― 日本の歯科矯正 - 医療の歴史
伝来とその翻訳 ― 齒科矯正學
irregularity of the teeth / orthodontia / orthodontics
波那美 / 齒幷 / 齒列 / 齒列不整 / 齒牙鹺跌
齒列ヲ正シ(1875) / 齒列を撓匡の術(1881) / 齒の療法(1885) / 齒列矯正術(1889) / 矯正歯科学(1906)
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漢学・蘭学・英学
医療とは何か.医学とは.医学研究とは何か.
医学的無益性
平等 公平 公正
実際の事例,健康で文化的な最低限度の生活
医学的介入 医療の質
わが国の各省庁における対応の整理
定義 歯科医学史研究の目的 研究方法 史観 結語
歴史学的な見方
長期的な視座でみる姿勢 他の地域・国家との比較 自国の現在地
医療的概念,翻訳語としての 「歯科矯正」 の歴史的記述について
亂杭齒,亂排齒
snaggletooth, crooked teeth, double tooth 八重歯
乱杭,八重の語源
叢生 crowded teeth
現代用語の国民の解釈
歴史認識の齟齬
史実とはなにか
公平な視点 と 正義の女神 Leady Justice
論点の明確化
Irregurality of the Teeth.
Treatment of the irregurality of the Teeth.
orthodontia.
orthodontishe behandlung. <英>orthodontic treatment.
中庸 第十章
漢和辞典 『字通』 より;
時代区分 @ 欧米 と 日本
@ 技術的次元の時代(術:treatment として)
A 道徳的次元の時代(医療:care として)
B 国家の健康指標の時代(公衆衛生上の課題,QOL として )
西洋諸国との比較(尊厳,人権;欧米 と 日本)
日本の歯科医療(含: 矯正)と 西洋諸国:基盤となる医療価値,概念思想,社会保障制度の相違
リベラルアーツ,プロフェッショナリズム
Orthodontic treatment と Orthodontic care
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問い:いかにしてこの病いへの医療が生まれ,個別科学へと分化し,学問(歯科矯正學)となったのか. 問い:どの段階で(どのように いつ 誰)わが国へ伝来し,どのぐらい受容・継受されているのか. 問い:日本国民にとっての歯列矯正は,健康で文化的な最低限度の生活,医学的に必要な医療となりつつあるのか. 問い:日本では,歯列矯正を求める児童生徒の医学的ケアを,医療費の支払い能力を理由に拒んでもよいのはなぜか.
わが国の位置(あなたの視座)はどこか? @ 技術的次元の時代(術:treatment として) A 道徳的次元の時代(医療:care として) B 国家の健康指標の時代(公衆衛生上の課題,QOL として ) → 西洋諸国と比較(基本的人権; 健康概念,社会モデル,欧米と日本の医療史)
・ 諸外国の歴史・現状を学び,わが国の医療体制の現状との相違や課題を知る. ・ 歯科矯正医療の健康格差,公平なアクセス,医療保障適用範囲が制限されてきた理由を探る. ・ 医療機会の公平性,児童・生徒の人権,国民の健康で文化的な生活を妨げている原因を社会問題として知る. ・ 国民,とくに児童・生徒の口腔の健康格差解消のため,われわれ(科学者共同体)がなすべき使命はなにか?
謎1.学校健康診断における歯の不正の評価(あいまいなデータで医療政策を決めていいの?) 謎2.歯科疾患実態調査(基幹統計調査に国際疾病分類が適用されていないの統計法違反?) 謎3.日本の子どもたちが歯科矯正医療を選択できる権利(基本的人権・幸福追及権,健康の不平等)
いじめ,自尊心,QOLと歯列不正(学校における歯科保健教育)
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漢学・蘭学・英学
南蛮人:ポルトガル(1543),スペイン(1549:ザビエル,1555: アルメイダ)
紅毛人:イギリス,オランダ
「英学」について:
堀孝彦氏は,その著書(幕末日本「英学史」散歩 蘭学から英学へ.堀孝彦 2015.)の中で,次のように述べている.
漢学や蘭学と同じく,単なる英語学でも英文学でもなく,それどころか同時に倫理・宗教・哲学でもあり,いわゆる moral science (人文学)であったと言われる(下村寅太郎「西洋科学受容の仕方について」1949).英学がもはや倫理や哲学でなくなったときに,はじめて英語学・英文学といった専門分野が始まり,その他の専門的な各個別諸学も分科独立していく.したがって英学とは,井田好治先生が,「英米人または英語を通して摂取した西洋学術の総称をいう」( 「薩摩の英学1 ― その前史と薩摩辞書」 )『鹿児島大学文科報告』 十二号,1963 )といわれたその第一期を原型としている.個別専門諸科学の成立にさきだつ,未分化の特殊な「知」を示している.
明治期には,英語を漢文のように返り点などを使って読み下していく 「変則英語」 と,会話と直接読解を中心とする 「正則英語」 の二種類の教育法がありました.漱石は教師になって以降も,一貫して正則英語の支持者だったので,現代の英語教育者と変わらない感覚を持っていました.当時を考証した 「幕末維新期漢学塾の研究(生馬)」 によると,「一度漢学を学んだ学生が外国語を学ぶと発音は悪かったが読書力に至っては,はるかに正則生(外国人から英語を学ぶ)に優っていた」 とされています.
正則:外国人から英語を学ぶ(今でいうネイティブ イングリッシュ)
変則:発音や文法は関係なく,意味を理解する(受験英語のイメージ)
百科全書:西洋文明を紹介した文部省翻譯出版プロジェクト 文部省 箕作麟祥 福沢諭吉 西村茂樹 此頃は洋書を読む者は多く和漢の書に通ぜず、是を以て訳成る毎に、必す漢文に通する者をして其文を修正せしむ、是を校正といふ(西村茂樹)
☛ 参考:編著の役割と用語. 橋口侯之介:和本入門 千年生きる書物の世界.p.145- 平凡社ライブラリー 2011.
著(ちょ):書物にあらわす.内容に創造性があり,書き手が責任を有する.著述. 撰:江戸時代は著とほぼ同義に使う.厳密には著ほど創造性はないがその人の文章で事柄を述べたときに使う. 選:先人の作品の中から優れたものを選んでまとめること.撰との違いに注意. 述(じゅつ):述べること.述べたもの.人の言行を記述したもの. 録:書いたものをとどめておく.講義をしるす(講義録).題目を書き並べる(目録). 抄:抜き書きをする(抄録) 集:文章や詩歌などの材料を集めてまとめる 輯(しゅう):集とほぼ同じだが,もう少し編集に近く系統立てるという意味がある.聚や緝ともいう. 編:諸説を集めたあと,それらを統合し系統立てること.篇は書物の部立てに用いる. 纂(さん) :集めてそろえる.編集する ☞ したがって,輯 ・ 編 ・ 纂 の順で,しだいに高度な編集をすることになる. 譯(訳 やく):外国語から日本語に翻譯する. 閲(えつ):けみする.間違いの有無などを調べる.書物などに目を通す. 著述:書物を書きあらわすこと.著作. 譯述:翻譯して述べたもの. 編纂/纂述:いろいろの材料を集め,整理・加筆などにより書物にまとめる. 翻譯/共譯/〇〇氏著/譯述:翻譯したもの 筆記/口述ノ筆記:誰かの講義を記したもの
日本の歯科矯正医療従事者(矯正歯科専門医)は,治療 treatment という言葉を好んで使い,医療 medicine / health care という言葉は,日本の歯科矯正領域にはほとんど出てきません.もともと,treatment は,明治期に 「術」 として翻訳され,医術,齒列矯正術 といった用いられ方をしていました.日本には,医療の視座から 歯科矯正 を記述する論文はほとんどなく,こうした背景が,日本の子どもたちの 齒や顎骨の位置・大きさの異常 を社会的・精神的障害としてとらえることができない日本の歯科矯正医の背景にあります.日本では,orthodontic treatment も orthodontic care も 歯科矯正治療 と翻譯され,その医療的視座の違いを認識することはあまりなく,技術的な視点にのみ注目されがちです.ヨーロッパ諸国,米国,ブラジルなど,国民の健康で文化的な生活が社会保障制度によって歯科矯正医療へのアクセスが公平に保障されている国々と,わが国の歯科矯正医療従事者の持つ社会的使命には大きな相違があります.わが国に歯科医療が受容され,現在に至るまでの歴史的経過を学び・理解することは,日本の立ち遅れている現状,たまたま日本に生まれた子どもたちの不平等な歯科矯正医療へのアクセスの現状と制度,社会問題としての歯科矯正医療を知ることためには,こうした医療思想の歴史的背景を知ることが役立ちます.
med·i·cine (mĕd□ĭ-sĭn) n. 1. a. The science and art of diagnosing and treating disease or injury and maintaining health. b. The branch of this science encompassing treatment by drugs, diet, exercise, and other nonsurgical means. 2. The practice of medicine. 3. A substance, especially a drug, used to treat the signs and symptoms of a disease, condition, or injury.
medicineとは:
eqyality 平等 inequality 格差,不平等 fairness 公正,公平 health care 保健医療 medicine 医療 public health 保健・公衆衛生活動,医療 health care system 保健医療制度 health system medical care system 医療制度 social work 社会福祉実践
医療とは 「健康」 の保持・増進,保護,損なわれた 「健康」 の復元,その過程における傷病者・障害者のケア,など 「健康」 を巡る活動が医療・医学である.(澤瀉)
医療の目的は健康の維持です.健康に影響する病気や症状のため,医師・歯科医師・看護師・栄養士・理学療法士などの医療専門家,かかりつけの医療提供者に診てもらう時にあなたは 「医療」 を受けています.医療提供者はあなたの心配事を聴き,症状の原因を見つけて病気や疾患を治すための検査をします.そして医療提供者はその検査結果をあなたに分かりやすく説明し,あなたの治療の選択肢についていっしょに考えます.医療提供者はあなたがこれから受ける治療の決定を助けます.医療を受けているときのあなたは「患者」 と呼ばれます.
医学研究とは 医学研究(または臨床研究)の目的は将来の医療の向上です.医学研究は,医師・歯科医師や研究者が,人の健康と病気について知るために役立ちます.病気を予防・治療するためのより優れた方法も発見できます.臨床研究への参加は将来の人の役に立つ可能性があります.しかし,その研究が必ずしもあなたの現在の病気の症状に役に立つとは限りません.
将来医療を受ける人 メリットがあるかないかはわかりません
医療行為は,簡単に言うと 「人が他人を治す」 という社会的実践です.社会的・文化的行為であり,共同体構成員が病的状態,適応状態から逸脱する場合に,共同体が持っている技術,知識,富という社会的資産と労働力をもって,病的状態の人が,健康に生存し続けるように手当,治療をすることです. 医療を実践する知識や経験,病気を認知し,原因を同定追求し,対処法を提示する知識理論体系を 「医学」 と言います.先に 「医療」 があり,「医学」 はその 「医療」 を効率よく実践するための意図的に編集された学問知識体系です.「医療」 は人類の歴史とともに古く,連綿と続いているのに対し,「医学」 は時代と共に変化してゆきます. 医療は本質的に不確実・不確定な部分があり,すべての医療行為には常にリスクを伴います.予期せぬ重大な合併症や偶発事故は起こり得ます.医療の不確実性は,生命の複雑性や有限性,人体の多様性,医学の限界にも由来し,低減はできても,消滅はできません.医療行為とは無関係の病気や,加齢に伴う症状が医療行為の前後に発症することもあります.医療提供者は,これらの治療には最善を尽くしますが,予後に影響を及ぼす後遺障害が残存し,時に死亡に至ることもあります.
医学的無益性:futility について 古代のラテン語 futtilis,豊年の女神 セレス と,火の女神 ベスタ の代わりに,宗教的な儀式で使われていた「上部が広く下部が狭い器」 に由来する. Oxford English Dictionary; 1. The quality of being futile; triflingness, want of weight or importance; esp. inadequacy to produce a result or bring about a required end, ineffectiveness, uselessness. 2. Disposition to trifle or be occupied with trifles, incapacity for serious affairs or interests, lack of purpose, frivolousness. 3. Talkativeness, loquacity, inability to hold one's tongue. Cf. futile adj. 3. Obsolete. 4. Something that is futile.
— 科学者共同体(学術団体・大学機関など)からの社会への科学的助言の位置づけ 医学研究の成果は政府への科学的助言によって,政策決定に貢献し影響をあたえ,国民への公平な人権・健康・生活向上に貢献することが目的である.歯科業界の利益向上のためではない. 歯科矯正医療はどうだろうか.日本には,経済的理由,生れた家庭環境によって歯科矯正医療を受けられない多くの国民が存在している. 他国の現状と比較すると,歯列矯正を求める児童生徒の医学的ケアを,わが国では医療費の支払い能力を理由に拒んでもよいのはなぜか. Professionalism is the basis of medicine's contract with society. It demands placing the interests of patients above those of the physicine, setting and maintaining standards of competence and integrity, and providing expert advice to society on matters of health. プロフェッショナリズム.これは医療と社会との契約の基礎である.医師の利益より患者の利益を優先すること,「知」と「心」を高め保つこと,そして健康に関する専門的助言を社会に与えることが求められる.【 医師憲章 The Physician Charter 医療プロフェッショナリズム 】
【出典】 戦略提言:政策形成における科学と政府の役割及び責任に係る原則の確立に向けて.
政府が意思決定にあたって考慮すべき要素 政治的・法的要素 - - - - 健康格差の是正.歯科矯正医療の法的位置(医療) 経済的・財政的要素 - - - 社会保障制度.公平に医療をうける権利(健康格差) 社会的・文化的要素 - - - 健康で文化的な生活(幸福追及権) 倫理的・環境的要素 - - - 子どもたちの健康でいられる権利(尊厳) 科学的助言 - - - - - - - - 歯科矯正の医学的必要性 Medically necessary の意義・目的
【出典】 戦略提言:政策形成における科学と政府の役割及び責任に係る原則の確立に向けて.
各国の科学者共同体 の Mission を 知る. (※ イギリス,ドイツ,フランス,米国では,子どもの歯列矯正は公的医療保障の対象となっている.→ 詳細はこちら.) 英国歯科矯正学会 BOS:人生を豊かにする we are dedicated to the life-enhancing results that orthodontics delivers ドイツ矯正歯科学会:公衆衛生への科学的助言 Wissenschaftliche Beratung und Unterstützung zahnärztlicher und ärztlicher Organisationen und des öffentlichen Gesundheitsdienstes. フランス矯正歯科学会
SFSO:自尊心と社会参加への機会向上 L’orthodontie contribue ainsi à atteindre le bien-être physique et psycho-social, en améliorant l’estime de soi et les opportunités d’intégration sociale. アメリカ矯正歯科学会
AAO:国民の健康/公衆衛生の向上 The purposes of this Association shall be: A..B..C…D. To make significant contributions to the health of the public. 日本矯正歯科学会:学術の発展ならびに口腔衛生の向上 第2章 目的及び事業 (目的) 第3条 この法人は,歯科矯正学に関する学理及びその臨床応用についての研究発表,知識の交換,国内外の関連学会との連携協力等に関する事業を行い,歯科矯正学の進歩普及,学術の発展ならびに国民の口腔衛生の向上に寄与することを目的とする. (事業) 第4条 この法人は,前条の目的を達成するため,次の事業を行う. (4)医療・対社会に関する事業の実施 ☛ 研究成果の社会への適用(国民生活の向上)は,科学研究の最終目標であり最重要事業.
☛ 各国の orthodontics (orthodontist) の 「志」 や 「使命」 は,それぞれの国や地域の医療行為のあり方として医療制度に反映されている.その国民が社会生活をする制度の設計への科学的助言について思うことを述べよ. 日本では,経済的格差による公平な 「子どもの歯科矯正医療」 が取り残されており社会問題となっている現状の背景について,医療倫理上の問題点はなにか?
ポイント ⇒ 公衆衛生としての歯科医療の役割.歯列不正(歯の位置や顎骨の大きさの異常)が長期的な健康問題につながることを考えると,これらは個人だけの問題ではなく社会全体の公衆衛生上の課題と見なすことができます.日本に生まれた子どもたちは,家庭の経済状況 「支払いができない場合に歯列矯正を受けられない」 ことは,制度的に 「許されてしまっている」 だけで,倫理的に正しいわけではありません.本来は,医療が必要な子どもたちが,誰でも公平に治療を受けられるように,公的医療保障を拡大することが国の責任と考えられます.
ORTHODONTICS AS A PUBLIC HEALTH ACTIVITY
問い:日本国民にとって,歯科矯正は健康で文化的な最低限度の生活-医学的に必要な医療となりつつあるのか. 問い:歯列矯正を求める児童生徒の医学的ケアを,わが国では医療費の支払い能力を理由に拒んでもよいのはなぜか.
— 医療(歯科矯正含む)への公平なアクセスの基盤となる価値・倫理(西洋諸国とわが国の相違)
問: 1. 歯の位置異常,顎骨の大きさの異常は疾病であることを日本の歯科医師たちはなぜ認識しないのか. 2. 歯列矯正には代替医療がなく,治療法の選択ができない. 3. 同様の事例,日本の歯科医療における社会問題,健康格差など,問題点をあげよ.
☞ わが国における人権及び人権教育・啓発に関する現状(法務省)
よく知られる平等・公平の説明図: 出典:図は The A-Z of Social Justice Physical Education: Part 1. Journal of Physical Education, Recreation & Dance. April 2020, 91(4): 8-13 説明文は医療に改変.
医療や教育において求められるのはどれか? わが国の児童・生徒の歯科矯正医療へのアクセスの現状はどれか? 歯列矯正には選択の自由がなく,国民は学校健診後の事後処置へのアクセスを制限されている. 歯列矯正を求める児童生徒の医学的ケアを,わが国では医療費の支払い能力を理由に拒んでもよいのはなぜか. 存在する社会問題や状態.歯科矯正医療のわが国の状況.社会的不平等や健康格差など,現実的社会状況を示す. すべての国民が同じ待遇や権利を持ち,差別や不平等はなく,法律の下で平等に扱われること.医療や教育の機会を与えること.
すべての国民が必要とする支援を受けられる.異なるニーズや背景をも受容し,それに応じた提供.障害への支援など. 抑圧や制限から解き放たれること.特定の集団や個人が自由になり,自己決定権を持つ.人権運動や独立運動など. ・家庭の経済状況によって,学校健康診断で歯列異常を指摘されたが歯科矯正医療を受けられない.
・全員に同じ教材を与える. ・教育無償化 ・外国人の教育支援 ・全国一律カリキュラム ・学校健康診断 ・国民皆歯科健診
・高齢者や基礎疾患のある人のワクチン接種を優先する. ・支援学級 ・飛級制度 ・奨学金 ・学費免除
重症度・歯科矯正医療必要度 → 国際基準 IOTN 公衆衛生
※日本の子どもたちの 「歯列・咬合の異常」 は,独特の調査方法のため低く報告されている.それでも増加し続けている.
☛
編著の役割 例) 書名
和本 述 保齒新論 第一輯 東京齒科醫學院講義録 譯述 歯科提要 共譯 歯科全書 纂述 鹺齒矯正術
著 齒科矯正學綱領
医学: 人体の病気についての医学
医療: 医学の実践的(社会への)応用
医薬: 医療に用いるくすり
「医」: 医学 + 医療
医学研究 医療 目的 健康に影響する病気,症状,薬,医療機器,
治療手順にかかわる特定の課題を解決するため 健康に影響する病気,
症状をもつあなたを助けるため あなたの立場 研究参加者,研究被験者,治験被験者,研究ボランティア 患者 誰が
いつ メリットを受けるのか あなた自身,現在 結果の正確性 研究中の治療法が
現在の治療法より優れているかどうかは,
研究者には特定できません 医療提供者は,検証済みの治療法を提供します.
検証済みの治療法は安全性と有効性が認められています
平成 24 年 3 月 March 2012
独立行政法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター 政策ユニット
平成 24 年 3 月 March 2012
独立行政法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター 政策ユニット
Am J Orthod, 35(3): 179-84.




