実にするための努力の表現であって,このこと自体,非難されるべきではない.しかし,一方では,技術的進歩のみが独走して,そのあとにかずかずの矛盾が残されたという面がないとはいえない.とくに,歯科矯正学の学問体系に関する総論的な考察が遅れ,矯正治療の意義と目的とは,ともすれば不明瞭となり,このため歯科矯正学は,学生諸君からも,そしてときには矯正専門医からも,あたかも美容整形技術の一部であるかのように受け取られる結果を招いている.歯科矯正学は,現在,もう一度そのあり方について考える時期に来ているといえる.そして,学問の進歩とともに,また時代の流れと社会の変化とともに,常に考え続けるものでなければならない歯科矯正学実習書 実習総論 p.1 医歯薬出版 昭和53 1978

 

 

 口腔の健康は,多面的な概念であり,痛み,不快感,頭蓋顎顔面複合体の疾患がなく,自信を持って話し,微笑み,嗅覚,味覚,触覚,咀嚼,嚥下,そして表情を通して様々な感情を伝える能力を含む.口腔の健康は,生活の質を高めるために不可欠な生理的,社会的,心理的特性を反映するものである.(FDI 世界歯科連盟による口腔保健の新しい定義 FDI World Dental Federation. FDI Definition of Oral Health, 2016 )☛ 口腔保健のビジョンは,技術的な方向性から患者の心理社会的なwell-beingにも注意を払う広範な視点へと発展しており,文化的な西洋諸国の歯科矯正医たちは,自分たちの立場や知名度をこのような発展に合わせていくべきだと気づき,より患者中心の方法で協力し,より広い分野と交流する学問分野へと変化しているが,わが国ではこうした認識はまだ見られない.

 

 

7. Public or private oral health insurance policies and third-party payers should acknowledge the need for and contribute financially to orthodontic treatment that is necessary in line with the FDI definition of oral health.  7. 公的あるいは民間の口腔の健康保険制度および第三者保険支払い者は,FDIの口腔の健康の新しい定義に沿って,必要な歯科矯正治療を認識し,財政的援助を拠出すべきである。(FDI 世界歯科連盟 歯列不正への施政方針 FDI World Dental Federation. Malocclusion in Orthodontics and Oral Health. ADOPTED by FDI General Assembly September, 2019 in San Francisco, United States of America)

 

 

God, give us grace to accept with serenity the things that cannot be changed, Courage to change the things which should be changed, and the Wisdom to distinguish the one from the other.  Serenity Prayer

神よ、変えられないものを静かに受け入れることのできる強さと,変えなくてはならないものを変える勇気,そして、変えられないものと変えるべきものを見分ける賢さを与えたまえ 二ーバーの祈り

 

 

哲学という学問は,新しいものの見方によって,慣れ親しんでいたことを見知らぬものに変える.

 

 

目の前にある問題はもちろん,人生の問いや,社会の問題を見つけ,挑み続けるために学ぶ. 学びで少しづつ世界は変えて行ける. いつでも,どこでも,誰でも,学ぶことができる世の中へ 旺文社

 

 

If I have seen further, it is by standing on the shoulders of giants.

 

 

私たちが一番大事にしているのは技術ではない.思想だ.あくまで人間様が買ってくれる商品をつくり出すこと.こういうものなら奉仕できる,われわれもプライドを持ってできる,ということが頭にできて初めて技術がいる.本田宗一郎

 

 

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>>> 参考図書

 

 

文部科学省 科学技術・学術審議会

  日本学術振興会の将来ビジョン検討会 報告

     第一章 学術研究の特性と学術を巡る状況の変化

  人文学及び社会科学の振興について(報告)—「対話」と「実証」を通じた文明基盤形成への道— 目次(平成21. 1.21)

     第一章 日本の人文学及び社会科学の課題

 

歯科医師国家試験問題