現実 平等 公正/公平
Fairness
Justice
Impartiality解放
・家庭で子どもたちを平等に育てるためには,全員の大学進学や歯科矯正医療は難しい.
・子ども全員を大学へ進学させる.
・子ども全員の歯科矯正医療を受けさせる.
・都市部と地方での医療格差をなくす.
・重篤な歯列異常の子どもの治療優先.
・バリアフリー病院
出典:図は The A-Z of Social Justice Physical Education: Part 1.Journal of Physical Education, Recreation & Dance. April 2020, 91(4): 8-13 より引用.説明文は医療に改変. 


しかし 「支払い能力がない子どもたちが歯列矯正を受けられない」 ことは、制度的に 「許されてしまっている」 だけであり,倫理的に正しいわけではありません.
本来は,必要な医療を子どもたちが誰でも受けられるように,公的医療保障を拡大することが国の責任ではないかと多くの国民は考えています.


☛ @ 「経済的な負担等についても考慮した助言」,A 「からかわれないような支援」 とは?
国家の医療政策として,国民の健康,患者の立場に立った是正はいかにあるべきであろうか?(公平な医療を受ける権利,幸福追求権,健康でいられる権利など)
日本では,「支払い能力がない子どもたちが歯列矯正を受けられない」 ことは、制度的に 「許されてしまっている」 だけであり,倫理的に正しいわけではありません.
本来は,必要な医療を子どもたちが誰でも受けられるように,公的医療保障を拡大することが国の責任ではないかと多くの国民は考えています.
人間の尊厳(人権)
公正・公平・平等な医療資源の配分
Reality: 現実
Equality: 平等
Equity: 公平
Fairness: 公正
Inclusion: 包摂
差別と区別について:
倫理的に公平な判断とは:
@ 裕福な家庭の児童・生徒は歯科矯正医療を受けられる.そうでない家庭の子供は歯列矯正を受けられない.
A 3人の子どものいる家庭.3人とも歯並びが悪い.学校健康診断でいずれも治療推奨が診断された.2人までの治療費は出せるが,同時に3人の歯科矯正医療費は出せない.母親は子どもたちへ公平に接するため,歯並びの治療は大人になってから自分で治療するように説得した.
社会背景: → 日本では,ほんとうは中学生のころ治療をしたかったが,親に迷惑をかけたくなかったということから,
大人になって自分で働いたお金で治療開始する成人女性がとても多い.
また,歯列矯正の受診相談に来院する患者のうち,実際に治療開始する患者は5-8割程度といわれる.
☛ 思いとどまったり,治療開始しない患者のほんとうの理由(気持ち)はどこにあるのだろうか?
実際の事例:
事例 @
☛ 歯列矯正を受けるのに必要な金額.今日ではWeb検索によって簡単に調べられる.インターネットや歯科医院のホームページが一般的でなかった25年ぐらい前は,受診前相談に来られた患者さまから,治療に必要な医療費の説明をすると,「えっ,そんなに費用がかかるのですか?」 「保険はきかないのですか」 と.その時にはじめて知りびっくりされる初診患者が多かった.また,ホームページに治療費を記載していないことが普通であった.
☛ わが国では,歯科矯正を希望する成人(社会人)の女性患者が多いのは,こうした社会背景に起因している.歯科疾患実態調査(令和4年度)において, 「歯科矯正治療の経験」 がはじめて調査された.被験者1,023名のうち経験者は 7.7% であった.医学的な治療が必要な歯列不正を有する児童生徒の疫学的調査は,日本も含め,どの国の,どの地域,どの年代においても,約30-50%程度であることが報告されている.令和6年度の調査でも,20才以上の年齢で 「現在受けている」 と回答した成人女性が多かった.
わが国では,子どもたちの歯列矯正医療へのアクセスは公平とはいえず,経済的に恵まれた家庭に 「たまたま生まれた」子どもたちが享受できる医療となりつつある.この事実は,学校健康診断を所管している文部科学省も把握認識しており,歯列矯正を受けることができない子どもたちの 「いじめ」 への 「助言・対処法」 についての具体的な方法を通達している.
☛ 経済的格差、同じ日本人に生まれてきて、ある方は、あっ、歯並びが悪い、食べられないんだったら矯正をしましょう、でも、経済的格差で、この子が残念ながら、お父さん、お母さんの残念ながら今の経済的にはできないというのは、私はこの日本ではあってはならないんではないかと思っております.<故 島村 大 参議院議員(歯科医師 自民党) 第211回国会 参議院予算委員会 にての質問 第2号 令和5年3月1日>
イギリス,フランス,ドイツなどの 公的医療保障適用基準 のように,歯科矯正に適切で効率的な治療時期は,永久歯の萌出完了する10-15歳の児童生徒の時期である場合が多く,これらの国では18-20才までの歯列矯正による医学的ケアは公的医療保障の適用下において施術される.それ以降の成人の歯列矯正,医学的必要度の低い場合(IOTN 1, 2 )は自由診療でのケアとなる.
日本では,先天性疾患を伴う場合と外科的介入の必要な場合以外,子どもの歯列矯正は公的医療保障の適用となっていない.こうした背景が,他国では存在しえない複雑な難症例が多い.子どもの頃に歯列矯正を行うことができなかった抜歯症例や複雑な難易度の高い症例は,歯科医の技術的な専門性を誇示するにはよいかもしれないが,避けることが可能な健康の格差は医療制度をかえることによって防ぐことができる.歯列矯正は子どもたちの口腔の環境の公衆衛生上の問題であり,子どもたちの口腔環境を変えることによるう蝕,歯周病,いじめ,自尊心,対人関係や社会参加など,身体的・社会的・精神的な健康上の問題の向上を援助することはFDI(国際歯科医師連盟)からも宣言されている.
☛ 成人(社会人)の患者が,「児童・生徒の頃に治療しなかった(できなかった)理由」 として記載した実際の例:
・ 「親に迷惑をかけたくなかった」
・ 「経済的理由から」
・ 「金額を払えそうになかった」
・ 「費用が高かった」
・ 「はやく治療したかったが家族に迷惑をかけたくなかった」
・ 「社会人になって自分のお金ができた(初診の2年後に再受診)」

事例 A 小学生の兄妹,上顎前突: 歯列矯正.一期治療として顎の発育を促進する治療を行っていた.明るい母親と2人の子どもはいつも予約時間どうりに受診し,治療経過についてもいつも笑顔で応対していたが,ある日キャンセルがありしばらく来られなかった.3ヵ月ぐらい後に電話予約があり,待合室では父親と子どもが待っており母親の姿がなかった.私も「こんにちは,久しぶりですね.いつもお母さまとこられていたのですがお元気ですか?」と話しかけたところ,父親から「妻は先月ガンで急に亡くなりました」とのお話をいただき,費用負担の面からも治療を中止したいとの申出をいただいた.一期治療のため,可撤式装置FKOを使用し,ある程度の改善が得られ二期治療に移るまえであったが,今後の経済的負担を考え治療継続は中止せざるをえなかった.(応召義務とのジレンマ)
事例 B 高校生,乱杭歯: 歯並びの治療を希望して母親と受診.検査を終えて,治療計画の説明を行い,明るい朗らかな女子生徒は楽しそうに話を聞いていた.治療費の説明になったところで,女子生徒はしだいにうつむき加減になり,「やっぱり治療はしたくない」 と言い出した.母親も 「えっ,どうして?」 と聞くが泣きだす.しだいに落ち着き 「だってこんなにお金かかるんだったらしたくない.だってうちこんなお金ないじゃん」 と.母親も 「えっ」 と驚き,「あんたばかねぇ,先生すいません」 と.母は思う子.子を思う母.お互いの想いにもらい泣き.後日ご連絡いただくことになった.(医療とは何か)
→ 日本では,子どもの頃に歯科矯正治療ができないことから(親に迷惑をかけたくなかった),成人になって治療開始する人々が大変多く,これもまた社会問題の一つである.
事例 C 女子生徒(不登校):日本学校歯科医会 柘植紳平会長はご自身の体験として,不登校になった女子生徒が,その原因として,歯並びが悪いことを気にして治療を望んでいたが家庭での折り合いがあわず,父親からも治療への理解と援助ができなかったことの事例を,講演(第28回福岡県学校歯科保健研究大会, 2023/11/18, 時局講演 「学校歯科保健の最新の動向」 )の中で述べられている.
→ 学校歯科健診は実施されているが,その後の事後処置について,社会経済的理由から歯列矯正医療にアクセスできない国民が多く存在している.児童生徒の自尊心や外見上の問題は健康上の問題であり,これを改善することは子どもの健やかな精神発育や社会生活にとって重要であるとの認識,我が国においては健康の社会的・精神的側面が軽視され,公的医療保障の適用は見送られ続けている.不登校児(社会参加への制約)の事例の中に,同様の児童生徒が多く含まれることは,以下の先行研究からも推察できる.
☛ 事例@ や 事例A は,矯正歯科医の多くは何度も経験することがある.以下の視座から,わが国の歯科矯正医療を考えてみる.
問: @(社会疫学の視点) わが国の国民が公平に享受できていない歯科矯正は医療なのか?
A(文化歴史背景) 欧米諸国と異なる現状のわが国の医療制度の問題はどこあるのか?
B(社会・政策課題) 国家としての健康指標はどこにおくべきなのか?
問い:日本国民にとって,歯科矯正は健康で文化的な最低限度の生活 — 医学的に必要な医療となりつつあるのか.
健康で文化的な最低限度の生活とは?
Marmot M. は,その著書のなかで,アダム・スミスの言葉を引用している.
必需品というのは,命をつなぐのに必要不可欠なものを指すだけでなく,最下層にいるものであっても,その国の習慣に見合ったまっとうな生活を送るのに必要なものであると私は理解している.例えば亜麻布のシャツは厳密にいうならば命をつなぐのに必要ではない.古代ギリシャ人もローマ人も亜麻布のシャツは着なかったが,快適に過ごしていたと思われる.しかし今日,ヨーロッパのたいていのところでは,日雇い労働者でもまっとうなものなら,亜麻布のシャツを着ないで人前に出ることは恥ずかしくてできたことではないだろう.シャツにも事欠くというのは,すなわち劣悪なまでの貧困状態を意味すると考えられ,よほどひどいことをしたものでもない限り,そのような状態に陥るのはありえないだろう.同じように,イングランドにおいて今日,革靴は習慣上生活に不可欠なものとなっている.男であれ女であれ,靴をはかずに人前に出ることは,どんなに貧しくても,まっとうな人間であれば恥ずかしくてできたことではない. アダム・スミス (マイケル・マーモット ステータス症候群―社会格差という病 鏡森定信 橋本英樹 監訳 p.72 3章 「貧しき」を豊かにする 日本評論社 2007)
日本の歯科医(矯正歯科専門医も含む)たちは,子どもたちが公平に歯科矯正医療を受けることができない理由として,以下の2つの理由をあげている.それは,@ 厚生労働省で決まっているから説,A 審美的なものだから説,である.この2つの理由について,いずれも解決可能な事柄である.@については,多数の国民から社会問題として多くの請願や自治体からの意見書が提出され,10年以上にわたって議論されているが,歯科界(矯正歯科も含)はまだ何の意見も国民に述べていない.Aについては,多くの先進諸国ではすでに解決している課題であり,「Medically nesesaly orthodontic care 医学的に必要な歯列矯正」 の評価基準は国際的に確立され,各国やWHO, FDIなどで用いられているが,そうした事実を国民に説明していないのである.また,これら以上により深刻な問題は,歯列矯正をおこなう日本人が少ない理由について,医療制度によって日本では経済的障壁が高く,公平に歯列矯正を受けることができないという社会環境にあることを知らない医療従事者が多く,ネットには海外の医療制度についてのデマやフェイクが流布されていることであろう.ほんとうに歯列矯正を必要としているのは誰か?優先すべき患者はだれか?最近になって歯科矯正学の教科書に,歯科矯正の目的は 「QOLの向上」 が記載され,健康で文化的な生活(まっとうな生活を送ること)が歯科矯正の目的となった.憲法でも保障されている基本的人権である.
☞ 貧困 困窮 の基準について(日本 と 米国)
問い:日本では,歯列矯正を求める児童生徒の医学的ケアを,家庭の経済状況,医療費の支払い能力を理由に拒んでもよいのはなぜか.
学校健康診断で異常を指摘され,医療機関を受診した子ども,両親が治療費を支払えないことから診察を断念する子どもたちの気持ちはいかなるものだろうか? 立場を自分に置き換えて想像してみよう.歯科矯正は医療でない.とすればいいのか?多くの公平な民主主義国家では,子どもたちの顎顔面の成長発育は,歯科矯正専門医によって公平な医療が享受できる医療体制が構築されていることが多い.われわれの知識や技術は国民に公平に配分されているか?
→ 参考:@ 日本と西洋諸国の子どもの歯科矯正の医療・社会保障制度の比較.
第82回 日本矯正歯科学会大会(新潟),11/1-3/2023.
→ 健康の公平性から逸脱した医療制度(回避可能な不平等)であること.

公衆衛生としての歯科医療の役割.歯列不正が長期的な健康問題につながることを考えると,個人だけの問題ではなく,社会全体の公衆衛生上の課題と見なすことができます.
日本に生まれた子どもたちが 「家庭の経済状況によって歯科矯正学的な医学ケアを受けられない」 ことは,制度的に 「許されてしまっている」 だけであり,倫理-道徳的に正しいわけではありません.
本来は,必要な子どもたちが誰でも受けられるように,公的医療保障制度を拡大することが国の責任であり,科学者共同体の責任は研究成果の社会適用への助言といえます.
日本における歯科矯正医療の普及率の低さについて,「国民の意識の低さ」 とする考え方は的外れで偏好した印象操作とも言えます.
実際には日本の歯科医療関係者のほとんどは,海外の国々における歯科医療の社会保障制度についてあまり知らないことも大きな原因になっています.
日本では,専門医の知識や技術(専門医制度の目的),また,国民の税金(科研費)による研究成果は,公平に分配されているでしょうか.
われわれ歯科医の社会的価値が問われており,喫緊な制度是正が求められています.
医学的介入のレベル:崖の比喩

Figure 1. Levels of health intervention. As described in the text, four levels of health intervention are illustrated, including acute care and tertiary prevention (the ambulance at the bottom of the cliff), secondary prevention (the safety net half-way down the cliff face), primary prevention (the fence at the top edge of the cliff), and addressing the social determinants of health (moving the population away from the edge of the cliff).
図1. 健康への医学的介入のレベル.本文の説明のように4段階の介入レベルが示されている.急性期医療と三次予防(崖底の救急車),二次予防(崖面中腹の安全ネット),一次予防(崖上の柵),健康の社会的決定要因への対応(人々を崖の縁から遠ざけること)である。
医療の質:

図3.
健康格差はどのように生じるか?医療システム内における医療の質の違い(a)
治療・予防医療へのアクセスの違い(b)
そしてそもそも一部の個人やコミュニティを他より病気にさせる根本的な曝露と機会の違い(c)。
一次予防:崖の上の柵. 公平な社会施策
二次予防:落下防止ネット. 治療開始時期に焦点をあてる(経過観察)
三次予防:崖の下救急車. 社会的決定要因.医療ケアの質・機会の公平性
☞ 日本の歯科矯正医療の現状(医学的介入のレベル)はどうか? 崖下に落ちた子どもたちの救急車はいるだろうか.
これらの医療格差や不平等は,医学的介入の時期や制度是正によって回避可能となる.(WHO)
健康格差を減らし,より質の高い医療につなげるためには,人びとを崖の淵から遠ざける(健康の社会的決定要因)に取り組む必要がある.

歯科矯正の法令上の位置(政府,各省庁などの整理):歯科矯正の解釈/概念

| 日本国憲法 | 〇 | 日本国憲法 〔個人の尊重と公共の福祉〕 第十三条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。 幸福追求権 ⇒ プライバシー権,肖像権,自己決定権,健康を維持する権利 〔平等原則〕 第十四条 すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。 平等権 ⇒ 法の下の平等(国民皆保険制度:わが国では歯科矯正は除外されている) 〔生存権及び国民生活の社会的進歩向上に努める国の義務〕 第二十五条 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。 2 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。 生存権 ⇒ 健康権(社会保障制度) | |
法務省 | 〇 | 歯科矯正 と 応召義務
問い: 歯列矯正を希望する患者の診察治療の求めは,医療費の支払能力を理由に拒んでもよいか?( 医学的に治療を要する医療とは.医療の公平性について ) ☛ 歯科矯正は医学的な治療を要さない自由診療であり,支払い能力を有さない患者を診療しないことは正当化される.
歯科医師法 第四章 業務
☛ 昭和24年の(通達)では,「 正当な事由」 とは? 「社会通念上健全と認められる道徳的な判断によるべきである」と述べられている. ☛ その後の現在に至る医療を取り巻く状況の変化等を踏まえた応召義務の解釈については,以下の報告書にまとめられている. 応招義務をはじめとした診察治療の求めに対する適切な対応の在り方等について 医療を取り巻く状況の変化等を踏まえた医師法の応召義務の解釈に関する研究について ☛ その中において,医療費不払いの患者については以下のような具体例があげられ,医学的な治療を要さない診療を自由診療と解釈されている. ○以前に医療費の不払いがあったとしても、そのことのみをもって診療しないことは正当化されない。しかし、支払能力があるにもかかわらず悪意を持ってあえて支払わない場合等には、診療しないことが正当化される。 ○具体的には、保険未加入など医療費の支払い能力が不確定であることのみをもって診療しないことは正当化されないが、医学的な治療を要さない自由診療において支払い能力を有さない患者を診療しないことなどは正当化される。 また、特段の理由なく保険診療において自己負担分の未払いが重なっている場合には、悪意のある未払いであることが推定される場合もあると考えられる。
課題:医学的に必要な医療(医学的に治療を要する治療)とは何か? 学校歯科健診における受診勧奨の位置づけ.医療,健康(身体的・社会的・精神的)の社会概念の変容と西洋諸国の現状. ☛ 「医学的に必要な歯科矯正」基準 米国における歯科矯正の公的医療保険 ☛ 「子どもの歯科矯正」 への公的医療保険の国際比較(OECD加盟国)
@ 自由診療とは何か? 公的医療保障の対象でなく,医学的な治療を要さない患者への診療(美容医療など) 歯科矯正学の治療・研究・教育には,なぜ税金が投入され,国民が公平に享受できていないのだろうか? A 代替療法(保険適用の治療)があることではじめて,自由診療がある. B 歯科矯正には自由診療しかなく,経済的に困窮した患者,我が国に生まれた子どもたちは公平な治療アクセスが保障できていない. C 歯科矯正は医学的な治療を要さない自由診療であるが,国際疾病分類上の疾病(歯と顎骨の大きさ・位置異常)でもある
☛ 問:学校歯科健診で受診勧奨された児童生徒の歯科矯正治療を,支払い能力が不確定であることをもって拒否できるか? ☛ 歯と顎骨の大きさ・位置異常は医学的な治療を要するか?
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - (昭和二四年九月一〇日)
最近東京都内の某病院において、緊急収容治療を要する患者の取扱に当たり、そこに勤務する一医師が空床がないことを理由として、これが収容を拒んだために、治療が手遅れとなり、遂に本人を死亡するに至らしめたとして問題にされた例がある。診療に従事する医師又は歯科医師は、診療のもとめがあった場合には、これに必要にして十分な診療を与えるべきであることは、医師法第一九条又は歯科医師法第一九条の規定を俟つまでもなく、当然のことであり、仮りにも患者が貧困等の故をもって、十分な治療を与えることを拒む等のことがあってはならないことは勿論である。 記 一 患者に与えるべき必要にして十分な診療とは医学的にみて適正なものをいうのであって、入院を必要としないものまでをも入院させる必要のないことは勿論である。
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| 総務省 | 〇 | 統計法(平成19年法律第53号。以下「法」という。)第28条第1項の規定に基づき、法第2条第9項に規定する統計基準として、総務大臣は 「国際疾病分類 ICD による傷病分類表」 をわが国における公的統計の表示に適用し,ICDに準拠した「疾病、傷害及び死因の統計分類」を告示している。 現在、国内で使用している分類は、ICD-10(2013年版)に準拠しており、統計法に基づく統計調査に使用されるほか、医学的分類として医療機関における診療録の管理等に活用されている。 統計法 第一章 総則 (目的) 第一条 この法律は、公的統計が国民にとって合理的な意思決定を行うための基盤となる重要な情報であることにかんがみ、公的統計の作成及び提供に関し基本となる事項を定めることにより、公的統計の体系的かつ効率的な整備及びその有用性の確保を図り、もって国民経済の健全な発展及び国民生活の向上に寄与することを目的とする。 (定義) 第二条 この法律において「行政機関」とは、法律の規定に基づき内閣に置かれる機関若しくは内閣の所轄の下に置かれる機関、宮内庁、内閣府設置法(平成十一年法律第八十九号)第四十九条第一項若しくは第二項に規定する機関又は国家行政組織法(昭和二十三年法律第百二十号)第三条第二項に規定する機関をいう。 9 この法律において「統計基準」とは、公的統計の作成に際し、その統一性又は総合性を確保するための技術的な基準をいう。 (統計基準の設定) 第二十八条 総務大臣は、政令で定めるところにより、統計基準を定めなければならない。 2 総務大臣は、前項の統計基準を定めようとするときは、あらかじめ、統計委員会の意見を聴かなければならない。これを変更し、又は廃止しようとするときも、同様とする。 3 総務大臣は、第一項の統計基準を定めたときは、これを公示しなければならない。これを変更し、又は廃止したときも、同様とする。 - - - - - - - - - - - - - - - - - - 令和6年 2024年5月15日付 官報 号外 第115号 22頁 告示 総務省告示 - - - - - - - - - - - - - - - - - - 平成21年 2009年3月23日付 官報 号外 第57号 16頁 総務省告示 第176号 統計法(平成19年法律第53号。以下「法」という。)第28条第1項及び附則第3条の規定に基づき、法第2条第9項に規定する統計基準として、疾病、傷害及び死因に関する分類を次のように定め、平成21年4月1日から施行し、同日以後に作成する公的統計(法第2条第3項に規定する公的統計をいう。)の表示に適用する。 平成6年総務庁告示第75号は、平成21年3月31日限り廃止する。 平成21年3月23日 総務大臣 鳩山邦夫 1 統計基準の名称疾病、傷害及び死因の統計分類 2 疾病、傷害及び死因の統計分類を設定する目的 公的統計を疾病、傷害及び死因別に表示する場合において、当該公的統計の統一性と総合性を確保し、利用の向上を図ることを目的とする。 3 分類表(1)傷害及び死因の統計分類基本分類表 第XI章 消化器系の疾患 口腔,唾液腺及び顎の疾患 (K00−K14) K07 歯顎顔面(先天)異常[不正咬合を含む] K07.0 顎の大きさの著しい異常 K07.1 顎と頭蓋底との関係の異常 K07.2 上下歯列弓の位置的関係の異常 K07.3 歯の位置異常 K07.4 不正咬合,詳細不明 K07.5 歯顎顔面の機能的異常 K07.6 顎関節障害 K07.8 その他の歯顎顔面の異常 K07.9 歯顎顔面の異常,詳細不明 ※ 歯科疾患実態調査(厚生労働省)においても,法令に規定されたICD分類を用いたほうがよい. | |
| 厚生労働省 | △ | 医療法 歯科医師法 健康増進法(平成十四年法律第百三号)第九条第一項に規定する健康診査等指針 不正咬合は疾病でなく美容目的との見解であるが,厚生労働省監修の国際疾病分類では疾病として分類記載されている. 財務省と厚生労働省の医療概念の議論と考え方: @ 容貌の美化とは何か? 美容のためだけにやる.健康上の理由はないという歯列矯正はあるか? A 容貌を変えるとは 歯並びを治す(歯や歯列の位置異常を矯正する)ことで,結果として容貌(口唇や側貌)は変わる.役人の知識不足や誤解. ☛ 答弁から解釈すると,「美容のためだけや健康上の理由はない」という歯列矯正はどういう場合かと考えると.犬歯を吸血鬼のように出してほしいという奇人や映画俳優がいるかもしれないが,このような場合以外の歯列矯正は,国際疾病分類における歯の位置異常,歯列弓の異常という「疾病」を,正常な位置や大きさへ改善するものである. ☛ 「容姿を美化し,容ぼうを変える」とは,疾病の有無によって解釈が異なる. ☛ 疾病による醜の改善(歯・歯列の位置・大きさの異常,腫瘍や外傷による身体の変形や欠損) ⇒ 歯科矯正,形成外科 ☛ 疾病のない状態からの容姿,容ぼうを変える.健康上の理由がない. ⇒ 美容医療,美容外科 ☛ 諸外国に準じ,重篤なものから保険適用を拡大する 例えば,公的医療保険の対象疾患である「顎変形症」の場合,歯や歯列の位置や大きさの異常を改善すると,結果として容貌も改善する(財務省のいう美化という変化が起こる)が,これは疾病からの肉体的・精神的・社会的な健康回復が目的. 善 ↔ 悪 正 ↔ 不正 正常 ↔ 異常 美 ↔ 醜 健康:疾病でないこと(日本) well-being(WHO, 諸外国) ☛ 公的医療制度に歯科矯正が適用されている欧米諸国では,WHOの健康概念の Social handicap ,すなわち醜状(教育・就労における障害)や発音障害を健康障害と捉える.わが国では,とくに医学から分離した歯科(医学)学教育では,不正咬合をかみ合わせの異常に重きを置き,健康上の問題とする社会的・精神的な健康概念の立ち遅れ,身体加工に対する歴史的,社会文化的会計から,国民の口腔の健康格差がある. | |
| 文部科学省 | ✖ | 学校教育法 就学時健康診断票 学校保健安全法第13条第1項,同 施行規則第3条第9項,文部科学省令にて規定された技術的基準 日本学校歯科医会の定める「歯列・咬合の判定基準0,1,2」 児童, 生徒, 学生, 幼児及び職員の健康診断の方法及び技術的基準の補足的事項 及び健康診断票の様式例の取扱いについて 1995年(平成7)より,学校健診における不正咬合:子どもの健康に影響を与えるとして学校健診を実施.その後の対応に国民より多数の疑問. いじめ,自尊心,QOLと歯列不正との関係 ⇒ 子どもの権利条約:子どもの健やかな成長への健康を享受する環境の確保)
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| 財務省 国税庁 | 〇 | 子どもの歯科矯正は医療費として医療費控除可としている. No.1128 医療費控除の対象となる歯の治療費の具体例 [令和7年4月1日現在法令等] 対象税目:所得税 概要:歯科医師による診療または治療の対価で、その病状などに応じて一般的に支出される水準を著しく超えない部分の金額は、医療費控除の対象となる医療費に該当します。 (2)発育段階にある子供の成長を阻害しないようにするために行う不正咬合の歯列矯正のように、歯列矯正を受ける人の年齢や矯正の目的などからみて歯列矯正が必要と認められる場合の費用は、医療費控除の対象になります。しかし、同じ歯列矯正でも、容ぼうを美化するための費用は、医療費控除の対象になりません。 出典:No.1128 医療費控除の対象となる歯の治療費の具体例|国税庁 【照会要旨】 将来の就職や結婚を考慮して歯並びを矯正するための費用は、医療費控除の対象になりますか。 【回答要旨】 医療費控除の対象とはなりません。 発育段階にある子供の成長を阻害しないようにするために行う不正咬合の歯列矯正のように、歯列矯正を受ける者の年齢や矯正の目的などからみて社会通念上歯列矯正が必要と認められる場合の費用は、医療費控除の対象となりますが、容姿を美化し又は容貌を変えるための歯列矯正の費用は、医療費控除の対象とはなりません(所得税法施行令第207条、所得税基本通達73-4)。 将来の就職や結婚を考慮しての歯列矯正は、一般的に容姿を美化し又は容貌を変えるためのものであると認められ、この場合の費用は、医療費控除の対象とはなりません。 【関係法令通達】 所得税法施行令第207条、所得税基本通達73-4
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| こども家庭庁 | 成育過程にある者及びその保護者並びに妊産婦に対し必要な成育医療等を切れ目なく提供するための施策の総合的な推進に関する法律 母子保健法(妊産婦,乳児,幼児) 成育医療等の提供に関する施策の総合的な推進に関する基本的な方針(成育医療等基本方針) 周産期 乳幼児期 学童期・思春期 全成育期 ⇒ 子どもの権利条約:子どもの健やかな成長への健康を享受する環境の確保) 1989年「子どもの権条約」は国連で採択され,1990年国際条約として発効. 第24条 ☛ 「子どもの歯科矯正」 における公的医療保険の国際比較(OECD加盟国) ☛ ヨーロッパ諸国における歯科矯正医療の公的医療保険の現状(2010) c. 環境汚染の危険を考慮に入れて、基礎的な保健の枠組みの範囲内で行われることを含めて、特に容易に利用可能な技術の適用により並びに十分に栄養のある食物及び清潔な飲料水の供給を通じて、疾病及び栄養不良と戦うこと。 ☛ 我が国における「子どもの歯列矯正は審美・美容とする考え」は,伝統的な慣行に当たらないか? | ||
| WHO | 〇 |
WHO: Closing the Gap in a generation 2008
健康の不公平,つまり避けることが可能な健康の格差は,人々が成長し,生活し,労働し,老いていく環境と,既存の保健医療システムが原因となって生じる.人々が生まれ,死にゆく環境条件を形成するのは,政治的,社会的,経済的な諸力である. | |
| FDI 国際歯科連盟 |
〇 |
FDI's definition of oral health 口腔の健康は,多面的な概念であり,痛み,不快感,頭蓋顎顔面複合体の疾患がなく,自信を持って話し,微笑み,嗅覚,味覚,触覚,咀嚼,嚥下,そして表情を通して様々な感情を伝える能力を含む.口腔の健康は,生活の質を高めるために不可欠な生理的,社会的,心理的特性を反映するものである. FDI 世界歯科連盟による口腔保健の新しい定義 FDI World Dental Federation. FDI Definition of Oral Health, 2016
(FDI 世界歯科連盟 歯列不正への施政方針 FDI World Dental Federation. Malocclusion in Orthodontics and Oral Health. ADOPTED by FDI General Assembly September, 2019 in San Francisco, United States of America)
☛ 口腔保健のビジョンは,技術的な方向性から患者の心理社会的なwell-beingにも注意を払う広範な視点へと発展しており,文化的な西洋諸国の歯科矯正医たちは,自分たちの立場や知名度をこのような発展に合わせていくべきだと気づき,より患者中心の方法で協力し,より広い分野と交流する学問分野へと変化しているが,わが国ではこうした認識はまだ見られない.
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| 科学者共同体 矯正歯科学会 学校歯科医会 など | △ | 学会から子どもの歯科矯正に関する提言や見解や意見はない.厚生労働省の指示に従うというスタンス. ☞ そもそもの歴史的文化的背景として,プロフェッショナリズムを基盤として医業が成立している諸外国の科学者共同体の違い. 専門医や認定医の資格認定要件に,「歯科矯正治療は基本的に自費診療です」 という一文を入れることを義務化している. 歯科矯正医療への公的医療保障の拡大に反対しているメッセージとも解釈できる. 国民の立場に立つと,健康で文化的な生活を営むために必要な医療としての認識,国民への公平な歯科矯正医療への配分が早急に達成されない現状が続いている. 今後のわが国におけるこの分野の衰退(研究費削減)へとつなが可能性が次第に大きくなっている. 研究成果は,広く国民の健康や生活の向上へと公平に配分されるべきであり,科学者の夢,研究基盤の考え方が失われている. 日本の 「治療の必要な不正咬合の判定基準(日本矯正歯科学会)」 もweb公開されているので以下に記載する. 1. 顔や歯並びが左右対称か 2. 横顔で唇がひどく出ていたり、引っ込んでいることはないか 3. 上の歯はすべて下の歯を覆っているか 4. 上下の前歯の中心が一致しているか 5. 歯が重なっていたり、間に隙間はないか 6. 上の前歯や下の前歯が前方に出ていないか、その逆はないか 7. 前歯がひどく伸びだしていることはないか 8. 部分的に食物が歯の間に停滞したり、はさまることはないか 9. ひどく磨り減っている歯はないか 10. 口臭が気にならないか 学習ポイント ☞ @ 国際的な判定基準: 「Index of Orthodontic Treatment Need(欧州諸国)」 や 「Medically Necessary Orthodontic Treatment (米国)」 の判定基準と比較してみよう. 日本の判定基準では,具体的数値基準がなく,判定基準になっていないのはなぜか? A 学校健康診断で用いられている判定基準は,別に以下のものが公表されている. ![]() 欧米における歯科矯正医療の概念についての歴史的背景とわが国における現状との文化的相違について:以下に学ぶ. |
2000年の人口における顎変形症の推計
アメリカ 285,000,000 150万人 0.00526
イギリス 58,690,000 25万人 0.00426
日本 127,000,000 635,000人 0.005
学校歯科健康診断(5%)
18才以下児童生徒 100万人
The consequences of living with a severe malocclusion: A review of the literature
J Orthod 2021 49(2):228–239
Orthognathic cases: what are the surgical costs?
Sanjay Kumar, Alison C. Williams, Anthony J. Ireland, Jonathan R. Sandy
European Journal of Orthodontics, Volume 30(1), 2008, P.31–39
Geographic distribution of specialist orthodontists and orthodontic providers in Japan
Orthodontic Waves Volume 72(4), 142-147, 2013.
https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1016/j.odw.2013.07.001#abstract
Increasing supply of dentists induces their geographic diffusion in contrast with physicians in Japan,
Social Science & Medicine, Vol 71(11) 2010, P 2014-19.
https://doi.org/10.1016/j.socscimed.2010.09.005.
Abstract: The geographical distribution of health professionals reflects behavioral characteristics of such professionals and of the health system in which they work. The spill-over hypothesis asserts that their oversupply leads to a more even geographic distribution. The current surplus of dentists in Japan is a suitable opportunity to observe such situations. This study demonstrates the transition of the geographic distribution of dentists from 1980 to 2000 in comparison with that of physicians. Using data from the Population Census and the Physician, Dentist, and Pharmacist Census, we calculated the ratio of dentists working in clinics and hospitals per population in 1980, 1990, and 2000 and the Gini coefficients according to the municipality boundaries at the end of 2000. We also plotted the municipalities on a graph, which illustrated the ratios of the dentists by population. We did the same analysis with physician data. The number of dentists increased by 71% during the 20 years studied. The ratios of dentists/100,000 population were 44.1, 58.3, and 69.7 in 1980, 1990, and 2000, respectively. The Gini coefficients for dentists by municipality were 0.270, 0.213, and 0.197, excluding the municipalities with a dental university or its hospital. In contrast, the Gini coefficients for physicians barely changed while the number of physicians increased by 60% during the same periods. The graphs for dentists appeared to indicate the ceiling of those ratios (approximately 100 dentists/100,000 population), but such a ceiling was not seen for physicians. The supply of dentists might have reached a level that generated the geographic diffusion and redistribution of dentists in Japan, in contrast with the situation involving physicians. This supports some results from other countries suggesting that saturation of local markets for health professionals may result in geographical redistribution, producing a more equal pattern of provision across the national space.
— 歯科医史学 概論: 故 戸出 一郎 先生 の 授業ノート に追加しました.
1. 定義
歯科医史学とは,史学の研究方法により,歯科医学の進化の原理を究明する学問である.史学に必要なものは,人文現象の時間的経過を調べることだけではなく,秩序と批判である.これをつらぬく道理の究明である.
2. 歯科医学史研究の目的
1. 現代歯科医学の方向性を知るため
2. 歯科医学思想の動向を察するため
3. 温故知新の意味において
4. 各国の歯科医学の動向を知り,その特徴をつかみとるため
5. 先哲医聖の言行を追慕するため
6. 医文学研究のため
3. 研究方法
歯科医史学の研究対象は,思想・人物・疾病に大別される.そのいずれの場合にも,研究方法としては,史料の蒐集選択,史料批判,総合,比較研究が行われる.
1. 史料
☞ 歴史資料とは何か(国立国会図書館)歴史的現象は直接われわれに与えられておらず,なんらかの素材を通じて認識されるのである.この素材を史料といい,歴史知識の源泉となるものである.
史料は次の3つの形に分類される.
イ. 考古学的史料
ロ. 文献
ハ. 伝承
2. 史料批判
史料の分析をして,そこから出てくる事項の事実性を決定すること.即ち,史料の証拠力を検査することが史料批判である.
史料批判には,通常,真贋の鑑定と価値判断について行われる.そのためには,史料の性質,史料作者の人物,時代と場所の影響などが考慮にいれられる.
史料批判では,その目安となるものは,その資料を 「いつ」 「どこで」 「だれが」 書いたか,の三要素であり,「その時」 「その場で」 「その人が」 の三要素を満たすものを 「一次史料」 と呼び,そうでないものを 「二次史料」 と呼びます.史料批判を繰り返して精度を高めていく必要があります.
ポイント ☞ 史料や「〇〇の歴史」という文献や著書をみると,「....と思われる」 「何某が......言っていた」,あるいは,定説とされる高名な研究者の著書においてさえ,誤記や偏好,歪曲,思い込み,誤解されたものが多数あり,Lady Justice の項で述べる.
3. 統合
分解された事物の要素を集合統一して全体に帰することである.
4. 比較研究
一つの事実をよりよく理解するために,他の事物と対比して考究する方法である.
4. 史観
歴史の眞利は,分析と総合のほどよい調和によって得られるものである.史的認識は客観と主観とが統一されてはじめて可能となる.史的事件は一部分しか感覚世界にあらわれておらず,残る部分は推理によって連結されなければならないから,歴史科学に純粋客観ということはあり得ない.
史家がある観点から史実を総合統一する態度を「史観」と呼ぶ.史観は主観的に制約されており,歴史叙述者の原動力となるものである.
5. 結語
史的素材を客観的に批判解釈して総合統一し,そこから歴史的原理の把握へ達することが史学の正道である.
歯科医史学は単に知識のための史学に終わらせてはならない.認識し,解決する学から未来のプログラムをたてる学にまで進出しなければならない.そのためには歴史のなかから指導理念を抽出しなければならない.指導理念とは歴史における合理的な原理を意味している.
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日本のどこであれ,町の中心部を歩いていると,〇〇矯正という看板をよく目にする.骨盤矯正,姿勢矯正,小顔矯正,縮れ毛矯正など.法的にも,法務省には矯正局があり,刑務所,拘置所,少年院,少年鑑別所などを矯正施設という.矯正という日本語は,ずっと以前からあるもので,orthodontic treatment は,明治期に 「齒列を撓匡の術(1881年,伊沢道盛)」, 「齒の療法(1885, 河田麟也/大月龜太郎)」, 「齒列矯正術(1889, 小林義直)」,「鹺てつ(齒に失う)療法(1892, 山紀齋)」,「鹺齒矯正術(1900, 泰民)」など,いくつかの翻訳語が考案され,その中から文部省の小林義直の 「歯列矯正術」 が選択され,現在の 「歯科矯正」 となって今に残っている.
orthodontics は,中華人民共和国(中国)では 「口腔正畸学」 であり,中華民国(台湾)では 「齒顎矯正學」 と翻訳されている.日本の歯学部にあたる大学教育は,中國は 「口腔医学院」,台湾では 「口腔醫學部」 である.中国は戦後の旧ドイツ,旧ソ連や欧州の医学教育体制を,台湾では日本とアメリカの医学教育体制を取り入れたためである.Dental surgery の一分野として,齒の不整や子どもの変形の医療として専門分化してきた orthodontics は,それぞれの国や地域における医療体制の変遷や社会背景よって,その言葉や医療概念とともに,各国での公的医療としての保障制度に影響している.
現在(2024年),健康で文化的な生活を送ることができる多くの先進諸国(英,仏,独など欧州諸国,米国,ブラジルなど)では,歯の位置や顎骨の大きさの異常は,国民の健康(身体的・社会的・精神的)上の医学的問題として,医学的に必要な医療として社会的に受容され,公的医療保障制度の適用対象となっている.わが国の歯科矯正医療は,未だ国際社会における価値感から大きく逸脱した異質な経過をたどっている.国民はすでにこれに気づいており,10年以上前から国会でも質疑が行われているが,科学者共同体からの助言がないことから何も進展していない.しかしわが国では公平な歯科矯正医療の提供体制が欠落していることは知っておくべきである.
☛ 各国における歯科矯正医療の社会的供給体制の比較
☛ 「医学的に必要な歯科矯正」基準 米国における歯科矯正の公的医療保険
☛ 「子どもの歯科矯正」 への公的医療保険の国際比較(OECD加盟国)
☛ ヨーロッパ諸国における歯科矯正医療の公的医療保険の現状(2010)
【 the father of something 】
the man who began something or first made something important.
the father of orthodontics(欧州,米国)
@ 歯科矯正学の父: Norman William Kingsley(1829-1913)
A 近代歯科矯正学の父:Edward Hartley Angle(1855-1930)
B 公衆衛生 Public Health Orthodontics のパイオニア:Jacob Amos Salzmann (1900-92)
【 ...の嚆矢 こうし 】
1. 先端に音のなる鏑を取り付けた矢。鏑矢。
2. 物事の初め。始まり。戦争の始まりに鏑矢を射ることで合図にしていたことから。
歯科矯正 〇〇 の嚆矢(日本) ※ 赤字部は 鈴木らの論文 に未収載であった.
- - 記述
@ 記述 の 嚆矢:太 安万侶(712 和銅5 )古事記; 波那美波 志比斯那須(歯並は椎や菱のごとく)
- - 翻譯
A 翻訳 の 嚆矢:ヘボン, J. C.(1867 慶応3) 和英語林集成;歯幷が悪い(the teeth are irregular.)
B 翻譯 の 嚆矢:土岐 頼徳(1872 明治5)啓蒙養生訓;齒列整はぬときの抜去
C 翻譯 の 嚆矢:横瀬文彦/阿部弘国(1873 明治6)西洋養生論;歯列(ハナラビ)の用語
D 翻譯 の 嚆矢:小林 義直(1875 明治8)四民須知養生浅説;irregularを 「歯列不整」 と訳す.
E 翻譯 の 嚆矢:松本順:閲・澤田俊三:譯(1876 明治09)育児小言;a double teeth を「八重歯」 と訳す.
F 記述 の 嚆矢:伊沢 道盛(1881 明治14)固齢草: 一名齒牙養生譚;「齒列を撓匡の術」 を記した.
F 翻譯 の 嚆矢:山 紀齋(1881 明治14)保齒新論;irregularity of the teeth を 「齒牙鹺跌」 と訳す.
G 翻譯 の 嚆矢:河田鱗也と大月龜太郎
(1885 明治18)歯科全書;orthodontia を 「歯の療法」 と訳す.
H 翻譯 の 嚆矢:小林 義直(1889 明治22)歯科提要;orthodontishe behandlung を 「歯列矯正術」 と訳す.
- - 講義・演説・報告
I 講義 の 嚆矢:青山松次郎(1890 明治24)山齒科醫學院講義録 「齒の不整」
J 演説 の 嚆矢:榎本 積一(1892 明治25)亂排齒矯正術(16歳女)の矯正例.(現在の症例報告か?)
K 論文報告の 嚆矢:八百枝康三(1896 明治29)鹺跌矯正ノ實験
L 辞書への記載 :佐藤 運雄(1908 明治41) 醫學大辞書; orthodontia(歯科矯正術)
M 学会発表の 嚆矢:佐藤 久 (1918 大正7)
などが一次史料から確認された.
●翻訳者たち D F G H I の 郷里 と 師弟関係について
彼らは備中・備後を中心とした地域(広島・岡山)と大変深い関係にあった.
小林義直は同郷の者の世話をよくしたとあり(芸備医誌),つながりや情報交換もあったのであろう.
福澤諭吉 = = = <中津の同郷>= = = 小幡英之助
(1835-1901) (1850-1909)
翻訳者 生没 出身地 ↕-- 適塾(蘭学)
小林 義直 DH 1844-1905 備後国野上村(現福山市)= = = = 井上角五郎: 野上村から慶應義塾へ
山 紀齋 F 1850-1933 備中岡山
伊澤 信平 1860-1923 備後福山藩.伊澤蘭軒の子息で備後福山藩医 伊澤盤安(柏軒)の子.
河田 麟也 G 1863-1890 浜田藩から美作国へ転居.
歯科全書全編奥付には 「岡山縣美作國勝南郡岡村二百二十番地」とある.現在の津山市の一部.
(大月龜太郎は栃木足利村.また,共譯トアルガ「翻訳は河田」,「出版を大月」が担ったらしい)
青山千代次 1864-1889 青山松次郎の兄,歯科医籍 第1号.1888;安芸広島の細工町(現大手町1丁目)で開業.
青山松次郎 I 1867-1945 備前岡山

2) 「小林義直とその訳書」 鈴木勝ほか,日本歯科医史学会雑誌,1(1) 29-33, 1973

『広島県医人伝』 第1集 江川義雄 1986.4.
国立国会図書館デジタルコレクション
https://dl.ndl.go.jp/pid/12644525
【略伝】 弘化元年(1844)8月8日,備後国の野上村(現広島県福山市)の農業,小林周蔵の長男として生れ,幼名を辰太郎又は達太郎と呼んでいた.その辰太郎は体が弱く,その労作に耐えないので,実家を次男に譲り,福山藩の江木繁太郎(鱈水)に漢学,儒学を,叉蘭学を寺地舟里(通称は強平)に学び,漢洋双方の医学を修めた.特に優秀性を江木氏にかわれ,江木氏の推せんで,当時上族でないと許可しなかった藩黌誠之館の試験をうけ入学,卒業後は福山地方における最初の洋医として開業した.
墓は、東京都台東区谷中7丁目5-24の「谷中霊園(甲1号3側)」にあり,墓石正面は,「小林家累世之墓」.「恭敬院釈義照居士」.同郷福山出身で明治17年(1884)に日本人初の東大産科婦人科教授となるも29歳で病没した清水郁太郎(1857-1885)の墓と隣り合わせに並ぶ.平成21年(2009)3月改築.同姓同名の医師墓があるので注意.
注)@ 古事記:椎,菱の実 ⇒ See 年表 712年
椎:ブナ科の常緑広葉樹.古代には食料とされた.樹木は乾燥すると割れやすく耐久性も低く材木としての使用も少ない.
椎の実
(画像提供:PIXTA)
菱:ヒシ科.ヒシ,オニビシ,ヒメビシ,など.東アジアに広く分布する古来からの水生植物.水栗ともいわれ栗のような味.
菱(オニヒシ)の実.犬歯のような形態である.
(画像提供:PIXTA)
椎(しい)や菱(ヒシ)の実の形:歯並びを 「椎や菱の実」 の例え.
医学的に現代語で表現すれば,ひどい乱排齒の状態ではないだろうか.多くの出版されている現代語訳については年表に記したが,昭和以後は白いキレイな歯並びの娘と訳されているものが多い.現代語という意味での翻訳では,現代の価値観に合わせた心情としては正しいかもしれない.しかし,当時の日本国は黒齒国と呼ばれ,寿命や歯磨き習慣などなく,歯に対する美の価値観は真逆であった.
@ 本居宣長は,歯並の美しきことと註しているが,(きれいに並んだ白い歯)を意味するものではない.
A 鳥谷は,顔面の変形や奇形齒の巫女と解釈している.
B 椎の実,菱の実は,真っ白でなく,黄色がかった白?
C 実の色より,尖った形をまず考えた例えであろう(笠原節二,1929)
D 歯科医としての意見は,以下の書に詳しい.
長谷川正康著 『むしばのたはごと』 下 書林 1985.4.
国立国会図書館デジタルコレクション
https://dl.ndl.go.jp/pid/12702221
丹羽源男著
『楊枝の今昔史』 書林 1984.6.
国立国会図書館デジタルコレクション
https://dl.ndl.go.jp/pid/12666254
注)J
1) 亂排齒矯正術/乱排齒矯正術:について
恥ずかしながら,しばらく亂排齒の 「亂」 は,乳歯の「乳」 の字と思って解読していた時期があった.「亂」 は 「乱」 の旧字体. 亂排齒(らんばいし)は,俗に 「亂杭齒(らんぐいば)」<そろわぬ齒> とある.明治期,齒の位置異常 irregularity of the teeth は,所謂(いわゆる)亂排齒,または,俗に亂杭齒と云われた.
【亂杭 らんぐい 】 の語源:
戦国時代,川底や地上にふぞろいに杭を打ち込み,太い綱(ツナ)や網(アミ)などを張り,攻めてくる敵や馬の障害物とした.ふぞろいな状態を例えて亂杭の状態とし,世間では歯並びの悪いことを亂杭齒と言ったようである.その治療は 「亂排歯矯正術(らんばいしきょうせいじゅつ)」 あるいは 「亂杭齒矯正(らんぐいばきょうせい)」 と記されている.「亂杭」 や 「逆茂木」 は,敵の防御策として,平安以降の築城の文献に散見されることからよく知られた言葉だったようである.
「乱ぐい歯」 という言葉は,患者さんからもよく聞く言葉であった.最近では,いつの間にか,「叢生(そうせい)」:叢(くさむら).草木が無秩序にむらがり生えている所.に置き換わってしまった.そのうち,都会の人々は,草むらさえ知らない子供たちがふえるとなんという名になっち行くのだろうか.日本矯正歯科学会の 「歯科矯正学用語辞典」 には,「叢生」 の英訳は Crowding と記載されている.Crowding は「叢生(齒の)」 と記載されているが,乗っていない.こうした歴史ある日本文化に由来した叢生の呼び名はぜひ残ってほしいと思のである.私は,叢生より亂排齒の方が好きである.日本矯正歯科学会編 「歯科矯正学用語集」


高橋五郎 著 『いろは辞典: 漢英対照』
長尾景弼 明21.5.
国立国会図書館デジタルコレクション
https://dl.ndl.go.jp/pid/902745

(上左図)歯科医会 編 『歯牙保護論』 p.14 歯科医会
明28.11. 国立国会図書館デジタルコレクション
https://dl.ndl.go.jp/pid/836508/1/12
(上右図)高橋五郎 編 『和漢雅俗いろは辞典』 第2冊 かんがみる−ごますり
明治22 長尾景弼 国立国会図書館デジタルコレクション
https://dl.ndl.go.jp/pid/992939/1/88?keyword=%E4%BA%82%E6%9D%AD
●亂排齒,亂杭齒はさらにさかのぼると,「押齒」 と云われ,古事記等にも記載されている.
「八重歯」 という日本の文化的言葉,「叢生齒」という例え.
八重歯はいつの間にか誤解され 「犬歯」 に特定された俗名となった.
世間で受容されていない叢生より,八重歯や乱杭歯は歴史的にも医学用語として残すべきではなかろうか.
☞ 古事記に現われた市辺忍齒王の物語 ―押齒による個人識別の一例―
Oshi-ha, オシハ, n. 1) 押齒.齵.The wise-tooth (齒ノ重ナリ生ヘル也,Enc.12. 14. r.). SYN.
Iya-ha.Osoba. Osoiba.

と書かれている
齵:グ.やえば.おしばともいう.
「俗に親知らずといいて,奥の方に遅く生ふる齒あれば遅齒と思う人あるがまぎらわすべからず」 との説明もあった.
Johann Joseph Hoffmann 著(ライデン,オランダ)
『Japanese-English dictionary』 E.J.Brill社 1881.
国立国会図書館デジタルコレクション
https://dl.ndl.go.jp/pid/1871566/1/136?keyword=%E9%BD%92
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「和英語林集成」 の ヤヘバ の説明.→ See 1867.

YAE ヤヘ 八重 n.
Eight-fold, many fold:
hana ga — ni saku, the flower blooms with many petals; 花が八重に咲く
— no sakura, a cherry-tree that bears a double blossom. 八重の桜
YAEBA ヤヘバ n.
The root of carious tooth which has ulcerated the gum and projecting through it makes a wound in the lip (mostly of the inciser teeth of children).
歯肉に潰瘍を作り、そこから突き出たむし歯の歯根が口唇に傷を作る(主に小児の切歯).
☛ ヘボンの ヤへバ の定義はまた独特である.亂排齒や叢生とも異なっており,もう少しの検を要する.
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eye teeth, canine
Talbot の書(Irregularities of the teeth and their treatment / by Eugene S. Talbot.
Galen (150 A. D.) gave the canine teeth the present popular term "eyeteeth," because he believed they were supplied by the optic nerve. 出典:Irregularities of the teeth and their treatment / by Eugene S. Talbot.
give one's eyeteeth for ....
snaggletooth in British English (ˈsnæɡəlˌtuːθ )
noun, a tooth that is broken or projecting
折れたり突き出ている歯.乱杭歯
Crooked teeth
曲がって歪んで並んだ歯.
a double tooth:八重歯,かさなりば.
八重:八つ重なっていること.いくつも重なっていること.転じて数多く重なっていること.
八重桜,八重垣,八重山 など.

八重桜 桜
八重垣:幾重にも作った垣.
八重雲:幾重にも重なっている雲.
八重山:幾重にも重なっている山.
「二枚歯」 や 「二重歯列」 との用語も double tooth の別訳.
八重歯の語源を 刃(やいば)とする俗説もあるが間違い.
史料によると,
1867年にヘボンは日本最初の和英辞書で,八重歯 YAEBA を記載しているが,その説明は→ See 1867.
1876年に英国で刊行された "Advice to a mother ....(☞ 別項:1876年を参照)" の翻譯で澤田俊三(松本順 閲)は double teeth を八重歯と翻譯した.
末広がりの字形 「八」 は縁起が良いとされ現代でも好まれている(例;車の八(8)ナンバーなど).
重なった齒(八重歯)は,日本では縁起の良いものとされていたのかもしれない.
八重歯は犬歯を指すのではなく,亂排齒,亂杭齒と同義であった.重なった齒,添歯.
明治40年頃になると,和英辞書では oblique teeth 表記も出てくる.
明治期まで歯並びに関心のなかった日本文化の社会背景を知る.
注)旧字体の手引きとして
![]() | |||||
![]() | ![]() に | の | |||
は | |||||
み | |||||
る
に
な
す
ず
み
も
の
は
き
り
か
齒の事
凡小兒は産後七カ月を経れば大抵齒を生すれども或は三カ月にして齒を生するもありされど之は普通のものと言いかたじ然るに英國王リチャルド第二世の如く生れながらにして齒があるものあり其他此類の小兒往々舊記に遺れるを以て稀には世にあるものとみえたり然れども如斯の齒は永續せず常に脱落するものなり之に反して一年半或は二年を經るとも未だ齒を生ぜざるものあり偶には三四年に及ひ或は終年齒なきものあり1860年刊行の佛國醫事新聞に一老婆の齢八十五歳に至りて初めて齒を生じたるものを記載せし事あり總て之らの事は余が會て聞見したるものなれば錄して他日の参考に供せんとするのみ
〇小兒の初て齒を生ずるときは大抵齒數の二十枚程を□りて齦(はぐき)の上下に生出するものにて生齒は必らず一雙(ひとならび)づつ自然の順番ありて前後を違へざるものありとす最初には下齦に前齒の一雙を生じ續て上齦にも同しく一雙 (>次項へ)
(>前項より)を生して後下齦前齒の兩傍X脇齒の一雙を生し續て上齒も亦斯の如し偶Xは下齦の前X八重歯を生するものXて八重歯は必らず下齒の七八枚目に堀起するものなり而して齨齒(おくば)は第一第二と二度X生出するものXて初X下の齨齒を生じ次に上の齨齒を生し續て下の目牙(糸切り歯)を先に生し上の目牙後に生するなり而して第二度めも亦た斯の如く概ね生齒は各人同様なれども偶には異同あるものなり大抵二年を經れば總て初生齒(はじめのは)の一列(ならべ)を生え揃もの故小兒の二歳になるものは凡齒數十六枚あり二年半になるものは凡そ齒數二十枚あるを通例とせり
雙:両,双,二つの
舊:キュウ.ふるい,もとの
注)齒数の単位は「枚」であった.
X:に
而して:しかして.そして
斯(し):これ,この
〇 乳婆の常として兄の玩物(おもちゃ)を象牙の類を興ふるは最も宜しからさることなり小兒は物を咬み試むるものなれば堅牢にして撓ゆまざる物は兒の齦(はぐき)を損い齒に力を費す事多ければ小兒の□康に患害を興ふる事鮮少なら□由て小兒に興ふるは麵包軟革杯(ぱんやわらかきかわ)杯の如き撓軟(やわらか)なるものを好とするなり小兒之れらの如き撓軟なるものを咬み習ふときは齦及ひ齒の働き漸々自由となり将来果して飲食し易きなり
撓まざる:力を加えても曲がらない.しなわない
齦:はぐき
撓軟:やわらかき
〇 小兒の拇指(おやゆび)を甞むるは兒の爲に裨□あるものなり蓋し拇指は樹膠(ごむ)の柔軟(やはらかき)なる如し故に拇指を力□て小兒に甞(なめ)さするときは唾沫にて自から兒の口中を潤し物を哺吸する働を付くるなり特に小兒の未だ齒を生せざるもの常に拇指を甞むるとも決して齦を損ふて□衝する杯の□なく還て齒を生したるとき齦の働き最至便なり且小兒の憤悶して狂猖(くるふ)なるものに拇指を甞さして之を慰藉すれば自から安息して睡眠に就き易きものなり蓋し拇指は兒を安慰(だます)するの方便なれば何程甞させるとも決して小兒に妨けなきものなり泰西の□□杯には往々小兒の拇指を甞むる處あり實に□工の意匠能□兒の眞致(まこと)を摸寫したりといふべし
慰藉:なぐさめていたわる
〇 初生の小兒一年程は拇指を甞むるとも憂ふべきことなけれども兒の齒全く生え揃ひ最早二年餘り生長したる時猶拇指を慕ふて息まさる時は自然常習たるの恐れあれば苦味あるものを拇指に少しく塗り付くべし然らば小兒は之を険悪して兒の偏癖(くせ)を矯(ため)るにゐと手易をきことなり
甞:しょう.なめる.舌で味わう.
矯める:矯正する
〇小兒七歳の頃には大抵齒の抜替るものにて初生齒の脱落(おつる)を待て生涯不易の堅固なる齒を生するものにて其順序は先つ初生齒の漸々緩み出し自然脱落する□成は之を抜きとり置ば同一の塲所へ二度生の齒容易に現るるなり初生の齒は二十枚なれども二度生の齒は追々生揃いて通例三十二枚あるものなり凡て二度生の齒は大切なれば平生注意し悪き不竝(ふならび)の齒を生せば早速老練の齒醫者に謀るべし
謀
〇 齒を堅固に保つには毎朝□湯を以て楊枝(西洋の楊枝にてブラシと云ふ)にて叮嚀に裏表を磨き清潔にすべし□湯は普通の齒磨粉杯より功能多きものあり
明治後期の和英辞書では oblique teeth もある.
叢生齒 Crowded teeth:
植物学の分野では,古くから 「叢生」 という言葉は用いられていた.
"Crowded" の翻譯について:
1872年(明治05):土岐頼徳は,啓蒙養生論の中で,密植と翻訳した.→ See 1872年の項.
1875年(明治08): 小林義直は,マルチンダルの書の中で Crowded を 密接 と翻譯した.→ See 1875年の項.
1879年(明治12): 歯ならびの様相へ叢生が適用された.1892年刊行 「歯科汎論」 .
1907年: 叢生歯 crowded teeth の定義(下図 )として,佐藤運雄 著: 新纂歯科學講義 歯科矯正學(1907)記述された.
佐藤運雄 著 『齒科學通論』 前編(齒牙ノ部) 齒科學報社 1907.
国立国会図書館デジタルコレクション
https://dl.ndl.go.jp/pid/1082343
1981年の
松本光生, 中川皓文 編集
『叢生 : その基礎と臨床』 医歯薬出版 1981.10.
国立国会図書館デジタルコレクション
https://dl.ndl.go.jp/pid/12667016
では,以下のように定義されている.

亂排齒,叢生は,歯列弓内における歯の位置異常の問題であり,咬合異常とは異なる.「歯並びが悪いこと」 と 「咬み合わせが悪いこと」 の区別.社会や国民の価値の変化によって,健康で文化的な生活の基準は変わり,社会政策で取り組むべき社会保障制度,健康/病気の概念も変化する(喫煙,肥満,不妊症,認知症など).
病気とはなんぞ.国民の希求する健康で文化的な生活,歯科矯正医の使命とはなにか.健康上の問題かどうか.
現代では, 著しい歯の位置異常は健康上の問題(社会的・精神的)として,社会参加へのハンディイキャップ(障がい)ともなり,泰西の国々では公的医療保障の対象となっている.ところが,日本国では未だ歯科医療における社会格差による子どもたちの不登校やいじめからかいの一因として社会問題となっている.
必要な歯科矯正医療サービスを,必要な時に負担可能な費用で享受できていない日本の子供たち,歯科矯正医はこれらの本当に治療を求めている患者の存在,公平な歯科矯正医療の配分ができる社会,国民のためにどうすればよいのか考えてみるではないだろうか?

世間では,叢生という用語,上顎前突,下顎前突なども含め,社会的受容には至っていない.
| 現代用語の国民の解釈(国語辞典での表記) | ||||
| 大辞泉 第一版 1995 小学館 | 広辞苑 第4版 1995 岩波書店 | |||
| らん-ぐいば | 【乱杭歯】 戦国時代 | ひどくふぞろいに生えている生えている歯.歯並びの特に悪い歯. | 乱杙のように不揃いに生えた歯.歯ならびの悪い歯. | |
| やえ-ば | 【八重歯】 | 正常の歯列からずれて重なったように生える歯.犬歯によく起こる.鬼歯. | 歯のわきに別に重なったように生える歯. | |
| うけ-ぐち | 【受(け)口】 | 《「うけくち」とも》 下あごが上あごより前に出ている口 | 下唇が上唇よりも出ている口もと.うけくち. | |
| でっ-ぱ | 【出っ歯】 | 《「でば」の音変化》 上あごの前歯が前方に突き出ていること.また,その歯. | (デバの促音化)前歯の前方にそり出たもの.そっぱ. | |
| そう-せい | 【叢生】 | 草木などが群がって生えること. 「葦の叢生する水辺」 | 草木などが群がり生えること. | |
| 歯の 「叢生」 は記載なし.専門用語. 辞書により,口唇とあごの基準の違いあり. | ||||
先達の偉人たちは,歯のナラビが混雑した様 crowded を,亂杭.八重,叢生(草木)などに例えた.「叢生」 だけが選択され,学術用語集に収載されていることはもったいないが事実である.歯科矯正の文化的側面を含めて再考を望みたい.
2) 正木は,「新編 歯科医学概論」の歯科矯正の歴史のなかで(p.220),「歯科矯正学」という用語は,明治22(1899)年に青山松次郎が歯科矯正学を山歯科学院講義録のなかに書いたのが最初である」 と記した二次史料がある.これは,下記の日本歯科評論に連載されたものを成書にまとめたものであるが,雑誌の連載文(1965)にはこの一文がなく,本として出版する段階(1969)で加筆されたものであった.
史実では間違いである.歯科医学概論の本は,1969年,1975年のいづれの版も絶版であるが,この頃の学生はそのように教育されており,今に至っても二次史料を誤認し,孫引用した論文が存在する.
1965年: 「歯科医学概論序説(11)」 日本歯科評論に連載.
1969年: 「歯科医学概論」 出版.
1975年: 「新編歯科医学概論」出版社変更のため第1版.
3) 榊原悠紀田郎は,日本歯科医師会雑誌(第25巻第10号 p.1091-1093 榎本積一と鋳造器)の中で,「わが国の歯科矯正の Case report のもっともはじめのものは,明治24年歯科雑誌(12号)に雑報風に,吉田仙正が前歯の矯正を行った記事がつづいているのがはじめであろうと思われる」 と記した二次史料がある.しかし,歯科雑誌の創刊は,第1号は1890(昭和24)年9月であり,取り違えであろう.これに該当する記事は,1894(明治27)年の5月の歯科雑誌第29号p.229-. に記載されており,4年も後になるので,はじめてとはならない.また前歯ではなく,上顎犬歯を一週間で矯正したとあるが,短い文章である.当時の時代背景の中であり,フォシャールの記述と同じようなものである.一次史料の確認が史学に大切な良い例である.
● 「歴史認識の偏り」 はなぜ起こるのか(医史学における課題)
Lady Justice(正義の女神): 目隠しの理由.

健康で文化的な生活に直接影響する 「教育」 や 「医療」 を受ける機会.これは,富や権力あるいは社会的地位などによって左右されることのない公平・公正な価値判断が求められる.
倫理的判断の一貫性:Lady Justice
わが国における様々な 「歯科矯正の歴史」 に関する記述では,歴史学を述べる前提としての史料(1次史料なのか,2次史料なのかといったこと)に対する批判が十分になされていない.このため,著/述者の身内(同郷,同門,同組織の者)や 報告者の社会的地位(職業など)に対し,公平とはいえないものが多く存在していることが指摘できる.公平な判断をしようとする時,人の倫理的判断には偏りや誤りが生じやすい.普遍的倫理として世界のすべての人に受け入れられる価値判断を行うためには,正当な理由がないかぎり,特定の人(身内,親族,同郷,同門,同大学)や利益に対して特別扱いすることを認めない価値判断が求められる.
公平な視点から過去の歯科矯正の歴史に関する記述を検証すると,その著者と同じ組織にルーツを持つ人物を嚆矢としたり,歯科医師ではない人物(小林義直,河田麟也)は,公正な引用や記述がほとんどなされていない.また,1次史料ではない思い込みや後世の脚色による史伝など,偏りのある見解がそのまま史料批判なく記述されたものが多く確認できる.しかし,このような記述は明治から昭和にかけての社会状況においては仕方がなかったともいえるかもしれない.現在の社会状況のように,いつでも世界中のさまざまな文献を公平に検索することはできず,偏りのある見解やその著者と同じ組織にルーツを持つ人物を嚆矢とすることに,意図的なものはなく,情報がなかったというのが正しいのである.これを示る内容の記述は,戦後の医療福祉改革を担当したサムス氏の回想録にも述べられている.


坂井健雄氏は,その著書(図説 医学の歴史.p.556- 医学書院 2019.)において,現代における医学史の課題として,「現代の医学・医療は,社会とのかかわりが大きいこと,進歩の速度が激しいこと,地域や国内に留まらず世界的な広がりを持つことが大きな特徴であること.対象となる過去の医学が同じであっても,著者の生きる時代によって描こうとする医学史の姿は自ずから違ってくること.」 などをふまえたうえで,留意すべき点として,以下の3点を述べている.
1. 二次文献による過去の歴史記述や評価を援用するような推量による医学史では,医学史上の事実を客観的に評価することはとてもできない.それぞれの時代の医学・医療を客観的に評価するためには,歴史を記述するもの自身が原典資料を解読し,その内容の比較検討をもとに証拠に基ずく医学史を記述すべきであること.
2. 特定の時代や特定の領域の医学・医療をミクロの視点で掘り下げるような各論的医学史では,医学史上の事実を適切に評価するのは困難であり,適切な方法とはいいがたい.医学史上の特定の時代・領域についての評価は,他の時代・領域と比較することによって初めて了解されるように,時代を越えて西洋医学の歴史を俯瞰し,地域を越えて西洋医学を他の伝統医学と比較検討する,幅広い視野の比較医学史の視点から,現代の高度な医学・医療が生み出された理由を初めて明らかにすることができる.
3. 現代医学のルーツやパラダイムの変換点を探し求める遡及的医学史では,医学の発展・進歩の真の姿を描くことはできないだろう.客観的な歴史記述の要点は,ある時代と次の時代の間で共通点と相違点を明らかにし,それを一つ一つ積み上げていくことではないだろうか.現代医学は原初の医学から始まり,時代を経て進化・発展してきたものである.
つたない要約ではあるが,興味ある方は原書(図説 医学の歴史.p.556- 医学書院 2019.)をご参照されたし.
また,中原泉,樋口輝雄氏は,「検証・歯科医学史の書誌.日本歯史学会々誌 29(3): 183-191, 2012.」 において,「歴史は常に勝者のものであり,かつ後世の識者の脚色により歪曲された史伝が定説化していく.そこで,歯科医学史の書誌を検証すると,偏好と過褒という同様の傾向がみられる.それは,史実は客観的に過不足なく記録し,客観的に過不足なく評価することを,私ども後世史家に戒めている」 こと.また,「わが国の歯科医学史の書誌を検証すると,歯科医学史において明治時代前期は,文献のほとんど残っていない先史時代として位置づけられること.旧歯科医師法の制定された明治39年(1906)から,斯界の有史時代が始まるのである.」 と述べている.
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1728年 Pierre Fauchard(1678-1761)
dérangement des dents 歯の乱れ / mal arranges 位置異常 / les dresser 正す
1841年 J. Lefoulon
歯の配列の異常を orthodontosie と述べた.
1844年に,Thomas E. Bond, jr. は,Orthodentosy と英語に翻訳した.
1849年 Chapin A. Harris
歯科医学辞典を編纂し,以下の定義を記述.p.558
ORTHODON'TIA. Dental orthopӕdia; from ορθος, straight, right, and οδους, a tooth. That part of dental surgery which has for its object, the treatment of irregularity of the teeth. See Irregularity of the Teeth, treatment of.
ORTHODON'TIC. Relating to the treatment of irregularity of the teeth.
ORTHOPÆDl'A. From ορθος, straight, right, and παις, a child. The
ORTHOPED'IC. Relating to orthopӕdia.
☛ Irregurality of the teeth. は別項参照.
1867年.ヘボン, J. C. は,「歯並が悪い」
The teeth are irregular.と翻譯.(DEBA 露齒 Projecting teeth. SOPPA 反齒)1872年.土岐頼徳は,「齒列整はぬとき」 の抜歯と翻譯
1873年.横瀬文彦・阿部弘国は,「歯列(ハナラビ)」 と翻譯.
1875年.小林義直は,
irregular を 「歯列不整」 と翻譯.1876年.松本順・澤田俊三は,
double teeth を 「八重歯」 と翻譯.1881年.伊沢道盛は,「齒列を撓匡の術」 と述べ,「撓匡」 という語を用いた.
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Irreulaityof the Teeth:
1881年.山紀齋は,「齒牙鹺てつ(齒に失う)」 と翻譯.
1885年.河田鱗也は,「齒の不整」と翻譯.
orthodontia:
orthodontishe behandlung(英;orthodontic treatment):
1885年.河田 鱗也は,「歯の療法」 と翻訳.
1889年.小林 義直は,「齒列矯正術」 と翻譯.
1892年.山 紀齋は,「鹺てつ(齒に失う)療法」 ,「齒牙鹺てつの療法」 という用語を用いた
1900年.小島原泰民は,「鹺齒矯正術」 という用語を用いた.
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☛ 参考:医学用語としての「健康」の歴史
「矯正歯科」という語の翻訳過程もこれと似たような経過があります.古くは後漢後期の超絶書に,曲がったものを正そうとして力を入れすぎて逆の方向に曲がってしまう「矯枉過正」という語が記載されています.物事を正そうとして、やりすぎてしまえば、新しい偏向や損害を招くということ.曲がっているものをまっすぐにしようとして、力を入れすぎて、逆の方向に曲がってしまうという意味から,「枉れるを矯めて直きに過ぐ」とも読み,江戸時代の漢学者たちの素養の中にあった語でした.
中庸第十章の第一節と第五節にも 「強哉矯。」 として何度も出てきます.
中庸 第十章
子路問強。
子曰。
南方之強與。北方之強與。抑而強與。
ェ柔以ヘ。不報無道。南方之強也。君子居之。
衽金革。死而不厭。北方之強也。而強者居之。
故君子和而不流。強哉矯。
中立而不倚。強哉矯。
國有道不變塞焉。強哉矯。
國無道至死不變。強哉矯。
子路が強について孔子に問うた
孔子はおっしゃった
南方の強さのことか,北方の強さのことか,お前自身の強さのことかと.
寛容で柔和な態度を崩さず道理を教え,無道な暴力に報復せずに耐えるのは,南方の人たちの強さである.これは君子がいる境地である.
金革の鎧を寝具とし,死ぬことも厭わずに敵と戦うのは,北方の人たちの強さである.これは武人の強者がいる境地である.
君子は人と調和しても流されてしまうことはない,これが矯とした真の強さである。
中立してどちらにも極端に偏らない、これが矯とした真の強さである。
国家に道が行われていても自分の昔の信念を変えない、これが矯とした真の強さである。
国家に道が行われずに乱れていても,自分自身は善を行うための道を死ぬまで変えない,これが矯とした真の強さである.
※ 矯 ― 剛強の意.
矯矯(きょうきょう) ― 勇武なさま.志の高いさま.(漢書)
漢和辞典 『字通』 より;
矯 常用漢字 17画
[字音] キョウ(ケウ)
[字訓] ためる・いつわる・つよい
[説文解字]
[字形] 形声
声符は喬(きよう)。〔説文〕五下に「箭(や)を揉(た)むる箝(はめき)なり」とあり、矢がらをただす意とする。箭を正すには寅(いん)の字があり、矢の左右に手を加える形で、寅正の意に用いる。矯には曲げる意があり、〔書、呂刑〕に「奪攘(だつじやう)矯虔(けうけん)」(上命と偽って奪う)、〔書、仲之誥〕「上天を矯誣(けうふ)して以て命を下に布く」、〔左伝、昭二十六年〕「先王を矯誣す」のように、事実を偽り枉げる意に用い、寅正とはまた異なる意がある。喬は高楼の屋上に呪飾としての表木を立てる形。高くして驕る意があり、矯とは、強い力で矯め直すことをいう。〔詩、魯頌、泮水〕に「矯矯たる虎臣 泮(宮)に在りて馘(くわく)を獻ず」とあり、矯歯雛Eの意に用いる。
[訓義]
1. ためる、矢をまっすぐにする、ためき。
2. いつわる、力を加えて改める、みだる、もとる、さからう。
3. あげる、たかくする。
4. つよい、たかぶる。
[古辞書の訓]
〔名義抄〕矯 アザムク・マサシ・カタマシク・タム・カザル・ツク・タダス・オコル・イツハリ・アグ・アカル・タケシ
[語系]
矯・驕 ki ô は同声。蹻 khi ô,高 k ô、翹 gi ô も,みな声義に通ずるところがある。
江戸期の学者たちは,儒学の概念として論語や儒教四書から「矯」の概念を深く学び実践していました.明治2年(1869)の法令全書の中にも 「矯正セシム」 という語がみられ,当時の体操伝習所における教本には,「身体姿勢ノ不正ナルヲ矯正シ以テ美容好姿ナス」 ことを身體美容術,あるいは身体矯正術と記されています.
日本で最初に,歯の移動を 「矯正スル」 としたのは小林義直です.ところが,「新編 歯科医学概論 歯科医学とは何か その歴史と哲学(昭和50, 1975年)」 の成書の220項には,「歯科矯正学という用語は明治32(1899)年に,青山松次郎が歯科矯正学を山歯科医学院講義録の中に書いたのが最初である.」 という一文があります.この一文には引用元の記載がなく,成書として出版されていることから,これをそのまま信頼し,「青山松次郎を歯科矯正の翻訳者」として,若い研究者たちが鵜呑みにして引用された論文がいくつもあることは,大変残念なことです.史実をよく渉猟すると,この著書は,日本歯科評論(1965年12月号)に連載されていた 「歯科医学概論序説」 をまとめて成書としたものなのですが,成書になる以前の連載文には,「青山松次郎が... 」 との一文はありませんでした.つまり,書籍出版の段階(1975年)で,この一文が加筆されたことがわかりましたが,その理由は不明ですが,間違いの源泉になっていたことがわかりました.
また,同時期に,ガレットソンの A System of Oral Surgery: Being a Consideration of the Diseases and Surgery of the Mouth, Jaws, and Associate Parts. 2nd ed. 1873. を,河田鱗也と大月龜太郎が共訳し,「歯科全書」 として出版しています.その Chapter XXI. IRREGULARITIES OF THE TEETH.p.478-494. は,第二十一章 齒ノ不整 と翻譯されており,その部分には "Orthodontia" の単語が2回でてきます.河田は,これを 「歯の療法」 と翻譯していました.やはり,小林義直の漢学の素養を感じます.歯科全書は,直訳であったこと,図がなかったことから,難解な翻訳書となり,評判も良くなかった.ということを,青山松次郎は,のちの回想錄で記載しています.
小林義直は,Parreidt, J. 氏の1886年の著書 Compendium der Zahnheilkunde. Zum Gebrauche für Studierende und Aerzte を譯述(現在の翻訳)し,1889年に 「歯科提要」 という書名で刊行しました.当時は歯科の本はあまりないことから大変好評でよく売れたことも記録されています.そしてこの本の中で 「歯列矯正術」 という日本語が始めて用いられました.史実として,「歯列矯正術」 という用語(矯正のはじめての適用)は,Orthodontishe Behandlung というドイツ語から日本語に翻譯されたものです.
また,この parreidt パライト氏の歯科学書は,同年に Louis Ottofy 氏によって英語にも翻譯され,その中では orthodontic treatment と英訳されています.その英文翻訳書 "A Compendium of Dentistry for the Use of Students and Practitioners" は,全米で販売され,歴史的書として復刻版は amazon などで販売され続けています.ポイントとして,「歯列矯正」 という用語は,小林義直によって,ドイツ語の 「Orthodontishe Behandlung」 から翻訳されたものであったことは重要な点である.小林義直の略歴や業績は後記しますが,多くの専門書を翻訳している.
歴史の切り口・見方にはたくさんの方向があり,時としてその著者の立場によって,史実は誇張されたり,歪められたり,あるいはなかったことにされたりすることさえあります.はたして,「歯学は私学から」 とか 「日本の歯学は米国から学んだ」 という学説は正しいのでしょうか? この時期の歯科矯正に限っても,出版されている書籍に載せられた参考文献の半分異常はドイツ語の論文になっています.また,当時の米国では,ドイツへ留学して学ぶ人が多くおられ,そのころのベルリンには1,000人以上の米国留学生がいたことも記録されています.
先のパライト氏を称えるドイツの追悼文をみますと,パライト氏の書籍は日本語に翻訳され,日本の歯科医学の基礎になったことも記載されています.歴史認識は,それぞれの国によって,自国と他国に与えた影響については常に一致するわけではありません.わが国の歯科医学は,五箇条のご誓文にあるように,日本は 「広く世界から学んだ」 という解釈が正解ではないでしょうか.学問(歯科医学も含む)は,広く世界から学ぶ自由が開国によってなされ,私学や特定の人物からということはなく,当時の情報伝達のスピードを考えれば,広く世界から同時代に多くの人物が学んだのです.特定の組織や人物を誇張したり脚色することは,歴史の偏好と過褒という傾向につながりますので,史実は客観的に過不足なく記録し,客観的に過不足なく評価することを,樋口氏は述べています.
小林義直は医師でも歯科医師でもなく,大学東校を経て内務省で翻訳の仕事をしていました.その生い立ちはこちらをご覧ください.実は,山紀齋,青山松次郎,その兄の青山千代次などは,備前福山や岡山の出身で同郷であり,小林義直は彼らの先輩に当たります.同郷の者の面倒をよく見たことも記録に残されています.山紀齋の一番弟子であった青山千代次(歯科移籍第一号)は,安芸廣島(現在の中区)で歯科医業を始めました.廣島における歯科医業の嚆矢なのですが,現在の原爆ドーム近くのある寺に葬られており,墓石も確認できましたが,広島県歯科医史には彼に関する記録はありません.なぜなかったことにされているのでしょうか?これについては後に詳しく記載いたします.
当時を考証した 「幕末維新期漢学塾の研究(生馬)」 によると,「一度漢学を学んだ学生が外国語を学ぶと発音は悪かったが読書力に至っては,はるかに正則生(外国人から英語を学ぶ)に優っていた」とされています.福山藩にて江木齶水から漢学を学んだ小林義直は,明治期の翻訳プロジェクトにおいて非常に多くの医学書を翻訳しています.史実によると,1855(安政2)年の福山誠之館発会式のおりに,江木齶水は論語を講じており,こうした漢学の素養から 「矯正」 という語をあてたのではないかと推測します.
山直秀氏の翻訳した 『歯科外科医 Chirurgien Dentist(1728)』 にも 矯正 という日本語も出てきます.しかし,原文では dérangement des dents 歯の乱れ,mal arranges 位置異常,les dresser 正す,といったフランス語で記述されており,Orthodontia の用語はまだ用いられていません.また,山紀齋氏の 『鹺てつ(歯失)論』 においても,矯正という語は用いられておらず,彼は,irregularity を 「鹺てつ(歯失)」 と翻訳しましたが定着しませんでした.
小林義直は,備後国福山藩の生まれで,山万太郎(後の紀齋),青山千代次,青山松次郎など,備前・備中・備後の同郷の者の面倒をよく見たとのことです.明治期における文部省国家プロジェクトとして,『百科全書』 など,理系の物理,医学関連の多くの書籍を翻訳しました.晩年,脳症に病み,病床において独逸語の翻訳に取り組んだものが,パライト氏の成書を翻訳した 「歯科提要」 でした.第二版の緒言には,出版後は好評で大いに売れたことが記載されています.すなわち翻訳者によって新たに創られた言葉ではなく,選択され適用された言葉であったと結論されます.矯正という言葉自体は以前からあったものであり,この歯列矯正という翻訳が学術用語として残り,現在に至っています.
irregularity of the teeth
orthodontia
orthodontics
波那美 / 齒幷 / 齒列 / 齒列不整 / 齒牙鹺跌
齒列ヲ正シ(1875)
齒列を撓匡の術(1881)
齒の療法(1885)
齒列矯正術(1889)
矯正歯科学(1906)
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身体の姿勢を正す(美容好姿)ための整美のための徒手体操として 「身體矯正術(身體美容術)」 も古くから用いられていた.あるいは,「矯正施設」 や 「非行を矯正スル」 といった用例,「視力矯正」など.渉猟した限り,明治2年の法令全書に 「弊風を矯正セシム」,1882年には 「身体矯正法」 が全国の尋常小学校などに配布されている.いわゆる ラジオ体操 の全国普及も始まっていました.
出典:
(上左)
『新制体操法』 体操伝習所 明15.6.(1882)
国立国会図書館デジタルコレクション
https://dl.ndl.go.jp/pid/860229
(上右)
増田正章 編 『尋常小学生徒戸外遊戯法』 下 開発社 明20.4.(1887)
国立国会図書館デジタルコレクション
https://dl.ndl.go.jp/pid/860226
岩波書店 広辞苑 第4版 p.670
きょう-せい 【矯正】 欠点をなおし,正しくすること.「歯並びを―する」
―・いん【矯正院】
―・きょういく【矯正教育】
―・じゅつ【矯正術】@身体の姿勢を矯正するために行う徒手体操.A機械的作用を応用して,人体骨関節系の運動障害または変形を手術せずに矯正する術
―・しょぶん【矯正処分】
―・やく【矯正薬】
小学館 大辞泉 第1版 p.693
きょう-せい 【矯正】〘名〙スル 1⃣ 欠点・悪習などを正常な状態に直すこと.「発音を―する」 「歯列―」 2⃣ 刑務所・少年院などに収容されている人たちの改善更生のための処遇を行うこと.従来の「行刑」に代わって用いられている語.「―施設」 「―職員」
―いん【矯正院】
―きょういく【矯正教育】
―じゅつ【矯正術】四肢の変形などを,機器を用いて矯正する術.また,身体の姿勢を正すための徒手体操.
―しりょく【矯正視力】
―ほご【矯正保護】
―やく【矯正薬】
以上についてまとめると,矯正という言葉,「矯正術」,「矯正セシム」 や 「補綴セル」 という日本語は,漢学に由来した言葉であり,日本国にイーストレーキ氏が西洋歯科醫術を伝える遥か以前,中国大陸における後漢初期(西暦25年〜250)に書かれた春秋戦国時代の吾と越に関する書物 『越絶書』 の 「越絶篇叙外伝記」 にまで遡ることができます.
『康熙字典』 より
鹺
齒失
跌

【さてつについて; @ 鹺跌 と A 鹺てつ(齒失)】
保齒新論では, 「鹺跌」 と訳されているが,
講義録では, 「鹺てつ(齒に失と書く)」 が用いられている
※ 鹺跌は,irregularity を翻訳したものである.

A History of Dental and Oral Science in America. / by James E. Dexter 1876. P.108-
本書は,米国歯科科学会 American Academy of Dental Science がとりまとめ,p.108-111 に IRREGULARITIES(齒の不正)の記述がある.
この全文を直訳したものは,山歯科醫学院講義録第六巻に 「歯科学術沿革史」 として転記されている.
☛ 山齒科醫学院講義録(歴史)鹺てつ(齒失)は p.251-258

『山歯科医学院講義録』 第6巻 p.251 山歯科医学院
国立国会図書館デジタルコレクション
https://dl.ndl.go.jp/pid/836548
1728 Pierre Fauchard(1678-1761)
dérangement des dents 歯の乱れ / mal arranges 位置異常 / les dresser 正す
1841年 J. Lefoulon
歯の配列の異常を orthodontosie と述べた.
1844年に,Thomas E. Bond, jr. は,Orthodentosy と英語に翻訳した.
1849 Chapin A. Harris
歯科医学辞典を編纂し,以下の定義を記述.p.558
ORTHODON'TIA. Dental orthopӕdia; from ορθος, straight, right, and οδους, a tooth. That part of dental surgery which has for its object, the treatment of irregularity of the teeth. See Irregularity of the Teeth, treatmeot of.
ORTHODON'TIC. Relating to the treatment of irregularity of the teeth.
ORTHOPÆDl'A. From ορθος, straight, right, and παις, a child. The
ORTHOPED'IC. Relating to orthopӕdia.
Irreurality of the teeth. は別項参照.
本国 は; - - - - - - - - - - - - -
0712年.太安万侶は,波那美波 志比斯那須(歯並を椎や菱)と例えた.齒黒.
irregular:
1867年.ヘボン(Hepburn,J.C.)は,歯並が悪い The teeth are irregular. と翻譯.
1872年.土岐頼徳は,齒列整はぬとき の抜歯と翻譯
1873年.横瀬文彦・阿部弘国は,「歯列(ハナラビ)」 と翻譯.
1875年.小林義直は,irregular を 「歯列不整」 と翻譯.
1876年.松本順・澤田俊三は,double teeth を 「八重歯」 と翻譯.
1881年.伊沢道盛は,「齒列を撓匡の術」 と述べた.
Irreulaity of the Teeth:
1881年.山紀齋は,「齒牙鹺てつ(齒に失う)」 と翻譯.
1885年.河田鱗也は,「齒の不整」と翻譯.
Orthodontishe Behandlung(英;orthodontic treatment):
1885年.河田鱗也は,orthodontia を「歯の療法」と翻譯.
1889年.小林義直は,「齒列矯正術」 と翻譯.
1892年.山紀齋は,「鹺てつ(齒に失う)療法」 という用語を用いた.
1900年.小島原泰民は,「鹺齒矯正術」 という用語を用いた.
【まとめ】
1. 歯並びや姿勢は,わが国においても古代(古事記)より対人関係において重要なものであった.
2. 「矯正」 という日本語は漢学に由来し,その概念はずっと以前から存在し,日常的に使用されていた.
3. 歯並に関する翻譯は,1867年の ヘボン Hepburn J.C. の 「和英語林集成」 が嚆矢とされる.
4. 齒列を撓匡の術,鹺てつ療法,歯列矯正,鹺齒矯正 といったいくつかの候補中から,しだいに選択され,現在に至った.
5. 漢学の素養があった小林義直によって考案適用された「矯正」が,現在に至り選択され使用されている.
6. 歯科の教科書は,ドイツ語や英語の書籍の直訳,抜粋抄録,翻訳したものが多く出回っていた.
— 明治期の翻訳された養生書,養生 hygine ,健康 health,病院
養生文化は中国が起源であり,紀元前の商(殷),西周の時代にまでさかのぼり,経書 『周来』 「天官」 には,専門医の毎年のテストなどの記載があると,謝心範氏はその著書 「養生の知慧と気の思想」 で述べている.この当時の日本は,まだ弥生時代から古墳時代であり,日本での 「養生」 という言葉は,伊予国風早(現在の愛媛県北条市)の人で歴代天皇に使えて始めて養生に関する記述を行った 物部広泉 が 『摂養要訣』20巻を著したのが始めである.とのことである.また,江戸時代までの養生に関する書籍の著者は100名を超え,これらの詳細も謝氏の書に丁寧に記載されている.
以下に,明治期において,齒に関する 「養生」 と名のついた書をあげた.いずれも明治以降,医学書の翻訳によるものである.学問としての「歯科(歯科矯正)」が成立する以前は,その記述は種々の一般的養生書や医学書の中に散在して見られ,多くは医師や歯科医ではない蘭学医や翻訳者によって書かれていた.
【日本の養生書:】
成立年不詳 『摂養要訣』20巻 物部広泉(平安前期の医師)
1712(正徳02) 養生訓
>>>江戸時代までに 100を超える養生書がある
「齒の不正」 や 「生え変わりによる位置異常」 を記述した書は年表にも記載.
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1872(明治05) 養生新論 鈴木良輔 譯
1872(明治05) 啓蒙養生訓 土岐頼徳 纂輯
1873(明治06) 西洋養生論 横瀬文彦,阿部弘国 譯
1875(明治08) 四民須知養生浅説 小林義直 譯
1876(明治09) 育児小言(智巴士氏) 松本順 閲,澤田俊三譯
1879(明治12) 小學校用養生淺説 小林義直 譯述
1879(明治12) 小学校用養生浅説釈解 小林義直 校閲,三田利徳 編輯
1879(明治12) 齒乃養生法 小幡英之介 閲,桐村克己 譯
1881(明治14) 保齒新論 山紀齋 述
1882(明治15) 齒の養生 山紀齋 述
1890(明治23) 通俗 齒の養生法 山紀齋 演述,和田中 筆記
1890(明治23) 齒之羪生法 塩島栄作 著
1906(明治39) 官報 10月30日 文部省令第17號 法令上の授業課目 矯正齒科學 となる.
1912(明治45) 通俗 齒の養生法 齒科衛生普及會 編纂
ここでは、これらの課題に入る前提として、日本の近代化の過程において、近代西欧起源の「学問」を受容・継受した、いわゆる 「輸入」 したという歴史について一言触れておきたい。重要なことは、その時期が、欧米において「学問」が概ね専門分化を遂げた直後の19世紀後半であったという事実である。特に、日本が受容した欧米の人文学及び社会科学とは、知の全体としての総合性や体系性を保とうとする「学問」というよりも、西洋社会において専門分化を遂げた「個別科学」であったのである。おそらく、このような歴史的な経緯が、その後の日本の「学問」の在り様を規定していると考えられる。このことは、「サイエンス」の訳語として、専門分化を前提とした「科の学」としての「科学」という日本語が当てられたということにも現れていると言ってよい。
このように、西洋社会において専門分化を遂げた「個別科学」を受容・継受したことが、結果的に日本の人文学及び社会科学の展開の中で、人間、社会、歴史、文明といったものを俯瞰しつつ総合的にとらえる視点の確立を阻害する要因として作用した可能性を考えることができる。この問題は、一種の歴史的な宿命と言わざるをえないものであるが、日本の「学問」の在り方を考えるに当たり、踏まえておくことが必要な視点と考えられる。